第一話:冒険者登録
ギフト。それは神から授かる才能だ。人によって授かるギフトは様々だが、大抵の場合は生活で少し役に立つか立たないか程度のギフトを授かるものだ。ごく稀にギフトを授かることが出来ない者も存在するが、それは運がないと諦めるものだ。
そしてそのギフトには段階が存在する。それは専用の魔道具で測ることによって調べることができ、九つの階位に分かれている。
数字が大きくなるほどその希少性と有用性は高くなり、平民であっても七階位以上のギフトを持っているとなれば国から招集が掛かり、非常に重用される存在となる、と言えばギフトの階位の重要性がわかるだろうか。
ギフトの階位が高いほど、その分野に対する知識や経験を積みやすい。つまりギフトは人の成長速度に嫌が応でも入り込んでくるのだ。
それで何が起こると言えば、生まれた時点で人間の価値がほとんど決まってしまう。あまりよくないことではあるが、この世界では当たり前のことであり、多少疑問視する者はいても声高に何かをいう者は存在しない。
そんな世界で俺は才能を授からないハズレだった。歴史を通してみるとハズレの人間が英雄として名を残していることもあるが、さすがに俺もそうであると希望的観測をすることは出来ない。
つまり俺は才能がない状態で、努力のみで強さを得る必要になるのだ。非常に厳しいことだが、一度心に決めたことだ。あのような悲劇をもう目の前で起こさせるわけにはいかない。
それに悲観することばかりではないのだ。俺の村は盗賊に襲われ、女子供は連れていかれた。それは奴隷にはなっているかもしれないが、俺の家族や村のみんながまだ生きているかもしれないということだ。当時、俺は一人っ子ではなく、妹が二人いたのだ。そして父は殺されてしまったが母は生きているかもしれない。それだけで俺の目標たり得る。
妹二人と母を取り戻すための旅がこれから始まる。
◆
十五になった日、俺は早速冒険者ギルドに赴き冒険者登録をすることにした。喧噪が支配するロビーを抜け、受付の前に立つ。
現在の時刻は朝。冒険者が依頼を受けに受付に並ぶためこの時間帯は混むことが多い。俺は今日の依頼はどれにしようかと依頼を吟味している冒険者を横目に、今空いたカウンターへ歩く。そこには美しいと言っても差支えのない受付嬢がいた。他の受付でも同じように見た目の良い受付嬢が事務作業と並行して受付をこなしているようだ。
「いらっしゃいませ。初めて見る顔ですね。依頼の申請ですか?それとも冒険者登録ですか?」
「登録のほうで頼むよ」
「かしこまりました。こちらに『叡智の宝玉』がありますが、使用なされますか?」
『叡智の宝玉』とはギフトを測定する魔道具である。浮き上がる文様によってギフトの良し悪しを判別するらしいが、素人目には何をしているのかよくわからない。大体五歳になった年に『叡智の宝玉』でギフトを測定するのが一般的だ。
ここに置いてある理由は冒険者カードに測定した数字を書き込むためだろう。一目でその者の将来性がわかるため、パーティーを組むときは重宝しそうだ。
そうは言っても俺はギフトを持っていないのでパーティーには入れるかどうかと言ったら疑問だが。当分はソロで活動することを心がけないといけない。
「いや、測定はやめておこう」
「そうですか……。それだとパーティーが組みにくくなるかもしれませんがよろしいですか?ギフトの数字で判断する冒険者も多くいらっしゃいますので……」
「ああ、問題ない」
そもそも俺の目的と一致する仲間が出来るとは思えない。奴隷になっているかもしれない故郷の村人探しなど、誰が手伝ってくれるだろうか。その日暮らしが多い冒険者にはあまり期待できない。
「……かしこまりました。あとはお名前を聞くのみで登録が完了しますのでお伺いしてもよろしいでしょうか」
「俺の名前はソルという。しかし……登録がこんなに簡単でいいのか?」
もう少しややこしい手続きをするものだと思っていたがこれでは少し拍子抜けだ。
「ええ、冒険者カードに記入するのはその冒険者の名前とランク、ギフトとその階位だけですので。それでは今から冒険者カードを制作しますので少々お時間をいただきます」
そしておよそ五分後、冒険者ギルドのロビーで待っていた俺は受付嬢に呼び出されて受付に向かう。
「こちらがソルさんの冒険者カードになります。身分証として提示を求められることもありますので常に携行するように心がけてくださいね。なお、紛失した場合には再発行に千グレスいただきますのでご了承ください」
グレスとはこの国の名前であり、金額の単位だ。登録の冒険者カードは無料で、再発行に千グレスは高いが無くさないように気をつけろということなのだろう。ちなみに千グレスあればその日の食費と宿代にはなる。
そして渡された冒険者カードには俺の名前である『名前:ソル』、『ランク:E』、『ギフト:未測定』と刻まれている。素材は鉄のようで水に濡れても大丈夫そうだ。
名前とギフトはそのまま見た通りだが、ランクというのは冒険者の階級を指すものだ。AからEまで存在しており、俺は初心冒険者だからEというわけだ。
「わかった。ところで武器は持っていないんだが……」
「それならギルドのほうでいくらか貸出しているものがあります。大きな傷が付いたり破損されたりしない場合には無料となっておりますのでご活用ください。何か使われる武器種にご希望はございますか?」
「そうだな……。片手剣と丸盾があればそれを」
これは孤児院に来ていた冒険者から教わった剣術が片手剣のものだからだ。どちらも初心者でも扱いやすい。
「かしこまりました。ではこちらに」
そういって案内されたのは武器庫のようなところだ。使い古された武器がところ狭しと並んでいるが、無料で借りられるだけありがたいだろう。
「ところで破損した場合はいくら弁償なんだ?」
「それは借りる武器の質によって変わりますが、平均五千グレスほどでしょうか」
「質と言うのは?」
「そのまま切れ味や耐久性、素材の良し悪しですね。例えばこれを破損してしまった場合は一万グレスほどになります」
受付嬢が指さしたのは周りにある武器に比べて少し高級そうな幅広剣だった。一応、前世で俺が使っていた武器ではあるが、今の俺では筋量が足りずに武器に振り回される未来が見える。いずれ使えるようになればそれに越したことはないのだが……。幅広剣は選択肢には入らないが、大体の基準がわかった。
受付嬢を待たせているのが少し申し訳なかったが、じっくりと吟味して俺が使う武器を選んだ。俺の命を守るものであるからこれは妥協できない。
弁償する場合は三千グレスほどの安物の剣だったが、その値段にしては使い勝手がよく気に入ったものだ。盾はそれと同程度のもので軽めの物をえらんだ。主に剣で戦うスタイルなため戦闘の主軸にはならないが、いざというときに身を護るものであるために軽くて最低一発は敵の攻撃を受けられるものだ。
いずれこの武器では物足りなくなるだろうが、変えたくなったらここに来ればいいだろう。
「待たせて悪かったな」
「いえこれも仕事ですし、冒険者を失うことはギルドの損失になりますので」
なるほど、先ほどから思っていたがかなり職務に忠実な受付嬢のようだ。
それはそれとして。いざ、初めての依頼を受けるべく、俺はギルドの受付まで戻った。