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別れ、決意

 

重たいまぶたをこじ開けて、今日も面倒だとは思いながらも学校へ行く準備をする。

学校へ行っても、自分の居場所はない。

自分が自分でいられるのは、携帯の向こう側の人とだけ。

 


 

5月―

春樹はいつものごとく、音楽を聴きながら宿題を片付けていた。

 

〜♪〜♪〜♪

 

聴いている音楽に雑音が入ってきた。何事かと思ったら、携帯が鳴っていた。

…電話だった。

しかし、表示された画面に名前はなくて、番号だけが表示されていた。

 

―誰だろう。

 

一瞬、出るかどうか迷っていたが、まだ番号を教えてもらっていない人からだと思い、電話にでた。

 

「…もしもし?」

 

 

 

返事はこない。

しかし、受話器の向こう側から何かにぎやかな声がすることだけはわかった。

 

「…誰ですか?」

 

少し怖かったけれど、電話の相手に話しかけてみた。


「あの-森くんの彼女ですか?」

 

向こうでたくさんの人たちが笑っているのが聞こえた。電話の向こうの人は男子で、他にも人がいるらしい。なぜ知らない人からそんな質問をされたのか、なぜ彼らは私の番号を知っていて、森の彼女だという情報を手に入れているのか。

動揺を隠しきれず、口を開くことができなかった。

 


 

1番触れてほしくなかった、つらい過去。同情されていたことに気付かずに、一途に恋してた。

彼は彼なりに考えて、私を幸せにしたいと思ったらしい。別れる理由も“お前が幸せになれたから”と彼は格好つけていた。それが何よりもつらい別れで、納得がいかなかった。

それでも、私はやっとそれを乗り越えて頑張ろうと思っていた矢先のこと。

他人から軽く言われた言葉は悲しみを超えて怒りに変わりつつあった。

 


 

そんな気持ちを殺して、耳をすませば、幼なじみの來投〈ライト〉の声がした。電話の相手は野球部の人たちらしい。

 

「あのさ-。森くんがまだ好きだって。付き合ってあげて。」

 

いろんな声がする中、誰だかはわからないが確かに聞こえた。耳を疑いたくなるようなセリフ。まわりの人たちは笑っている。私も“冗談やめてよ-”と軽く笑って答えていた。

 


 

―本当かな…?―

 

口にした言葉とは裏腹に少し嬉しい気持ちになった。私は森 一貴〈モリカズキ〉に対して、未練があった。だから忘れることができなくて、ずっと引きずっていた。だから、彼らから聞いたことは、できれば事実であってほしいという内容なのだ。

 

「おい!何言ってんだよ!!」

 

電話の向こうの遠くのほうから、一貴の声がした。焦ってるような声でみんなに何か言っている。

 

「今の全部嘘だから。気にしないで。」

 


 

―嘘、か…―

 

さっきまであった喜びは、一瞬にして消え去った。1番聞きたくなかった、彼からの言葉。期待した自分がバカだった…

 

嘘ってことは、もう好きではないということ。

わかっていたはずなのに、現実を受け入れることができなかった。あんな直球で言わなくてもよかっただろうと、なんだか注意したい気持ちにもなった。

 


 

その後すぐ、今度はメールが届いた。相手はさっきいた野球部のうちの1人。ふるえる手で携帯を開き、受信ボックスを見た。

 

『お前とメールしたい奴がいるんだけど、いい?』

 

正直、嫌だった。変な電話をしてきた相手とメールなんて考えられない。

それでも説得されて、結局メールすることになった。

 

『お前って、森の彼女だったんだろ?』

 

アドレスを教えて、1番最初にきた内容がこれ。もう明らかにからかわれてるとしかいいようなない。私はきちんと真実を打ち明けたい。しかし、そうできない理由がある…

  


 

今さっき、一貴からのメールで“俺とは付き合ってなかったことにして”ときた。私は過去のことだから、別にいいとは思っていたけれど、彼からしたら隠したい過去なのかもしれない。

…悲しかった。

付き合ってたことを否定されたみたいで。

それでも彼のことは好きだから、ちゃんと守ろうって思った。

つらい気持ちを隠しながらも“好きだけど、付き合ってはいないよ”そう答えた。

 


 

『ふ-ん。』

 

つまらなそうに返事をされた。電話の相手は

安倍 浩二〈アベコウジ〉

來投の友達らしいが、どんな人だかは全く想像がつかない。会ったことのない人とメールをするのはあまり乗り気ではなかったが、こまめに返事をくれる人のよう。

次の日からは一貴の話もしなくなり、いつの日か、毎日メールすることが当たり前のようになっていた。

 


 

『明日から修学旅行だから、メール返せなくなるけどよろしくね。』

 

そういえば、もう修学旅行へ行く時期になっていた。あの日以来、学校へ行くのが苦痛で行かない日もあった。けれど沙奈が心配するから、それは避けなければならないと、頑張って通っていた。1番思い出に残る出来事にもしたかった。

つらい過去を忘れたいなら、それ以上に楽しい過去を作ればいい。そう思った。

そして、もう一貴のことを諦めようと思う。もう彼の私に対する気持ちははっきり伝わってきた。どんなに頑張っても、もう彼は私の元へは来てくれない。彼が恋愛対象でいる限り、私はいつになっても前には進めない。

だから彼のことは、諦める。その代わりに、彼のことを誰よりもわかるよき理解者として仲良くしてもらおうと思った。


修学旅行では色々な歴史的な建造物を見てまわった。あまり興味はなかったが、そこで売られているお守りは効果があるらしい。私は、彼に野球を頑張ってもらいたいと思って、みんなに気付かれないようお守りを買った。


これを渡して、最後に気持ち伝えて諦めよう。


それでまた、新しい道に進むんだ。

 

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