第384話 スパイとは処分に困る生ごみである
「ぐっ、放せ! 私を誰だと思っている!」
どうやらこの助祭は、自分が教会関係者である事がバレ混乱している様だ。
折角、兵士に引き渡したと言うのに、往生際が悪い事この上ない。
しかも、自分が何者であるかすら忘れてしまったらしい。
「生きた生ゴミ」
困った表情を浮かべる兵士に代わり、丁寧な口調で、セントラル王国にとって害をなす二足歩行で歩き、食ってクソして寝るだけの生ゴミである事を伝えると、助祭は目を剥き絶叫を上げた。
「んんんんんんんんんっ!? ふ、ふざけるなァァァァ!」
人に向かってふざけるなとは失礼な奴だ。
生憎、俺はこの手の冗談は言わない。言う時は本気でそう思っている時だ。
「ふざけてない。俺は心の底からお前の事を生ゴミだと思っている。お前は自分が誰であるのかわからないようだったので教えてやったのに失礼じゃないか」
そう言って、本心を伝えると、助祭は目を血走らせる。
「貴様ァァァァ!」
やれやれ、困った御仁だ。
セントラル王国に蔓延る聖国のスパイの分際でキレ散らかすとは……
それに、貴様ァァァァ!等と言われても返答に困る。
貴様ァァァァ!と怒鳴る生ゴミにどう返答したらいいかわからない。
「まあ、どうでもいいか……」
この男が処分に困る生ゴミである事に変わりはない。
「いい加減大人しくしろ!」
「ぐぅえぶっ!?」
レンティは兵士に押さえ付けられると、苦悶の表情を浮かべる。
しかし、反省の色はまったくない様だ。
俺を睨み付けると、笑いながら負け犬の遠吠えを上げる。
「――ふふふ、良い気になるなよ……私の仇は教皇様が打ってくださる。この国が聖国の属国となった時、お前は報いを受ける事になるだろう」
「ほう……」
他力本願な上、願望に縋り付くとは何とも哀れ。教皇も無能な部下を持つと大変だ。折角だ。最後の最後まで無能を晒し散って貰おう。
闇の精霊・ジェイドの力を借り、感情の赴くままレンティが喋れるよう理性という名の枷を取り除き質問する。
「つまりお前は、聖国がこの国を侵略すると……そう言っているのか?」
すると、俺に侮辱され頭に血が上っているのも相まってその効果は劇的に現れた。
「――当然だ! 我々の役割は教皇様が事を成す為の時間稼ぎに過ぎん! 常日頃から教会に設置された魔法陣を通し、帝国や王国の情報収集を入念に行っていた! 知らぬのは愚鈍で馬鹿なお前達位のものだ! 近い将来、この国は聖国の属国となる! 私を捕らえたからといって良い気になるなよ! セントラル王国に滅びを! ミズガルズ聖国に祝福を! 今際の際を精々楽しむがいい!」
超絶馬鹿……ここに極まりだ。
ジェイドの力を借りたとはいえ、この男、自分が何を言ったかわかっているのだろうか?
「なるほど、日頃から諜報活動に精を出していたと……実に勤勉だな」
「当然だ! それが新教皇のご意思なのだからなぁ! 新教皇は枢機卿になられた時から今を見据え諜報活動に励むよう教会関係者の一部の者に指示を出された! 教会の中でも我々は特別な存在なのだ!」
教会の中でも特別な存在とは片腹痛い。
「つまり、一部の者が新教皇の意思に従い諜報活動に熱を入れていたと?」
「ああ、その通りだ!」
「……そうか。聞きたい話は全部聞く事ができたよ。ありがとう。そして、さようなら」
「あん?」
――パチン
指を弾き、闇の精霊・ジェイド越しに再び心の枷を嵌めてやると、レンティは顔を徐々に青褪めさせる。
「――ち、違っ……私はそんなつもりで言った訳じゃ……」
「じゃあ、どんなつもりで私は聖国のスパイだと自白したんだ?」
闇の精霊・ジェイドに心の枷を外されていたとはいえ、自らの勤勉さを饒舌に語っていたじゃないか。あれは何だったんだ?
冗談か? それとも虚言か? まさか妄想じゃないよな?
だとしたら、可哀そうな奴だ。
「……もしかしたら知らないかも知れないから一応、教えておこう。セントラル王国においてスパイ活動を行った者の末路は無期懲役または死罪の二つだけだ」
この国の法律は、諸外国におけるスパイ防止法並に厳しい。
まあスパイ活動をしなければ一生無縁な法律だが、日本にもそういう輩が蔓延っていると聞くからな。セントラル王国を見習ってスパイ防止法を作り国中にいるスパイを売国奴諸共牢屋にぶち込み私財すべてを利子付きで国庫に返納して欲しい位だ。
とはいえ、今、日本の事は関係ない。
雑談が過ぎた様だ。
「つまり、今、セントラル王国内でスパイ活動をしていたお前の未来が盛大な音を立てて崩れ去った訳だが、ちゃんと理解してる?」
「お、おおおおおおおおおっ……」
どうやら理解したくないらしい。
レンティは天井を見上げながら雄叫びを上げる。
「そ、そんな馬鹿な……そんな馬鹿なァァァァ! これは何かの陰謀だ。私を嵌める為の陰謀だ。誰だ! 私を嵌めようとしているのは! お前か! お前だなこの異端者めェェェェ!!」
「いや、お前が自分で自白したんだろうが……頭大丈夫か、お前? ついでに言えば、お前がスパイ宣言した事でこれから大捕物が行われる可能性が出てきた。もしかしたら、お前がスパイ情報を国に漏らさぬよう、これから口封じ……なんてこともあるかも知れないな……」
スパイともなれば、その愛国精神から情報を渡さぬよう死を選びそうなものだが……
「い、嫌だ……嫌だ! 私はまだ死にたくない!」
どうやらこいつに愛国精神はないらしい。
むしろ、よくこんな奴が聖国の助祭になれたものだと感心してしまう。
「頼む。頼む! 私を守ってくれ! 情報が必要なら何でも話す! 何でも話すから頼む!」
「ああ、わかったよ」
とはいえ、こいつが正しい情報を渡すか分からない。
「尋問には闇の精霊・ジェイドを立ち会わせよう。安心して欲しい。俺は、これでも顔が広いんだ。お前が安心してすべての情報を喋るよう働きかけてやるよ。その上で、国の裁定を受け入れな」
そうすれば、多分、殺されはしないさ。
多分だけどな……。
俺が笑みを浮かべると、レンティは顔を青褪めさせた。





