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マネキン屋

ラムの店が舞台の、ちょっとした任務の話。


物語というより創作イラストのキャラの活躍をまとめたものなので、登場人物や世界観は省いています。

登場人物はpixivで公開しています。

https://www.pixiv.net/users/57219133


 挿絵(By みてみん)


 昼か夜かわからないクーロン内部。


 扉に付いたベルが軽く鳴る。開店前のラムの店に、一人の人物がやってきた。

 穏やかな目元に眼鏡とオールバック姿。葉だ。

 やって来た葉を見るなり、バーカウンターを拭きながらまだ何も言ってない葉に向かってラムはぶっきらぼうに口を開いた。

「仕事だろ?あいつ(ハイリ—)がやるって言うなら俺は構わねぇよ」

「いつも話が早くて助かります。今回はもう一つあなたに頼みたいことがあります」

 葉は眼鏡のフレームを親指と中指で持ち上げた。

「?」

「シュエガオの護衛を頼みたいのです」

 ラムは意味が分からず一瞬表情が曇る。そして理解した。

「…?…まさか。()()でやるのか?」

「念のためです」


 ラムと葉は、ステージ前のテーブル席に移動した。数人のスタッフは開店準備に追われてたが、ハイリ—とシュエガオの姿は見えない。奥の楽屋にいるようだ。

「マネキン屋をご存知ですか?」

「いいや」

「最近この界隈にやって来た人物なんですが、あっという間に若い年代層の間で話題になってるんです。ですがマネキンを買った人物は数日後に姿を消しているんです」

「まあ、穏やかじゃないがそれがウチと何の関係が?」

「メイリンが調べた所、次のターゲットを突き留めました」

「なるほど。それがハイリ—だって訳ね」

 葉は穏やかに頷いて見せた。

「今夜からメイリンをハイリ—のサポートのために中に入れます。ですがあなたの営業の邪魔はしませんのでご安心を。普段通りでお願いします」

 ラムは腕組みをしながら葉に訊ねた。

「その、いなくなってるって奴らの共通点はわかってるのか?」

「十代後半から三十代くらいまで。現在までで18人が行方不明ということしかわかっていません。ただ、行方不明者は失踪する前に、それまで興味のなかった他愛もない物に異常に執着していたようです。櫛、バケツ、豆電球、さらには豚肉など…話すのはここまでにしましょう。これ以上は気分を害する内容になるので」

 葉は内容とは逆に、さらりと爽やかにそう話した。


 

 その晩、メイリンが張り込む一方で、クラブは通常営業が続けられたが、マネキン屋は現れなかった。

 次の夜も、その次の夜もマネキン屋は現れなかった。

 葉が最初に訪ねてきてから約2週間程経つ頃、張り込みがバレてマネキン屋に逃げられてしまったのではないかとさえ思い始めていたある日。


「責任者はいますか?ヒッヒッ」

 店が終わり閉店作業をしているところに、頬の落ちくぼんだ猫背で痩せた中年の男がやってきた。

 バーテンスタッフに呼ばれたラムが店の奥からやってきた。

「どこのどなたさんだ?もう店は閉めてんだ」

「ちょいとこの近くに店を構えている商人です。マネキンをね、扱ってるんでさ」

男とラムの会話に、身を潜めているメイリンが反応する。ついにマネキン屋が現れた。

 しかし、昨晩だってしっかり見張っていたし、マネキン屋の顔だって何度も写真で確認していたのに、いつの間に店にやって来ていたのか。

「いやね、噂を聞いて今晩、いや、もう日付けまたいだから昨晩ですかねえ。初めてこのクラブに来たんですが、今まで見たどこのステージよりも最高だったと伝えたくてね。ヒッヒッ」

 薄気味悪い笑みを浮かべ、手をゴマすりのようが手つきでもむ男。

「特にハイリ—ちゃん!いやー、いい声していたねえ!」

「そりゃどうも。さ、帰ってくれ。片付けの邪魔だ」

 ラムは至って冷めて、普段通りにあしらった。

「ちょ、ちょ、ちょ!それでね旦那、このクラブにさらに人気の相乗効果を生み出すうちの商品を紹介したくてね、ヒッヒッ」

「相乗効果?」

 いかにも怪しい言葉に、ラムは露骨に訝しむ視線を向けた。

「そう!お宅のハイリ—ちゃん!聞いたらなんと人気No.1だってんじゃない!だからハイリ—ちゃんのマネキン!これを店に置いたら誰でもハイリ—ちゃんを独占出来ちゃう!いいでしょ、これ!どう?」

「おれの趣味じゃね…」

「あら、別にいいんじゃない?私が増えてお客も喜んでくれるならいいと思うけど?」

 着替えが済んだ当のハイリ—本人がいつの間にかラムの背後にいた。

 いつもながらのラムの冷めた対応。メイリンに守られる前は自身も組織に所属していた。男の誘いを断ってしまっては任務が進まない、そう思って気を利かせたハイリー。

 ハイリ—本人に会えたことでマネキン屋のテンションも一気に上がる。

「ご本人からそう聞けるとは!ヒッヒッ、そう言ってもらえると思って、もう外に用意してあるんでさあ!」


 店の中に白い布が被せられた、等身大の人の形をしたものがマネキン屋によってホールステージに次々と運ばれてくる。

「まずは三体!いつもは顔なんざ作らないんだけどね、個人仕様にしたのは今回が初めて!ハイリ—ちゃんは特別だからね、特注品の特注だよ!」

 マネキン屋が人形に被せられた布を次々と取っていく。

 すると、ハイリ—と気味悪い程、瓜二つの顔をしたマネキンの姿が現れた。

 これを見たホール天井に身を潜めていたメイリンはなるほどと思った。こんな精巧に作り込んでいるのであれば、きっと別人の面を作るのもお手の物だと。その面をしていたから、きっと昨晩現れていても気づけなかったのだろう。

 ハイリ—はマネキンを見て、さすがに恐いと思ったのか一瞬表情を崩した。それをラムも見逃さなかった。

「ねぇ?今日初めてウチに来たのよね?どうしてもう私の顔が作ら…」

 そこまで言い掛けた時。突然、脳を糸で締め付けられるような鋭い音が鳴り響いた。ホールにいる全員が耳を塞ぎ、その場にうずくまる。

 ただ一人を除いては。

 マネキン屋だけは平然と突っ立ったままだった。

 この鋭い音は三体のマネキンから発せられていた。実際には音は聞こえない無音で、脳に直接作用するようだった。

 ラムとハイリ—も苦痛に顔を歪め、耳を塞いだままその場から動けず、天井に身を潜めているメイリンも精神を集中してただ耐えるだけで精いっぱいだった。

 この時、シュエガオは奥の楽屋ですでに眠りについていたため無事だった。

「ハイリ—ちゃんはもらって行くよ~、ヒッヒッ。体を研究して新しいマネキンを作っちゃうんだよ」

 マネキン屋は不気味な笑いとともに、動けずにいるハイリ—に近づいて行く。


 ———そこへ。

 メイリンのこめかみ、耳裏、首筋にと、次々と手を当てていく誰かの手。

 次の瞬間、メイリンは動けるようになっていた。

「動ける。どうして…」

 メイリンが振り向くと、そこには鉾の武器を携えにんまりと笑ったユイリンがいた。

「ツボを押して一時的に聴覚を麻痺させたんだ」


 マネキン屋はうずくまっているハイリ—を連れて行こうとするが、自分があまりに小柄なせいでなかなかハイリ—を引っ張っていけない。

 その様子を見たメイリンとユイリンは目を合わせると、一気に動いた。

 メイリンは気色悪いハイリーマネキンの一つに、思い切り拳を入れる。拳はマネキンの背中から現れた。

 ユイリンは鉾を振り回し、マネキン2体の頭を飛ばし、足を飛ばし、マネキンをバラバラに壊す。

「ヒィィ...!私の、私の大作がああ!」

 メイリンは脚でマネキン屋の腕を弾き、ハイリーから離した。続いてユイリンがマネキン家の腹に鉾の柄を思いきり突き立てる。

「仲間は?本当の目的は何?失踪した人たちはどこに居るの?」

「何のこと…あだっ!」

 ユイリンは腹に突き立てた鉾の柄にさらに力を入れる。

「ほ、本当に、ごほっ。ハイリ—ちゃんの体を…。声が…素敵すぎ…」

 ユイリンは鉾を半回転させ、刃の部分をマネキン屋の頭に振り下ろした。

 何度も呼ばれるハイリ—のちゃんづけが気色悪く耐えられなくなったらしい。

「あ!やば、手が滑った!」

「痛っ!やめて~」

 マネキン屋の情けない悲鳴。

 メイリンは一瞬呆れて、ため息を吐く。

「理由がないわけ訳ないでしょう!失踪した人たちは物に異常に執着、それも普段から目にしてる何気ないもの。コレクターや収集ってレベルじゃないわ!」

 そしてマネキン屋のあばら骨あたりに片膝を付けて、男の上半身の動きを封じた。

「あんた、本当に白状しないと後でほんっっとうに痛い目に遭うわよ」

「マネキンをうっ!売った後の事は知らな…ぅ。私はひ…客の…プライ…バシーは守…」

「おい…そこに体重かけすぎるとそいつ死ぬぞ」

 鋭い音から解放されたラムは、言いにくそうに頭を掻きながらメイリンに諭した。

 あらっ、と声をあげてどいたものの、マネキン屋はついに泡をふいた。

 ユイリンはマネキン屋の胸に耳を当てる。

「大丈夫。まだ生きてる。んじゃ、コイツ葉さんのとこ連れてくわ。面倒だから葉さんに絞ってもらうよ」

「あ、そういえば、ユイってばいつの間に来てたのよ。歯医者での怪奇現象が起こるっていう任務に行ってなかった?まあ、お陰で助かったけど…」

「メイリンの変装が面白そうだと思って」

「残念でした!変装なんてしてないわよ!」

 ユイリンはマネキン屋を肩に乗せると、そそくさとラムの店を出て行った。


「それにしても腑に落ちないわね。事件に関して知らないなんて犯人の常套句だけど、あいつ、嘘を言っているような気はしなかった。それに失踪した人たちが物に異常に執着してしまう原因がマネキン屋にあるとも思えない気がする」

 メイリンは腕を組んで眉間にしわを寄せた。

 ラムは座り込んでいたハイリ—の腕を引いて立たせた。

「ええ。単独でやったとしたら、本人は気付かないところで誰かに上手く利用されてる。今回の件は質が悪そうね」

「なんかきな臭いな。裏に組織があるような感じがしねえのが余計に」

 ハイリ—は組織に居た頃の気持ちがうずいてきた。悪党を暴いて捕まえたい。捕まえるだけでなく、それに見合っただけの罰を受けさせたいと。

 ラムと葉が会話していた時に聞こえた、気分を害する内容になる、ていう話を聞いて実はなんとなく失踪者の行方は予想がついていた。多分もう手遅れ。

「とりあえずこのマネキン、後で回収に来るわね。もしかしたら何か見つかるかもしれないし」

 メイリンは引き続き調査をする必要があると告げ、ラムの店を出て行った。

 

 後日、失踪者は各々執着していた”物”の姿として発見されることとなる。

失踪事件は、別場所でのサイドストーリー「地陰天陽是制約」にも多少繋がっています。

https://ncode.syosetu.com/n9289hz/

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