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あたしはハッキリ言ってリューが嫌いだ。
リューは顔がいいからか昔からかなりモテる。
成績もそこそこよくて運動神経も抜群にいい。確かサッカー部のエースストライカーでキャプテンだった気がする。
まぁ、やれば何でもできるヤツだから人気が出るのは当然で、最近では尊敬と少しの嫉妬も込めた“白龍王子”なんて呼称もある。
でもそれはあくまで客観的に見ての話で、あたしから見ればそんなのには騙されない。
リューはいつもあたしを冗談か本気か分からないレベルに雑な扱いをしてくるヤツであり、女の子には優しいけどあたしと話す時は思いっ切りの低音ボイス。
しかもモテるくせに一度も女の子の告白をオッケーしたことがないという、何とも女の子に興味がないヤツで憎いヤツ。
……可愛い女の子たちの告白を断るとは許すまじ。
幼馴染みというレッテルで縛られ尚且つ親の決めた許婚相手ということで仕方なく今は一緒に登校したりもしてる。今はね。
と、いうか前から気になってたんだけど――……
「毎回リューと歩いてると女の子たちがこっちを遠巻きに見てるのは気のせいか?」
「はぁ? んなの知るかよ」
なんかこっちに携帯を向けながらパシャパシャやってるのがすごく気になる。
写真を撮ってるのにしても、リューなんか撮ってもフィルムの無駄になるだけだ。
あと時々聞こえてくる会話がちょっと意味不明。
「飴森くんと白石くん。どっちが攻めかな……?」
「そりゃあ白石くんでしょ」
「でも意外に飴森くんが攻めっていう場合も――」
うん、なんかすごい次元の話をしてるようだね。
全然分からないけど女の子は可愛いから大抵のことは許されるよね!
天使バンザイリューはウザい! これはもう鉄則ですよね。
そんなあたしの心の声を知ってか知らずかいや多分知らないけど、リューはあたしの頭のてっぺんからつま先までジロジロと眺め見た。
「な、なんだよ気持ち悪い」
思わず身を引き身を抱くと、リューはわざとらしいため息をついた。
馬鹿にしたように肩まで竦めている。殴りてぇ。
「どっからどう見ても男にしか見えねぇなって」
「……は? これが通常運転ですがなにか」
ケンカ売ってんのかコイツ。
あたしは売られたケンカは安く買い取って誰かに無理やり押し付けてできれば高く売る主義なんですけど。
「いやフツーにありえねーから。女子が制服ズボンとか」
「ありえなくはないだろ。うちの学校、制服のズボンとスカート基本自由だし」
「お前の場合紛らわしすぎるわアホ」
「じゃあ学校側に文句言えバカ」
まったく失礼なヤツだ。
これじゃあ一向にリューの好感度は上がらないねご愁傷さま。
こんなヤツと歩いていてもいいことがないな。
もうこうなったら日々部活で鍛え上げている足を使って――
「あ、おいっ! なんで走り出すんだよ!?」
「リューと歩いてたら女の子とキャッキャウフフができないんでねついてくんな!」
「意味分かんねーわコイツ」
「ちょ、だからついてくんなボケぇええっ!!」
不意打ちダッシュをかましリューを振り切って学校まで無事到着!
なんて現実は甘くないんですよねこれが。はいはい夢見すぎたあたしが馬鹿でした。
走っている最中に思いがけず誰かとぶつかるなんてさ。 よけろや。
しかもあたしの理想と妄想ならば、ここでぶつかった相手は女神みたく美しい女の子でそこから二人の禁断の恋が始まるってストーリーなんだけどね。あ、興味ない?
でも男子だったらもうね、なりふり構わず謝罪もなしに走り出すわけですよ。
ちなみに今日は男子だったからもちろん全力で逃げた。あ、一応悪いなとは思ったから軽く頭は下げたけどね。 クズ? ああ、あれ美味しいよね。