第十一話:極秘依頼
「企み……?何か作戦でもあるのか」
「もちろんじゃ。ワシがただこの話をするために君を呼んだと思うかね?」
「なら話を聞こう」
「ただ、この話を聞いて断ったら作戦終了までの一週間後までギルドに拘束させてもらうがの。手荒な真似はする気はないんじゃが、言うことを聞かなかった場合は……」
「場合は?」
ゴクリと唾を飲むのが自分でもわかった。ギルドマスターならたかがDランク冒険者をどうこうするなど容易いことなのだ。
「……まあ作戦終了まで監禁させてもらうってとこかの」
今思いついたように軽く言い放った。雰囲気は柔らかくなったが下手なことをしないほうがいいだろう。
「……わかった。俺をそれに誘う理由とは?」
一番がこれだ。なぜDランク冒険者をその作戦に加えようと思ったのだろうか。内容は知らないが実力的に適任な冒険者はもっといると思うが。
「信頼じゃよ。君は家族を取り戻したい。そのためなら死ぬことも厭わないんじゃないかね?」
「確かにそうだが、信頼か」
「今回の作戦は極秘依頼じゃ。なら当然秘密を洩らさない人物のほうが都合がよい。そこで慎重かつ信用できる君に白羽の矢が立ったというわけじゃ」
「そうだったのか……。極秘依頼、誰にも漏らさないと誓おう」
「では作戦の内容を説明する」
俺の役割は一つ。ベルツ伯爵の屋敷に居るだろう俺の家族の救出だ。救い出した後は屋敷から去っても構わないらしいが、正体がバレないように変装してから出来れば騒ぎを起こして欲しいらしい。その隙に調査隊が潜入し、不正の証拠を掴む。
正面突破で衛兵などを無力化しつつ迅速に目標を達成せよとのことだったが俺にそれが出来るだろうか?
「俺は救出と囮か。そんな役割を俺に?」
実力のないDランクだぞ?本当にそれでいいのか、と思わなくもない。
しかしギルマスは何も不安を覚えていないようだ。見透かしたような目で俺を見てくる。
「出来るじゃろう?不安なら仲間を連れて行ってもよい」
その自信はどこから出て来るのだろうか。
「それなら二人だけ、心当たりがある」
「ほう?言ってみなさい」
何やら見定めるような視線だ。これは心地よくないな……。
「『斧嵐』からハンス。それに俺のパーティーメンバーになる予定のルナだ」
『斧嵐』はハンスをリーダーとしたパーティーの名前だ。嵐のように斧を振るうハンスの勇士からその名が付けられたらしい。他に三人メンバーは居るがそいつらは関りが少ないので除外した。
ルナは間違いなく、こういう作戦では活躍できるだろう。冒険者になったばかりではあるが、辺境で魔法の修行をしていたとでも言えば納得するか。
「ハンスは聞き覚えがあるがルナは知らんの」
流石のギルマスでも昨日登録したルナの名前は知らないか。俺はルナが実力はあることを話し、次に俺の協力者だというとギルマスはそれで納得したようで、二人の作戦参加を快諾してくれた。
まあ二人が作戦参加するかどうかと言うとそれは二人次第なのだが。
「作戦決行は五日後じゃ。それまでに準備しておくんじゃぞ。集合は四日後にここじゃ。……ああ名乗っていなかったの。ワシはバルク、元Bランク冒険者じゃ」
実力者と噂のギルマスはやはり高位の冒険者だったか。それに頭もキレるようだし、作戦は結構練られたものだろう。失敗の可能性は低そうだな。
「了解だ。じゃあなバルク」
そうして俺は執務室を後にした。
◆
バルクはソルと言う冒険者に注目していた。それは冒険者でありながら冒険をしない、というのが理由だとソルには語ったが、実はそれだけではなかった。
ソルは実力を隠している、そう思ったのだ。
まず冒険者は危険を冒して冒険するもの。また本人には危険を冒すつもりはなくても冒険者になりたての頃なら実力に見合わない依頼を取ってしまうものだ。
だが彼にはそれはなかった。それは孤児院にたまに来ていた冒険者に知識を教えてもらっていたからなのだが、バルクはその事実を何故か調査で発見できなかった。
辺境の村に生まれ、盗賊に村を襲われ孤児院に入り、それから冒険者となったソルには冒険者としての知識を身に着ける暇がなかったはず。なら何故?
答えは出なかった。まさか生まれたときから冒険者の知識があるなんてこともあるはずがないと。
そして今回の極秘依頼でソルの実力を確かめようとしている。依頼の内容も調査の内容も全て嘘偽りない。
命を懸けてでも家族を救うというソルの決意も嘘ではなかった。
ならこの依頼の結果から彼の実力を見極めることが出来るかもしれない。
それが分かっても別に何か悪だくみをしようというのではなく、実力者を正しいランクへと上げるだけ。
実はその予想は大きく外れているのだが、それをバルクが知ることはない。
◆
バルクとの対面のあと、ルナに極秘依頼のことを話した。内容には触れず、五日後に俺の家族を救うことが出来るかもしれないと。
「まさか本当に極秘依頼だったなんて……。まあ協力するわ。依頼内容はソルが把握しているなら問題ないでしょう」
「よかった。それでその決行日までの四日間、俺の修行に付き合ってほしいんだ」
「いいわよ。他にやることもないし、私の旅は余裕があるから」
「ありがとう。それでもう一人の協力者候補なんだが……」
俺はハンスについて話す。主に人柄や戦闘能力についてだ。隠密行動には向かないかもしれないが、そこはルナの魔法でカバーできるだろう。
「それについても問題ないんじゃない?一応四日間で姿隠しの魔法は覚えることになるでしょうけど」
「そうか、なら俺はハンスに話をしてくる」
「まって、私たちパーティーになったのよね?」
俺を呼び止めるルナ。それはさっき受付嬢がその処理をしてくれただろうに何の話だろうか。
「そうだな。それがどうしたんだ?」
「パーティー名を登録することもできるって言ってたから考えておいてね」
「それは必要なのか?」
「重要なことよ!」
いきなりの剣幕に俺は後ずさる。本当にそんなに大事なことか?
「なぜ?」
「だって登録しないと借りのパーティー名が『ソルとルナ』になるのよ……」
「……確かに重要だな。考えておこう」
『ソルとルナ』はパーティーにつける名前ではない。ただ二人のなまえを繋げただけだ。そんなのは嫌なので決められるなら早く決めよう。
いや、今はとにかくハンスへ話を付けなければ。
「ハンスはどこか知っているか?」
俺は受付嬢に話を聞くことにした。今は朝。まだハンスが依頼を受けていない可能性が高い。
「ええと、今日はまだ依頼を受けていませんね。姿も見ていないのでもう少し待てばいらっしゃるでしょうか……」
「そうか」
まあ冒険者がその日仕事をするかなんて自由だからな。少し待っても来なければハンスが泊っている宿まで行ってみよう。
と思った瞬間、ギルドの扉を大きく開いてハンスが入ってきた。……タイミングがいいな。
俺から話しかけようと思ったのだが、好都合なことにそれより先にハンスが俺に話かけて来る。
「よう!ソル」
相変わらず元気なことだ。それが彼の長所である。
「おはよう、ハンス。今日はお前に話がある」
「ほう?聞こうじゃないか」
「……仕事の話だ。出来れば他人に聞こえない場所で話したい」
「そうかいそうかい!ついに俺と仕事をする気になったか!」
ハンスは俺を気に入っているようで、頻繁にパーティーを組まないか、依頼を一緒に受けないかと誘ってくる。彼のパーティーメンバーが良い顔をしないので普段は断っているが、今回ばかりはそうもいかない。
ハンスを引き連れ、受付嬢の許可を得てからギルドの談話室に入る。ルナも顔合わせと言うことで同席した。ギルドにはこのように極秘依頼などの人に聞かれたくない話をするときに談話室を使う。
利用は初めてだが、この部屋に入った瞬間ギルド特有の騒がしさが消える。どうやら防音は完璧のようだ。
ルナとハンスが互いに軽く自己紹介をしてから俺は本題に入る。
「……そうか。ついにソルの大きな目的が達成されようとしているんだな」
ハンスにはたまに俺の相談に乗ってくれた。そのため俺が冒険者をしている理由は知っている。
「いや、これはあくまで可能性だ……」
「だがあのギルマスがそんな信憑性のない話をするか?俺は十中八九、ベルツの屋敷にソルの家族がいると思うな。何にせよ協力するぜ」
「感謝する。じゃあ作戦の内容だが……」
ルナにはここから話していない。ハンスが受けるにしても断るにしても同時に話したほうが都合が良かったからだ。
俺は頼もしい仲間を揃えることに成功し、五日後に向けて修行を決意するのだった。




