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乗れない苦悩

 騎手として上々のスタートを切り、実績を積み重ねる俺と滝川の影で、同期の牧野しおりと三島大樹は大きな壁にぶつかっていた。大樹は三島誠の子供だと言うこともあり、初年度こそ馬が集まったが、一年目の成績は7勝。女性ジョッキーであるというだけで注目されるしおりは、いい馬を回してもらえず苦悩していた。一方で、三島誠は調教師に転向したが、騎手は実力で選ぶとして、岡田か俺かどちらかを期待馬に乗せ、大樹は一切乗せなかった。

 俺は壮行会を敢行するべく気まずい相手となってしまった滝川に電話をした。

「滝川、しおりと大樹の壮行会開きたいんだが」

「壮行会を開いたって二人の乗り馬は増えないよ。結果を出してないだけなんだから。僕とアキトは初年度から結果を出した。僕は父の、君は松平成克さんのバックアップあっての勝利だけど、伝手を作るのも騎手の仕事だ。ちゃんと仕事をしていれば見るべき人はそれを見る」

「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」

「大体、初年度からG1勝ってる僕たちに二人をどうこうできないよ。苦しいし辛いのはわかる。でもそれは同情だ。いいアドバイスなんてできない。トレーニングをしっかりしろとしか言えない。特に大樹はフォームがガタガタだから。遊んでる暇があるなら練習しろという話だ。知ってるだろ? グラビアアイドルだかとスクープされたの」

 大樹がスクープされたのはグラビアアイドルではなくて私立秋篠女学院のメンバーだが、それはどうでもいいだろう。

「どうしても二人を応援したいなら、君のお手馬を回せばいい。そうすれば僕は今以上に勝てる」

「それは――」

「できないだろう? それが競馬、勝負の世界だ。君のアイノクラウディアも、シークレットエデンも僕が倒す」

 そう言い残して電話は切れた。それでも俺は二人に何かしたくて、取り立ての免許で二人を車に乗せて、三島苑に連れて行った。車では二人とも通夜のような静かさで、気まずい空気が車内をしはいする。

「ついたぞ」

 二人とも無言だ。

「元気出せよ、と言っても無理か……」

「同情されるほどみじめな成績かい? 僕は」

 三島が死にそうな声で言ってくる。

「みじめだろ。親父さんはお前に馬を回さず、岡田や俺を乗せる。ちゃんと競馬に取り組んでいない、そう思われているんだ」

「通算27勝だもんな、僕は。アキトはいいよ。運よくいい馬に初年度から乗れたから」

 これには俺も頭にきた。

「運よく? 馬が回ってきたのは斎藤先生と小河原先生の尽力だ! それを運だというのか!?」

「やめようよ、二人とも」

「いいや辞めない。斎藤先生が倒れた時、俺は真っ先に恥も外聞もなく松平成克さんに電話した。天皇賞を勝つから馬を回してくれと。お前にできるのか? 成克さんを納得させる騎乗が!」

「それは……できないと思う」

「そう思うなら練習しろ。ずっと厩舎を回って顔を繋げ! 調教に乗せてもらえるまで一生懸命やれ! レースだけが競馬だと思うな? 馬の体調管理からレースははじまってるんだ」

「そうよね。アキト君の言うとおりね。でも、今日はそういうのもうやめよう? 大樹君も」

「わかったよ」

 二人はそうは言ったが、食事中も話が盛り上がることはなかった。乗れないジョッキーの現実がそこにあった。

三島大樹

剛腕、三島誠の長男

通算27勝


牧野しおり

女性ジョッキー

通算48勝

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