第十二話:勝負の日
極秘依頼を受注した四日後の朝。
俺の朝は早い。夜明け前に目覚めた俺は顔を洗い、寝間着から動きやすい服に着替えて外に出る。
誰も見ていないことを確認して剣を収納魔法から取り出し、日課の素振りを始める。これは六年前に師匠と出会った時から欠かさずやっている。
師匠というのは俺が居た孤児院にたまに通ってくれた冒険者のことだ。俺が師匠と呼ぶと少し照れた顔で「やめろ」というが、その声は嬉しそうだったのを覚えている。
……さて、転生魔法を成功させてから変わったことがいくつもある。
まずは剣術。武器そのものが刀へと変わり、その変化は数日で慣れた。やはり十階位のギフトは伊達ではなく、素振りをするだけで得られる知見もあった。
次に魔法。未完成で不格好だった俺の風魔法が完成したことに加え、ルナのおかげで新しく魔法を覚えることが出来た。その魔法の一つが先ほど使った収納魔法。何食わぬ顔で伝説の魔法を使えるほどに成長したのだ。……亜空間を正しく理解するにはかなり苦労したが。
わずか数日の鍛錬で俺は恐らくCランク冒険者ほどの力を得たことになるだろう。それには前世の記憶やルナの指導の良さも理由の一つだろうが、恐らく一番大きい要因は称号『無才の研鑽者』だ。
この称号を持っていることによって際限なく成長できるらしい。どれだけ高位のギフトを持っていてもその成長量は限界がある。それを限界突破してくれるのだ、と俺は考えている。
この世界はギフトが全てと思っていたが、案外そうでもないのかもしれない。
◆
俺とルナは宿から出て、ギルドに向かう。修行と並行して依頼もこなしていたから、刀を買った時にすっからかんだった俺の懐はそこそこ温かくなっている。
俺とルナは歩きながらなぜ今日呼ばれるのかについて話していた。
「そういえば何で前日に集まるのかしら」
「恐らく顔合わせ的な意味だろう。屋敷内で仲間同士、争うわけにはいかないからな」
「それなら作戦前に集まるのでも良くない?」
「……確かにそうだな。まあ行けばわかるか」
「そうね。気楽にいきましょう」
気になることはあったが、今考えても仕方がない。ギルドに着いた後、バルクに聞けばいいだろう。
ギルドに着いた俺たちはすぐにギルマスの執務室に通された。俺たちが一番乗りのようで、その部屋にはバルク以外いなかった。
「三日ぶりじゃのソル君。君の連れはルナ君と言ったかの。明日はよろしく頼むぞい」
「ええ、こちらこそよろしく」
「それで早速、聞きたいことがあるんだが、なぜ今日呼びだしたんだ?」
「それはの……今日作戦を決行するからじゃ」
衝撃のひとことだった。もちろん俺たちは全く知らされていない。
「何……!?それはみんなが知っていたことか?」
「いや、知るのはワシだけじゃよ。ただいつでも動けるようにと声は掛けていたから今日でも問題はないじゃろ?」
「まあ問題ないだろうが、なぜ?」
「簡単な攪乱じゃよ。ベルツ側がワシらの情報を掴んでいたとしても、明日来ると待ち構えているだろう隙を突くことができるからの」
「そう言われたら納得だな。まあハンスに関しては問題ないだろう」
あいつはいつも身の丈ほどの巨大な斧を背負っているし、作戦日が早まったところで取り乱すような男ではない。準備も何も、いつでも準備万端な男だ。
「おっと、次の客が来たようじゃ。入りたまえ」
入ってきたのはハンスだった。やはりいつも通り背中に斧を背負っている。ただの話し合いの場にあんな物騒なものを持ってくる豪快さもさすがと言える。
「お、ソルとルナはもう来てんのか。他はまだか?」
「いいや、今回ここに集まるのは三人だけじゃ」
「なに?どういうことだ」
ハンスが俺の声を代弁してくれる。そうだ、俺たち三人だけとは聞いていない。あと調査班も来るのではないのか。
「調査班はギルドの隠密部隊じゃ。その素顔を晒すわけにはいかんからの。あ、そうそう。ハンス君には言ってなかったが、屋敷襲撃は今日になった」
「へー、ギルマスの爺さんでも予定が崩れることがあるんだな」
ハンスは俺のような反応を取ることがなく、自然と言った感じに了承した。
「それでじゃ、ワシは事前にある程度の情報をベルツに流しているんじゃ。屋敷襲撃のことじゃな」
「それまた、なぜ?」
今度は俺が代表して質問する。バルクのことだからそこにも理由があるのだろう。
「調査班の成功率を高めるためじゃな。いくらソル君たちが救出を成功させたとて、不正の証拠が見つからなければ君たちは誘拐犯じゃ。そうならないために、と言えば聞こえはいいが、屋敷の警備は強化されることじゃろう。その分、暴れれば暴れるほど目立つことになり、君たちの負担が大きくなってしもうたな。申し訳ない」
「問題ない。作戦の成功率を上げるためだ。俺たちはそもそも隠密行動ではなく派手に動くのが仕事だからな。任せてくれ」
「私も特に言うことはないな」
「ソルに同じくだ」
「なら決まりじゃな。作戦は今日の夜に行う。情報漏洩を防ぐため、作戦までは極力ギルドに居るように」
「「「了解」」」
◆
「それにしても、ギルマスって相変わらず突発的だよなー……」
執務室から出てきてギルドの受付前まで戻ってきたハンスは一つ愚痴る。
「作戦参加人数も知らないだけで結構居そうだし、攪乱のためって言われたら頷くしかないな」
「そうなんだよな、あのじいさんそういうの得意だし」
「ハンスはギルマスに詳しいの?」
ルナがハンスに尋ねる。確かにハンスはバルクに関して詳しいような口ぶりだった。
「まぁな。元Bランク冒険者だから何か参考になることはないかって、ちょっと前に調べたんだ」
ハンスは調べたバルクの情報について話してくれた。
元Bランク冒険者である。
現役のころはパーティーを組み、その役割は斥候だった。
彼の隠密行動スキルと作戦立案能力は頭一つ抜けていた。
そこから名付けられた二つ名が『情報屋』だった。
その二つ名にふさわしく、バルクは持ち前の隠密と賢い頭であらゆる情報を握っていたのだとか。
そして当時汚職に手を染めていたギルドマスターを追い出し、その席に座ったのだ。
「とんでもない人物じゃないか」
「そりゃそうだ。ランクBっていえばこんな奴らばっかりだからな」
そんな風に雑談していると俺たちに三人の冒険者が近づいてきた。この三人は名前は知らないが、ハンスのパーティーメンバーだな。男一人に女二人である。
「お、どうした?三人そろって。今日と明日は休みにしたはずだよな」
神官風の装いをした女性がハンスに反応する。
「そうですね。それについては問題ないですが、私はそこの二人と話しているのが気になりまして」
どうやら雰囲気的に話に入りたいわけではないようだ。
彼女は神官だし、俺たちが魔人族であるということを何となく感じ取ったか?
いや、俺が転生魔法を受けるよりも前からこんな視線は貰っていたし、単に自分のパーティーリーダーが有象無象と話しているのが気に入らないのだろう。
「それいつも言ってるよな。そんで、俺もいつもこう言い返してる。『俺がどんなヤツと絡もうと俺の自由だ』」
「いつもはそれで引き下がれる私ですが、今回ばかりはそうはいきません。そこで……」
「僕が君を試す」
「……私があなたを倒す」
一人の男が俺を指さして宣言した。どうやらハンスと依頼を受ける俺たちの実力を測りたいそうだ。
もう一人の女はルナを指さしていたからルナと魔法で戦うつもりなのだろう。
俺の相手はどうやらタンク、盾役のようだ。
「……ふむ、俺は受けて立とう。ルナはどうする?」
「当然、売られた喧嘩は買わなきゃね」
ルナはなんだか楽しそうだ。
正直、勝負を受ける義理はない。勝っても負けても特がないからだ。それでも俺は修行の成果を確かめたくて、ルナは気まぐれで勝負を受けることにした。




