↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見て、月だよ  作者: 不覚たん
第三部 白

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/82

足跡をたどって 二

 進むにつれて、なんだか薄暗くなってきた。

 それもそのはず、天井に吊られた白熱灯が、ほとんど割れている。どう考えても治安はよくない。


 お化け屋敷かよ……と思わなくもないが。

 いや、比喩ではなく、ここは事実としてお化け屋敷なのだ。妖怪たちが住んでいる。不命者と呼ばないと差別に当たるらしいが。こちらを餌としか思わないヤツ相手に配慮が必要なのか、いまいち自信がない。


「ボス、術でサーチしてるってことは、もう居場所が分かってるってことなんですよね?」

「いいえ」

 いいえ?

 それ以上の説明はない。

 だが、ここで食いつかないと、ただ情報を逃すだけだ。うるさいと思われても追求しなくては。

「なら、俺たちはいったいなにを追っているんです?」

「あくまで痕跡ですよ。これをたどれば最終的に見つかるはずです」

「そうですか」

 まあ、見つかるのだ。

 たまこの居場所につながっている。


 赤尾さんが疲れた顔で、誰にともなくぼやいた。

「なんかイヤな予感がするなぁ」

 ロクなことを言わない。

 予感だけなら、最初からずっと悪い。常に誰かの視線を感じる。実際、あまり襲ってこないだけで、みんな脇道からこちらを食う機会をうかがっているのだ。

「怖いこと言うのヤメてくださいよ」

「いや、だって、さすがに俺たちだってこんなところまで来たことないしさ。ねえ? ボスもありませんよね?」

 この問いに、ボスは即答しなかった。

 だが、無視するのも悪いと思ったのだろう。少しだけ振り返り、眉をひそめた。

「ありますよ、私は」

「え、ある? そうなの? へえ。いったいなんの用で?」

「仕事ですよ」

 まあそうだ。

 趣味で来るような場所じゃない。


 壁にはときおり「呪」やら「殺」やら不穏な文字が書かれているし、道の脇にはなんだか分からない小石が積まれていたりもする。鬱屈したなにかを呪いとしてぶつけているかのように。

 空気も淀んでいる。

 パキっと家鳴りもする。どこかで水道管を使っているもする。遠くの地響きのような音。じゃぶじゃぶという水音。ダンダンダンと壁を叩く音。


 やがて声が聞こえてきた。

 ひっ、ひっ、と、ひきつるような、女の鳴き声。

 住居と住居の間、脇道になっているところに、赤い服を来た女がへたり込んでいた。これが生倉さんの言っていた罠なのか……?

 俺たちは声もかけずに通り過ぎた。

 声が遠ざかってゆく。


 いや、これで終わりじゃない。


 俺は抜刀し、背後からの攻撃を弾いた。

 薄暗い廊下に火花が散った。女の突き出した出刃包丁が、俺の背を狙っていたのだ。俺の刃は欠けなかったが、敵の刃は欠けた。強烈な一撃だった。手にビリビリくる。


「ひぃーっ! ひぃーっ!」

 女は笑っているのかなんだか分からないが、血走った目でこちらを見ていた。過呼吸気味のようだ。深呼吸したほうがいい。

 だが、俺が反撃に出るより先に、エネルギー弾が女の額を撃ち抜いた。生倉さんが銃を発砲したのだ。


「まだ来るぞ」

 赤尾さんは通路の奥へ発砲した。二発、三発。

 生倉さんは逆側へ発砲を開始した。

 何発も。

 火薬で撃ち出す銃弾ではない。光が尾を引いて飛翔する。目で追える速度だ。俊敏なヤツなら回避できるかもしれない。


 発砲が終わると、床には数名の遺体が転がった。

 頭にツノはない。

 だが、人間でもあるまい。

 なんだか分からないが、とにかく人殺しだ。


 生倉さんは少し苦しそうに呼吸をしながら、銃をおさめた。

「殺人通りに足を踏み入れていたようです」

「殺人通り?」

「本館の各地に、集団で狩りをするグループが点在しています。ここはそのうちのひとつでしょう」

「分かってたんなら教えてくださいよ」

「分かっていたら教えています。彼らは常に場所を移動しますから。どこにあるかは、そこに行くまで分からないのです」

 銃を撃つのに力を使ったせいか、彼女の応対は余裕を失っていた。

 まあ、俺がクソみたいな苦情を口にしたせいでもあるが。

 今日は反省することが多い。


「すみません。よく知りもしないのに……」

「いえ。戦闘直後で、私も気が高ぶっていました。お互いさまということにしましょう」

 大人だな。

 だが、この好意に甘えて、俺はさらなるクソ質問をしてしまうわけだ。

「それで、たまこは近いんですか?」

「分かりません」


 まるで自動車で家族旅行をしているガキが「いつつくの?」を連呼しているかのようだ。

 俺は小学生のころからメンタルが成長していないのかもしれない。

 早く大人になりたい。


 *


 階段は、各地に分散していた。

 一気に上へは行けない。

 あがっては移動し、あがっては移動し、そして階段を見つけてまた探す。その繰り返しだ。


 禁足地、御所、事務所は同じフロアにあった。あれが一番安全なフロアなのだ。そこから遠ざかるにつれ、危険度も高まってゆくようだ。

 俺のカウントが間違っていなければ、いま六階ほどあがった。

 たまこはどこまで行ったのだろう?

 禁足地の樹からは遠ざかっている。だから、親を探しに行ったわけではない。そうなると……いったいなにを探しているのか? 目的もなく上を目指しているのか? それとも、誰も負ってこないように、わざと危険な場所へ入り込んだのか?


 えっ?

 あれ?

 俺の……見間違いか?


「生倉さん、ちょっと」

「はい?」

「赤尾さんがいません」

「えっ?」

 振り返ってもいない。

 音もなくいなくなった。


 いつからだ?

 どこで消えた?

 まさか、逃げた? 一人で?


 生倉さんが印でサーチを始めた。そして慌てて引き返した。

「ああ、ここです。落とし穴です」

「えっ?」

 よくよく目を凝らすと、床板に細工が施されていた。踏み抜くと、ちょうどその人物のいる床が抜け、階下へ引きずり込む仕掛けのようだ。少し板を押してみるが、下は真っ暗。なんだか妙な音がする気もするが。


 生倉さんは絶望的な表情になった。

「この下で、命を絶たれたようです」

「えっ?」

「すみません。私のミスです。術で作られた罠ばかり警戒して、物理的な罠まで気が回りませんでした」

「死んだんですか?」

「ええ」


 なんだよ、急に。

 こんなにあっけなく殺されるのか?


「じゃあ、赤尾さんは……」

「きっと御所の近くで蘇生していると思います」

「……」

 返事もできなかった。

 これからさらにヤバい場所へ乗り込むというのに、戦力が低下してしまった。


「行きましょう。あまり時間をかけると、主が現れます」

「引き返したほうがいいのでは?」

「それも選択肢のひとつですが、いまは進みましょう。私たちには反魂の護符があるのですから」

 あっても死ぬのはゴメンだ。

 この人はなぜ平気なんだろう。


 俺は立ちあがり、生倉さんの隣についた。

「ずいぶん慣れてますね」

「初めてではありませんから」

「なんの仕事だったんです?」

「行方不明の父を探していました。依頼主は私自身です」

 なるほど。

 そして失敗したのだろう。

 もし成功していたら、いまでもどこかにいるはずなのだから。


「どこまで探したんです?」

「十二階まで行きました。運がよかったんです。そこで父と再会できまして」

「えっ?」

「父も探偵でした。いえ、探偵というより何でも屋ですね。ある日、モノを盗まれたという依頼主が現れて……。父はそれを取り返すため、上階を目指しました。そして見事に見つけ出し、盗品を持ち帰ったのです。呪術的価値もない、木彫りのオブジェです。しかし、それはとある部族の御神体でした。父は騙されて、盗賊の片棒を担いでしまったのです」


 騙すほうが悪い。

 それは間違いない。

 だが、自分の身を守るためにも、少しは人を疑うということをしたほうがいいのだろう。


 ボスは淡々と言葉を続けた。

「数日後、父は一人でいるところを誘拐されました。犯人は……言うまでもありませんね。私はその場所を聞いていましたから、急いで現場へ向かいました。まだ術もロクに使えないのに。本当に、そこへたどりつけたのは運がよかったとしか言えません。いえ、いまにして思えば、彼らが私を通したのかもしれませんが」

「それで……?」

「ええ。父と再会しました。生きたまま刺身にされて、食べられるところでした」

「……」


 最悪の結末だ。

 続きは言わなくてもいい。


 彼女も詳しくは語らなかった。

「そこのボスに言われたのです。私のことは、許す、と。ただし次また来たら、父と同じ方法で殺すと言われました」

「やっぱり引き返したほうが……」

「私はあのころとは違います。銃も扱えるし、術も鍛えました。一人じゃありません」

 俺は思わず足を止めた。

「いや、待ってくださいよ。まさか、そいつらと戦うつもりですか?」

「反魂の護符があるのです。あなたも手を貸してください」

「そんな話は聞いてない」

「逃げても恨みません。ですが、たまこさんを探したいのですよね? ちょうど方向が同じではありませんか? 私の依頼を手伝ってくれてもバチは当たらないと思いますが?」

「そんな……。ちょっと考えさせてくださいよ……」

 なんでいきなりこんなことを言い出すんだ。

 やけに先を急ぐからおかしいとは思ったが。


「そこの壁、気を付けてください。罠ですよ」

「おっと」

 危うく寄りかかるところだった。

 妙な穴が空いている。どうせロクでもないものが出てくるのだろう。


 いったいなんなのだこのクソアパートは。

 ただでさえクソなのに、罠まみれにしやがって。


 考えるのはヤメだ。前へ進むしかない。

「分かりました。やりますよ。ずっと助けられっぱなしだったし、ちょうど恩返ししたいと思ってたところですからね」

 というのはウソだが。

 もうヤケクソだ。

 報酬の代わりに俺を雇いたいと言ったときから、ずっとこれを計画してたんだろう。赤尾さんを雇ったのもきっと同じ理由だ。戦力を増やしたかったのだ。


 生倉さんは目を細め、笑った。つくりものみたいな顔で。

「よろしくお願いしますね」

「はい」

 まあ反魂の札があるのだ。

 あまり深刻にならずに行こう。

 生きようが死のうが、どちらにせよ無事に帰ることができるのだから。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。