第七話:邂逅
ルナのオリジナル魔道具である『叡智の宝玉』完全版それで俺を鑑定すると『叡智の宝玉』不完全版で得られる情報よりも質の良いものを得られるらしい。
「やりかたは不完全版と同じでいいんだな?」
「ええ」
青く透き通った玉に手を翳す。すると自動的に魂の情報を読み取り、解読できる形で表示してくれるようだ。魂には様々な情報が刻まれており、記憶やギフト、今回で言えば称号もその範囲に入るのだとか。種族や性別、身体能力、技術などは魂に刻まれていないので表示できない。更に、記憶とは膨大な情報の塊であるため、表示できない。
俺が手を翳すと瞬時に文字が浮かび上がる。ただこれは魔法文字と呼ばれるもので解読方法がわかっていなければ読み解けないものであり、俺にはさっぱりだ。
魔法文字をルナに翻訳してもらうことで初めて俺のギフトや称号がわかる。
ルナによると俺の鑑定結果は
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ギフト 『剣術(十)』、『魔法(七)』
称号 『無才の研鑽者』、『創造神の寵愛』、『元勇者』
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「おおっ!……ん?」
ギフトがかなり上位のものだ!これは嬉しい。剣術が十階位に魔法が七階位だとは……。
だが、いや、十階位?これは聞いたことがない階位だが既存のギフトより更に上の階位があったということだろうか。ギフトは九階位までのはず……。
それに称号も分からないものが多い。
「疑問に思うところがあるみたいね。私もよ。この称号……。いえ、上から見ていきましょうか」
ルナが翻訳しているので俺のギフトと称号は当然わかっている。ルナは称号に引っ掛かりを覚えたみたいだ。
「まずギフトからね。剣術が十階位……これは不完全な『叡智の宝玉』では鑑定出来ない高位のギフトね。魔法も七階位と高い。願ったりかなったりなんじゃない?」
「十階位、か。一体どれくらいのものか今から楽しみだ。魔法もいいな。身体強化なんかも発動しやすくて戦術の幅が広がる」
「十階位は英雄が約束された強さね。スポンジのように知識や技術を吸収できるわ。七階位はそれには至らないけど、今の私くらいの強さには十年でなれるわよ」
「英雄が約束された強さか……。フフッ」
最強の自分を未来に思い描いて、ガラでもないのに笑みが零れる。
「次は称号、ね。ギフトもかなり優秀だけれど、称号が一番意味わからないわ。『無才の研鑽者』の獲得条件がギフトなしの状態で五年修練を積むこと。十一から冒険者目指して頑張っていたなら納得できるわね。それの効果が……」
「まて。称号に効果があるのか?」
「ええ、それを成し遂げた者への褒美ってところでしょうね」
「ふむ……」
ルナが言う俺の称号の効果はこうだ。
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無才の研鑽者
獲得条件:ギフト無しの状態で五年修練を積んだ者に贈られる
発動効果:際限なく成長できる
創造神の寵愛
獲得条件:創造神ヴェーダから寵愛を受けた者に贈られる
発動効果:死に直面しにくくなる
元勇者
獲得条件:前世が勇者だった者に贈られる
発動効果:覚醒したときに『勇者』と同等の効果を得る
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『元勇者』は納得できる称号だ。前世が勇者で、生まれ変わったから元勇者。非常にわかりやすい。条件付きだが勇者と同等の効果を得るのもいい。だが覚醒という単語は聞き覚えがない上に、そもそも『勇者』がどんな効果を持っているのか知らない。
『無才の研鑽者』は良い称号だ。強くなるうえで躓くことがないに違いない。
『創造神の寵愛』はなぜ獲得に至ったのかがよくわからないが、この効果のおかげでこれまで生き残って来れたのだろう。
「私が一番気になったのはギフトよりこっち。『創造神の寵愛』と『元勇者』の称号よ。『無才の研鑽者』はこれまで話を聞いてて納得できる話だったから、非常に有用な称号だけどひとまず置いておくわね。まずあなた、前世が勇者だったのね?」
この質問をした瞬間、ルナからプレッシャーが放たれる。さっきの戦闘よりも強い気配……。これは本気だな。何か間違ったことを言ったら殺される気がする。
「……ああ、その通りだ」
俺は慎重に返事をする。いくら上位のギフトを得たからと言ってすぐ強くなれるわけではないのだ。
「それはどれくらい前の?」
「初代……、人族では最初に現れた勇者だとされている。年数で言えば千年ほど前になるか」
勇者は古代から現代にいたるまで複数の勇者が存在している。俺は人族で確認できる限り一番古い、初代勇者だ。
「討伐した魔王はどんな見た目だった?」
「竜、だったな。とてつもなく巨大な。全身が黒い鱗で覆われ、目は血のように赤く輝いていた」
俺が討伐した魔王もこれまた人族が確認できる限り最古の魔王だった。魔物の大軍を引き連れ、人類の文明を荒らして回った歴史上最強の魔王だとされている。
この質問が終わってからルナの強大なプレッシャーは鳴りを潜めた。
ここまで威圧しながら尋問してただの好奇心、なんてことはないだろう。つまり……。
「そう……。色々言いたいことはあるだろうけど、まず私のギフトと称号を見てもらうわね」
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ギフト:『魔道具作成(十)』、『魔法(九)』
称号:『創造神の寵愛』、『元魔王』
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「元……魔王!?」
俺は剣を構えようとしてやめる。今戦ったとしてルナ相手では勝ち目がない。そしてルナは俺の称号を見た瞬間、俺を攻撃できた。それは敵意がない、ということである。……恐らく。
「私の前世は魔王。それも千年前にあなたと戦って敗れただろう魔王よ。正直、かなり驚いたわ。最古の魔王と初代勇者の転生体が同じ時代に生まれ変わるなんてね」
「なぜ魔王が……それに『創造神の寵愛』も。創造神ヴェーダとはいったい何者なんだ」
分からないことばかりで頭が混乱する。
「順を追って説明するわね。まず魔王とは何か……。魔王とは邪神に操られた魂が動かす悪意の結晶とも言える存在よ。邪神は創造神を含めた神と対立する、世界を滅ぼそうとする高位存在」
「邪神……。聞いたことがない。魔王が操られていたということも」
信じがたい話だ。だが聞かねばならない。これは俺の問題でもあるかもしれないのだから。
「で、しょうね。なぜなら邪神の存在を知るのは神と、魔王として支配されていた中で自我を確立した者のみだから」
「ルナは、前世で操られていた……?そして自我を確立したが、邪神の精神操作には抗えず世界を破滅へ導こうとした、ということか?」
「概ねその通りね。ただ私が精神操作されたんじゃなくて、魔王の中に二つ人格があったという感じかしら。私は……魔王の悪行を一番近いところから見ていたの……」
初めて見せる悲痛な顔でルナは淡々と話す。
「そう、か……」
事実だとしたら居たたまれない話だ。何も出来ずにただ自分の意思に反した悪行を見せつけられ、人生をめちゃくちゃにされたのだから。相当悔しく、憎かっただろう。
「私は邪神に復讐を決意したわ。自分が何も出来なかった無念をそのまま邪神にぶつけてやるのよ。私を敵に回したことを後悔するくらいに。……その意思を拾ってくれたのがヴェーダだった」
「創造神か……。そいつがルナを転生させたのか?」
「ええ。多分あなたもそうだと思うわ。私は転生したときにヴェーダに会った。でも様子から察するにソルは違うようね」
「そうだな。俺は魔王を倒した後は覚えていないが、何か記憶の欠落でもあったんだろう。気づいたときには赤ん坊だったな。……そういえば人族が崇めている唯一神の名前もヴェーダ、だったか?」
確かそうだったような気がする。全く宗教に興味がなく、縋るわけでもなかったから曖昧な知識だ。
「そうなの?魔人族は無宗派だからヴェーダへの糸口はなかったけど、人族にならありそうね」
ルナの話は耳を疑うようなものばかりだったが、今のルナには魔王らしさが見受けられない。全面的に信用することはなくても、少しは信用しても罰は当たらないだろう。