降水確率
鬱蒼とした緑の香りを含む空気が水気を帯び重たく、制服の上から肌に吸い付く季節。先程の授業で使った体育着の入った部活用バックを教室の自席の何もかかっていないフックにひっかける。
ふと、すぐそばの窓の外を見上げると朝よりもどんよりとした暗い雲が鱗をつくり広がっていた。きっとそのうち降り始めるかもしれない。
今日の部活も筋トレか。
筋トレが大事なのはわかるが3日連続の筋トレメニューに気分が少し沈む。
気持ちを小さな溜め息に乗せ視線を落とすと体育館の入り口から少し離れたベンチの近くに立つ1組の男女が目に入った。
1人は隣のクラスの女子。もう1人はくしゃっとした癖毛にへらっとした人懐っこい顔の俺の友達。今はいつもの気の抜けた顔ではなく眉毛を寄せて少し困った顔で目の前の女子を見ている。
「おやおや、色男め~」
突然の声に驚きつつ隣を見ると幼馴染みのサツキが口角をニヤつかせ眼下の2人を観ていた。
「ユウジめっちゃ困ってんじゃん。ウケる。」
そう感想を述べながら手にした紙パックにストローをぷすりと差し込む。
「ちゃかすなよ。」
先程の部活バックとは反対側のフックにかけてある黒いバックを机の上にドンと乗せ、中のプリントの海をかき分け水筒と弁当を救い出す。
「あ、これうんまぁ!のんでみ?めっちゃイケる!」
そういって差し出された紙パックには黄緑地に濃い紫色で『あずき抹茶オレ』とかかれていた。
「新発売って書いてあったからつい買っちゃった。あずきがタピオカみたいでめっちゃ合う!」
ほれほれと近づくストローを手のひらで遮り『よく買う気になったな』と言葉を送る。
サツキは美味しいのにとぶつぶつ文句をたれたが俺は聞き流し、机の上のバックをフックに戻した。
「あ」
今度は何かとサツキを見る。
「あーあ、かわいそー。女子きっと泣いてるよー。」
サツキのあわれな目線の先に先程の女子の立ち去る後ろ姿がチラリとうつり校舎の影に消えた。その事に心が密かにホッと息をつく。
「あ、ねえ。一緒にお昼食べない?」
久しぶりにどう?とサツキの瞳に俺が映る。それとほぼ同時に教室の入り口でサツキを呼ぶ声があがる。
「おい。呼ばれてるぞ。」
そう返すとサツキはぷくりと頬を膨らませひと睨みし、次の瞬間には満面の笑顔で教室の入り口に向かって『今いくー』と声をかける。
すると今度は外からユウジがサツキを呼んだ。サツキは窓を開け『なにー?』と声を投げる。ユウジが久しぶりに一緒に昼食べないかと誘う言葉が聞こえた。
「ざんねーん!友達と食べるー!」
バイバイと手を振り窓から1歩離れると今度は俺の顔を見て『今度お昼たべようね』と笑顔を残し、教室の入り口に跳ねるようにかけていった。
俺はもう一度窓の外をみて、ユウジに「休み時間無くなるぞ」と声をかける。ユウジはいつものへらっとした顔で『ちょい待って』と声をあげ校舎の中へと消えた。
少し高鳴る心臓に落ち着けと命令し、窓と共に自身の気持ちを閉める。
このままずっと見つからないように。
周りにも。
自分にも。
呼んでくださりありがとうございました。
ちょっと梅雨には早いかなと思いつつ書きました。