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ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー  作者: びーぜろ


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第395話  苦笑い

 平然とした面持ちで事務所に入ってきた高橋翔の姿を見て池谷は顔を強張らせる。


「な、何故……」


 何故、この男がここに……

 選挙事務所立ち上げの際、雇った秘書には自分の許可なく事務所に人を立ち入らせる事を禁じていた。


 受話器を持ったまま、呆然と立ち尽くしていると、高橋翔はナンバーディスプレイに視線を向け首を傾げる。


「当選おめでとうございますと、言いに来たんですけど……何故、当選してすぐ仁海に連絡を取ろうとしてるんですか? どうせ取ることなんてできやしないのに……」

「……っ!?」


 朗らかな笑顔から無表情への急転直下。


ナンバーディスプレイに写る仁海の名前を見られてしまったことに、池谷は心の中で狼狽する。


 驚きと緊張の中、受話器を外すと、『プルルルルップルルルルッ』というコール音が室内に鳴り響く。

 いつも使っているスピーカー機能が災いした。

 電話を切りたくても切れない空気感。

 池谷は首を傾げる高橋翔を前に冷や汗を流す。


「……えっと、質問の意図が分からないのかな? 何故、電話を掛けても出る事のない相手に電話を掛けているのかと聞いてるんだけど?」

「……はっ?」


 今、この男はなんと言った??

 電話を掛けても出る事のない相手とはどういう意味だ??


 虚しく響くコール音が留守番電話サービスに切り替わり池谷は呆然とした表情を浮かべる。


「う、嘘……」


 これまで、仁海が電話に出なかった事など一度もない。

 例え、本人が出られない状況にあっても、私設秘書が必ず電話に出る為だ。

 その秘書すら電話に出ない事に、池谷は驚愕の表情を浮かべる。


「ど、どういうこと??」


 一体、何が起こっているの……?


 狼狽しながらもそう尋ねると、高橋翔はさも当然の様に言う。


「言葉の通りだよ。仁海が電話に出る事は金輪際ない。だって、俺と間違え暴力団の若頭相手に闇バイト嗾け攫おうとしたんだもん。ただで済むはずがない。それに、あんたもその事は知っていたよね?」

「……っ!?」


 た、確かに、仁海の電話から間接的にそう聞いたけど……!

 心の中では、高橋翔を攫って意のままに操るなんて絶対無理だって思っていた訳で、別に知ってて知らんぷりした訳じゃない。


「――わ、私は……!」


 訂正の言葉を紡ごうと声を上げると、高橋翔は首を横に振る。


「いやいや、分かっていますって……仁海の奴がそう言ってきたのを聞いただけで本気で俺の事を攫えるとは思っていなかったんですよね?」


 い、いや、そうだけれどもっ!?


「まあ、俺は心が広いのでその程度の事であれば許して上げますよ。それで? 何故、仁海に連絡しようとしていたんですか?」


 その瞬間、事務所内に重い空気が漂う。


 マズい……マズい。マズい。マズい。

 誤魔化さなければ……!

 誤魔化さなければ、大変な事がわが身に降りかかる!

 何かないか、何かないかッ! 誤魔化す手段は何かないかッ!


「じ、仁海先生に当選のご報告をと……」


 なんとか紡いだ言葉がこれだった。

 まったくもって弁解にもなっていない。

 池谷の言葉に高橋翔は呆れたと言わんばかりの表情を浮かべた。


「わかんない人だなぁ……ここは都議会でも国会でもない。そんな、曖昧な答弁が通じると本気で思っているのか?」


 高橋翔はため息を吐くと、「あまり使いたくなかったんだけどなぁ……」と呟き、池谷に視線を向けた。


「……命令だ。何故、仁海に電話をかけようとした?」

「そ、それは……ぐっ!?」


 その瞬間、締まる首。

 首に隷属の首輪が嵌められている事を思い出した池谷は必至になって真実を述べる。


「と、都議会運営を円滑に進める為、仁海先生に議員達との仲介のお願いをしようと連絡しました……」


 真実を口にした瞬間、首が緩む。

 それを見た高橋翔は深いため息を吐いた。


「呆れて物も言えないな。お前、自分が何をされたのか忘れたのか?」

「わ、私だって……!」


 私だって好きでそんな選択肢を選んだ訳ではない。

 これまでの経験から実効性が一番高いと感じた為、選択したのだ。それを政治のせの字も知らない奴に言われたくない。

 すると、高橋翔はまるで心を読んだかの様に言う。


「……そんな馬鹿げた選択肢に囚われてるから足元を掬われるんだよ。お前には俺に協力を仰ぐという選択肢があるだろう? お前のことを裏切り、再選は無理だとあざ笑い、マスゴミと手を取り合い虚実塗れの情報をばら撒いたゴミ共と手を取って何になる。ゴミは所詮ゴミだ。そんな生産性のない税金を垂れ流すだけの浪費家見たいなクズ共と手を取り合うだけ時間の無駄だ。どうせ奴はらすぐに手の平を返す。権力に溺れ腐った人間の成れの果て……それがお前を裏切った奴等の本質なんだからさ。もっとよく考えろよ」


 酷い言われようである。

 その理論だと、私も腐った人間の成れの果てということになるのだが……


 そんな事を考えていると、高橋翔は池谷の心を読み取ったかの様に頷く。


「……そうだよ。お前はその中でも特に酷い。腐った人間の筆頭みたいな存在だ。他の奴らと違うのは、人に手酷く裏切られた経験を持ち、それなりの利用価値がある点だけ……俺はそれ以外、何も評価していない」

「……!?」


 酷い。あまりに酷い評価。

 既に折れかけた心が今度こそ本当に折れそうだ。

 この男のタチの悪い所は、権力者と違うベクトルの力を持っている点。

 金を持っている為、金には靡かず、肩書にはなんの興味を示さない。

 そして、万が一、この男の意に反する事をすれば、数百倍のしっぺ返しが待っている。


 無理だ。この男を制御する事は不可能。

 ある意味、暴力団と対峙するより難しい。


「……だからさ。一度、リセットしよう」


 途中から話を聞いていなかった池谷はその言葉に戦慄する。


「ま、まさか……それは……」

「理解が早くて助かるよ」


いや、何も理解していないんですけど……


まだ、何も理解していないのに高橋翔は、池谷が自分が何を求めているのか分かった体で話を進める。


「それじゃあ、都議会を解散してみようか。一度は全会一致で不信任決議を通したんだ。彼らも解散される覚悟位持っている筈さ。何より、今は、百条委員会の不祥事が明らかになったばかり……都民も情報漏洩した上、その責任を一人の議員に押し付け、自殺させる様なクズ共に任せたくはないだろう……少なくとも、俺はそんな奴らに都政を任せたくない」


 議員一人に責任すべてを押し付け自殺させたのは紛れもなく現百条委員会の責任だ。

 人殺しに都政は任せられない。


「し、しかし、解散するには不信任議決権の行使が必要で……」

「安心しろ。百条委員会は今、全国民から集中砲火を浴びている。その矛先をズラすため、必ずもう一度、不信任議決権を通してくるさ……」


 まあ、万が一、不信任議決権を通してこなくても、俺がそれを強制する。

 それで晴れて解散だ。

 議会に所属する議員を一斉に辞めさせ、選挙を実施することで、議員を総入れ替えする。世の中には、無所属議員を装い国民を欺く詐欺師の様な立候補者が多く存在する。

 そういう詐欺師ごと税金に巣食うクズ共の総入れ替えし、都政を正常な状態に導く。

 今回も、都民には、投票に行き、情報の取捨選択を自分で行ない、自分の判断で投票するよう呼び掛けるので、組織票は役に立たない。

 それに、今回の都議会選挙には、俺が所属する宝くじ協議会の連中を立候補させる予定だ。

 どうなるか分からないが、組織票が役に立たない以上、不祥事を起こした議員より有利に選挙を進める事ができる。

 おそらく解散選挙に億単位の費用が掛かるだろうが、兆単位の歳入をコイツらに食い潰されるより遥かにマシだ。


「だから、あんたは安心して解散選挙に踏み切ってくれ」


 高橋翔の言葉に池谷は苦笑いを浮かべる事しかできなかった。

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