第十四話:大胆な潜入任務
そして極秘依頼を決行する夜になった。
俺たち三人はギルマスの部屋で最終打ち合わせをしている。
「確認だが、俺たちは出来るだけ注意を惹きつつ違法奴隷を救出する……でいいんだよな」
「そうじゃ」
「やることが多すぎないか?」
そうこれは単純な疑問だ。信頼からくる作戦内容だとは思えない。効率で考えるならもう一班作って役割を分けたほうがいいと思うのだが。
「人員の不足じゃよ。調査班は潜伏と調査のみで目立つ戦闘は苦手じゃからのぉ」
「それでもギルドマスターなら信頼できる冒険者なんて何人もいるだろう?」
「それは時の運がなかったんじゃな。そういう冒険者は大抵泊りがけの長い旅に行ってしまうんじゃ」
「ふむ……」
どうにも腑に落ちないが、理由を話してくれる様子ではない。
流石にこれが罠ではないと思うので後でまた聞いてみるか。
◆
それから少しあと、俺とルナとハンスはベルツ伯爵の屋敷の前にやってきていた。
ここから正面突破で潜入するわけだが、せっかくルナに教えてもらった潜伏系の魔法は途中まで活躍しそうにないな。目立つのが作戦の一つだから。
「ます、私からいくつか魔法を掛けるわね。身体強化と暗視を付与するわ」
「いいぜ、構わずやってくれ」
「ハンスに同じくだ。出し惜しみは出来ないな」
「効果時間は私と離れてから三十分よ。じゃあ行くわね《パワード》《ナイトビジョン》」
ルナの魔法を受けた瞬間、視界がクリアになり力が沸きあがるのを感じた。
「おおっ!こりゃすごいな。うちのミナより効果高いわ」
ハンスが驚きの声を上げている。ミナとは彼のパーティーメンバーだが少し可哀そうではないか?
……まあ、ハンスにはハンスなりの付き合い方があるか。
「……じゃあ、いくか」
「ああ!」
「ええ、さっさと終わらせましょう」
こうして俺たち三人は駆けだした。最初に接敵するのは衛兵だ。今回の依頼では殺しは厳禁で、出来るだけ傷を与えずに無力化するのが望ましいらしい。
門に向かって走る俺たちの前に二人の衛兵が立ちはだかるが、俺は刀の峰を使って昏倒させた。
続いてルナが睡眠魔法で衛兵を眠らせ、無力化に成功した。
「気づいたんだが俺って今回の依頼、お荷物じゃないか?」
ハンスが口にしたのはそんな弱音だった。確かにハンスは斧使いであり、他の武器を使えるわけではない。
「確かに斧は攻撃力が高いから不向きかもな……」
「なら私が相応しい魔法を掛けてあげるわ。攻撃力が減少する魔法よ。デバフ魔法だから気を付けてね」
「ああ、そうしてくれると助かる……」
少しへこんだハンスに何も言えない俺とルナ。まあハンスなら大丈夫だろう。かなり前向きな性格をしていることだしな。
「……《イモータル》」
それから俺たちは快進撃を続けた。ハンスが魔法に慣れない様子だったがすぐに順応できたようで俺より早く敵を倒していた。
今回、違法奴隷が居るとされるのは地下らしい。普段はメイドとして働いているが夜になるとベルツの部屋に呼び出され……ということらしい。
違法奴隷は俺の家族だけでなく他から集めているのもあるようだ。それぞれ口封じの契約をさせられ、傍目からは奴隷とわからない恰好をしている、という情報をバルクから聞いていた。
「まずは地下への侵入口を探すところからだな」
「それなら俺に任せてくれ。こう見えてもパーティーでこういうのを担当してるんだぜ」
「頼もしいな。じゃあハンスはどこに入り口があると思う?」
この屋敷の従者たちから聞き出すのもありだが、狙いを悟られたくないのと、まともに受け答えしてくれないだろうとその案は却下になった。
ハンスが言うにはメイドたちの使われていなさそうな部屋が怪しいらしい。メイドとして働いているため、他の従者からの違和感が極力でないようにするためにはそこしかないそうだ。
「確かにそこが怪しいわね。行ってみましょうか。部屋に人が居るかどうかは私が確認するわ」
「ここからは隠密行動が良さそうだな。騒ぎは起こしているし、十分だろう」
「そうね。《ステルス》」
ルナの魔法によって俺たち三人の姿が見えなくなる。ハンスは俺の模擬戦で魔法を見ていたから驚いてはいないようだった。
それから俺たちはメイドの部屋を探す。すぐに見つかった複数の部屋にはメイドたちが息を潜めていると思われる。侵入者の存在は知っているだろうが、こういう場面でメイドは無力だからだ。
ルナが魔法で探索していき、無人のメイド部屋を発見した。一見普通に見える部屋だ。だが生活感がないことと人が通った形跡があったのでちぐはぐな印象だ。
「あったぞ。ここだな」
早速ハンスが部屋を捜査し始め、すぐにカーペットをめくって地下への入り口を発見した。
ここに俺の家族が居るかもしれない……そう思うと気持ちを抑えられず、我先にと速足で階段を降りて行った。
辿り着いたのは牢獄のような地下室。鍵がかけられており、堅牢な扉で中が見えない。
後から追いついたルナが解錠の魔法を唱え、その肉厚の扉を開いた。
一応、ハンスには見張りとして貰うことにした。よく言っても冒険者らしい顔をしているため、怖がらせる可能性が高いと、自ら買って出てくれたのだ。
俺の目に飛び込んだのは劣悪な環境、死ぬように眠っている四人の少女だった。俺の母は居ないか……別のところだろうか。
地上の喧噪は届いていないようだが、扉を開けた音で一人が目覚めた。
「なに……?お兄さんたち誰?」
「……お前たちを助けに来た」
「都合のいい夢……いえ違うようですね。どうやら現実のようですが、顔を隠している人物を信用できるとでも?」
冷静な思考が出来る少女だ。緑髪緑眼で耳が尖っていて長いことからエルフだろう。確かにそうだと俺は顔を隠していた布を取った。
「どうだ?」
「今顔を見せられても……。どうせ私たちは抵抗できないですし、どうとでもしてください。何かするならまず年少者である私から」
どうやらこの少女がまとめ役のようで最初の犠牲を申し出て来るが、もちろん俺たちは酷いことをする気は一切ない。
「助けに来たと言っただろう……。名を聞こう」
「もう期待するのはやめたんです……。ルルといいます」
「じゃあルル、ここにいる少女たちの名前を教えてくれ。俺の家族がここにいるかもしれないんだ」
一人ずつ聞き出すという選択肢もあるが、怯えてしまうかもしれないし非効率だからだ。
少し驚いたようだが、ルルは質問にきちんと答えてくれた。
「……リエル、ネロ、シアです」
「もう二人、ビアンカという少女とグリージャという女性の名前に聞き覚えはないか?」
俺の妹、次女のネロは居るようだ。黒髪に紫色の目を持った少女で現在は十一歳のはずだ。だが俺の目に移った少女は年相応でなく、もっと幼く見える。それは成長の差とかではなさそうで、栄養不足から来るものに見える。
もう一人、妹のビアンカが居るがここにはいない。白髪にネロと同じ紫の目をしていて、年齢は十五になっているだろう。
「……本当に家族がいらっしゃるのですね。ビアンカは知っていますが、グリージャという名前は聞き覚えがあるような……」
「グリージャは母なんだが、とりあえず今ある情報から聞こう。ビアンカの場所はわかるか?」
「……え、ええ、今は、その……」
歯切れが悪い。何か良からぬことでもあったのかと俺は焦っている。
「……ベルツ様の部屋に、呼ばれています」
「それは……まさかッ!?」
「そのまさかかと……」
聞いた瞬間、俺は飛び出していた。姿消しの魔法を使っていないが、そんな暇はない。
夜に成人した少女を呼び出す、その理由は一つしかない……。




