未練
中2いっぱいで部活を辞めてから“部活動”という存在がなくなった。
部活をしていた頃は、面倒だと思ってサボりがちだった。けれど、実際に辞めてしまうと、今度は特にやることがなくなって、暇な毎日を過ごすことになる。
―新しく何かしよう―
特に当てはなかったが、とにかく何か自分がやりたいことを見つけようと色々した。
そしてたどり着いたのが―
部活の応援だった。
よく考えてみれば、自分の部活以外の試合って見たことがなかった。
隣でよく練習試合してたとかはあったけれど、こっちも部活だったから、真剣には見ていない。だから、これを機会に応援として見に行こうと思った。
「香帆ちゃん、一緒に野球の試合見に行かない?」
小早川 香帆〈コバヤカワカホ〉
中2のときに仲良くなって、それからは何かとお世話になっている。名前を略して“こばか”とみんなから呼ばれ、親しまれている仔である。
「いいよ-!」
香帆はあっさりとOKしてくれた。
数日後。
香帆と一緒に野球の試合を見に来た。今年の夏はとても暑くて、試合の応援をしていたら日焼けは絶対に避けられないくらい、日ざしが強かった。
会場につくと、ちょうど始まるところだった。
野球のルールとかはよくわからない。だけど、來投や一貴たちの野球仲間がいる。そして何よりも、一貴が野球をしてる姿を1度でいいから見てみたかったのだ。
私が一貴と付き合っていた頃、2人で交わした約束があった。
“2人ともエースになる”
野球とバレーでやっている競技は違ったけれど、お互いにエースになって頑張ることを目標に支え合っていた。
私は…裏のエースにはなったものの、表のエースにはなれなかった。怪我していなかったら…と考えると後悔の気持ちでいっぱいになった。
私とは対照に一貴はその力を発揮して、エースの座に上り詰めた。
だから彼の姿はなんとしても、見届ければならないと思っている。
私の分もエースとして頑張る彼は、私にとって憧れだから…
「でもさ、ルールとかよくわかんないから、何がすごいのかとかもよくわかんないな-!笑」
今までプロ野球の試合だってテレビでやっていれば、自分の見たい番組がつぶれるからと、野球を嫌っている部分もあった。だから、こうやってまともに野球を見るのは初めて。
ルールがわからないとかいいつつも、それなりにはわかってる。來投たちと一緒にいて、会話を聞いているうちに少しずつ覚えるようになってたから。
一貴はピッチャーだ。マウンドに立っている彼は、今までに見たことのないくらい真剣な顔つきをしている。普段はあんなに笑顔でも試合となれば、そんな面影はなくなる。
…カッコいい。
学校では見せたことのない彼を見て、諦めようと思っていた気持ちが消えそうになる…
勉強ができて、みんなに対してとっても優しくて、運動ができて…彼の悪いところなんて探すほうが大変なくらい。文句の言いようのない彼の存在をやはり愛おしいと思ってしまう…
試合は勝った。
試合が終わった後は、プレーをした彼らと同じくらい自分も嬉しくなった。彼らには、頑張ることの大切さを教えてもらったような気がする。
〜♪〜♪〜♪
差出人:森 一貴
『今日は応援ありがとう。』
一貴からメールがきた。予想もしてなかったことだけに、びっくりした気持ちもあったけれど、なんだかとても嬉しかった。
嬉しかったけれど…私の気持ちはどんどんつらくなる。
一貴がどんなに優しい言葉をかけてくれて、私と一緒にいてくれたとしても、同じ気持ちにはなれない…それがわかっているだけでもつらいのに、諦めたくなってもまた彼の優しさに甘えてしまう自分がいる。
そんなことの繰り返しで、いつになっても前に進むことはできなかった。