死亡計画【草案】
【概要】
上手く死ぬための計画。
【経緯】
人は死ぬものだ。
積み立てがどう、親の定年がどう、面倒を見る・見られない。
そういった話が出るのは詰まる所、私の将来を案じて、不自由ない未来を過ごせるようにと口出ししているに違いないと、私は思う。
そして、私は穏やかな未来というものを求めていない。
未来への楽しみなど無い。
将来への夢など無い。
明日への希望など無い。
私が求めるのはただ、苦しまぬ死だ。
上手く生きたいとは思わない。
不自由のない老後など求めない。
人との出会いを求めない。
温かな家庭を築きたいとは思わない。
「そんなことでは生きていけない」と言うのならば、生きなければ良い。
今は未だ、死ぬのは怖い。
だから今死のうとは思わない。
だけどいつかは死が訪れる。
その時、自分がどう在りたいか。
悲しい想いをするくらいなら、苦しい想いをするくらいなら、辛い想いをするくらいなら。
将来出会うかもしれない愛する人も、大好きなアーティストの新曲も、読み続けている漫画の続巻も、友達と遊ぶ予定も、全部差し出せる。
死ぬことで、苦しみから逃れることは出来るかもしれない。
でもそれと同時に、未来の喜びも手放してしまうのだと、説得されることもあった。
でも、それが何だと言うのだ。
私は喜びを手放したいとは言っていない。
今の、この、苦しみから、逃れたいと言っている。
明日も、明後日も、その先も、苦しまずに居られるなら、その方が良いに決まっている。
先は見えない。
だから、今後起きるかもしれない楽しみとやらも見えない。
そんなものは、本当に存在するのかどうかも分からない。
他の誰かの人生において本当に在ったとしても、それが私にも在るとは限らない。
だから他人の言葉に縋ることは出来ない。
望んで、信じて、裏切られたら辛いではないか。
実在するかも分からない未来の喜び。
それは、現時点では無いにも等しいのではないか。
確実に存在する未来の苦しみ。
好きでもない人との付き合い。納期。身体の痛み。不甲斐無い自分への憤り。
確実に苦しい未来など、生きたいとは思わない。
生きてさえいれば、なんて希望は私は抱かない。
今死にたいわけでもない。だって、死ぬって痛いじゃないか、苦しいじゃないか。
それが嫌なんだ。
安楽死出来るなら、数日好きに遊んだ後、喜んで死のう。
でも今は、それを許してくれないそうだから。
ただ、苦しまないように。
未来を楽に生きる方法ではなく、如何に苦しまずに死ぬかを、準備したい。
人によって辛いも楽しいも、感じ方はそれぞれらしい。
体力の限界も、価値観も、皆違う。
世に出回る本なんて参考に出来ない。
あれは作者の教科書だ。
自分の限界を知る。
自分の苦しみを知る。
自分の強みを知る。
自分の理想を知る。
その為に僕は綴る。
過去を振り返り、自己を分析する。
そして考える。
「〇〇という1人の人間の、一番苦しまない人生とはどんなものか」
希望を詰め込み出したら、苦しい道程になるに違いない。
だから、理想を求めるんじゃない。現実的に。そして、客観的に。
自分の将来だと思うと苦しくなる。足が竦んでしまう。
考えることを放棄して、逃げ出してしまう。
だから、ただ1キャラクターとして。
この人物にとって一番辛くない人生とはどんなものか。
どうすればそれを手に入れられるのか。その過程にはどんなものが必要か。
だから。
僕は綴る。
僕の物語を。
生まれてから、現在までの記憶。現在から死亡までの想定。予定。道標。
これが、僕の死亡計画。
【計画について】
自身の記憶を振り返り、自己を分析する。
記憶の採取は、可能な限り時系列順に行う。
ただし、記憶とは正確に時系列順に確保出来るとは限らぬものである。
よって各エピソードは以下のように分類することで、万が一時系列が前後しても後程識別が可能な状態にしておく。
1-X:卒園までの記憶
2-X:小学校の記憶
3-X:中学校の記憶
4-X:高等学校の記憶
5-X:大学の記憶
6-X:社会の記憶
X-X:未来の想定。仮説。思考実験。実験の結果、計画より排除の可能性有り。
《日報》XXXXX(YYYY/MM/DD):リアルタイム報告。当日の記録。
レポートX:一定期間のエピソードまとめ。記憶分析結果。
欠片X:記憶との紐づけが困難であるもの
夢想X:希望。憧れ。現実を見ない妄想。本当に欲しかったもの。
雑音《ノイズ》X:不要なもの。負の塊。消したくなるであろう汚いもの。
※記憶記載例※
1-1、1-2、3-1、5-1、2-1、3-2、1-3
時系列で物事を追いたい場合は、以下のように閲読すること。
1-1、1-2、1-3、2-1、3-1、3-2、5-1
※レポートにより、各エピソード概要を把握可能なものとする※
※レポートは、雑音《ノイズ》の内容を含まないことに注意※
※雑音《ノイズ》は、後日削除の可能性があることを留意※
※計画者は、雑音《ノイズ》の内容に十分注意すること※
【終わりに】
これは物語だ。小説だ。
個人情報保護の観点も踏まえ、一部虚偽・創作の記載を許容する。
そもそも記憶の掘り起こしが主である。
記憶なんて、正確とは限らないのだから今更だ。
そもそも、私が記憶だと思っているものだって。
現実のことであったと、どうして証明出来ようか。