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エレベーターの扉がすっと開いた。動いている様子も止まった気配も全くしなかった。あのときのタクシーと同じだ。
「では、行きます」
妖精の声がわずかに緊張しているようだ。
正面の廊下を真っ直ぐに進み、突き当りの部屋の扉の前まで歩を止めた。
「要請主様、人間様を連れてまいりました」
妖精が落ち着いた声で言った。
「どうぞお入り下さい」
まさかの男性の声だった。
妖精界のトップは綺麗な女性だとばかり思っていたので、瞬間左足の膝がカクンと折れそうになった。
妖精が扉を開きすぐに俺を紹介した。
俺は「こんにちは」と挨拶をした。
「そうか、そういう事があったのですか。それは大変お世話になりましたね」
主様の言葉に俺は照れながらも、「いやー、そんな大したことでは無いですよ」と答えた。
「今日はゆっくりできるのでしょう?すぐに準備をさせます」
主様はそう言って妖精に俺を案内するように言った。俺は頭を軽く下げると主様の部屋を後にした。