ぼくのお姉ちゃん
ホラーは書いてて楽しいです。
ぼくのお姉ちゃんは、とってもかっこいい。
お母さんは会いに行っちゃいけませんよ、ってぼくに言うけれど、ぼくはお姉ちゃんが大好きだ。
どうしてお姉ちゃんがかっこいいのか、お話をするね。
お姉ちゃんはある日、ぼくにしつこく話しかけてきた人を、さらってきて、ぼくに「こいつか」と聞いたんだ。
そいつはブルブルと首を右と左に振っていた。でも間違いない。この人だ。
「うん、そうだよ!」
「ちがうっていえよくそがきいい!」
よくわからない悲鳴をあげていたけど、やっぱりこの人頭おかしいなあ。あぶない。
へんしつしゃってやつなんだろう。今も、まっぱだかでイスに縛られて、白い布を口にかまされてふごふごと言ってたから。
あぶないなあ、そうぼくが思っていたら、お姉ちゃんが足できけんなひとをけった。
きれいにぽーんと飛んで、ぼくははくしゅかっさいした。
飛ぶ、とか、はくしゅかっさいとかは、お母さんが教えてくれた。
ふしんしゃは、ぼくのことをへんな目で見ていたけれど、ぼくはわくわくして、どきどきしてしまって!!それどころではなかった!!!
!はそんなに使ってはいけないと怒られてしまった。
お姉ちゃんは、そのままずーとふごふごと言っている人をけった。体がむらさき色になって、とうとうふごふごと言わなくなったあと、ぼくを見て汗をいっぱいかいていて、ニコニコしていた。
「わるいのは、もうやっつけたからね。心配しないでいいよ」
「ほんとう!」
「本当。さ、おうち、帰ろうか?」
「うん!」
あれから、お姉ちゃんは学校に行けなくなった。お父さんとお母さんが、悪ーいやつをやっつけたお姉ちゃんを守るためだっていって、とじこめた。
ぼくはお姉ちゃんにいっぱいいっぱいそとのお話をした。学校でのお話。
夏休みが終わったら会えなくなってしまったけど、ある日突然お姉ちゃんはぼくの部屋に来て、いっぱいお話をしていった。
その次の日、お姉ちゃんは部屋からへんじもしなくなった。お父さんはその日、まっくろいふくろを持って、山にハイキングにいった。ぼくも行きたいと言ったら、お父さんとお母さんに手でぶたれて、わんわん泣いた。
ぼくは、お姉ちゃんにおかあさんとお父さんまでわるいやつになったと言いたかった。
でも、お姉ちゃんは返事しないんだ。
まるで、そのお部屋にはだれもいないみたいに、お姉ちゃんはどこに行ったんだろう。
そうやって聞いたら、お父さんとお母さんは笑って言った。
「お姉ちゃんなんて、いないわよ」
「そうだぞ。俺たちはずっと、三人家族だったじゃないか」
そうじゃない。そうじゃないよ、違うよ。お姉ちゃんはいた。いたのに。
お姉ちゃん、帰って来て。
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部屋を片付けていたら、子供の頃の僕の字で書かれたそんな日記帳が出て来た。
紐で簡単に綴じた、夏休み期間だけの日記帳。
へんなことばっかり書いてある。俺は首を傾げて、それからそれをゴミ箱に捨てた。
うちは昔っから三人家族だろうに。へんなの。
お読みいただきありがとうございました。