誕生日
新しい生活が始まってしばらくした頃。春樹は誕生日を迎えた。毎年のごとく、この日になると決まってメールをする相手がいる。
同じ誕生日の男の子。誕生日が同じせいかは知らないけど、性格がよく似ていて、何かと意見があったりする。逆に同じせいで対立も多かった。それでもこの日になると必ずメールをする。
《過去を振り返るの好きだね。》
メールをすると、最初の返事は決まってこうだ。過去を大切にしたい私と過去は気にしない彼との価値観の違いから、こんな会話がうまれる。しかし、彼が私にそう言ってくるのには、彼なりの優しさでもあった。
たくさんの過去を引きずりながら生活をしている私。忘れてしまえば変われるのかもしれないが、1つ1つの出来事があまりにも衝撃的すぎて、忘れられない…
恋をして傷ついた。その悲しさを消しきれないまま部活をして、不注意で怪我をした。恋は終わり。部活も終わり。私に残されたものはなかった。
でも私の過去はそれだけではない。
仲間と一緒に過ごした日々。バカみたいに笑って、バカみたいに泣いて。嫌だとは言いながらも、試合は楽しみだった部活。
みんなとはずいぶんとずれた道を歩んでいたけれど、みんなと同じように楽しい日々を送りたいと思ってた。
ただ、その感覚がみんなとは少しずれてたがために、うまくいかなかった。
彼はそんな私を全部知っている。知っているからこそ、彼なりに遠回しにアドバイスをくれる。遠回しの優しさに私は気付いてる。
だからあえて過去の話を毎年持ちかける。そうやって私は彼から、新たに頑張る勇気をもらってた。
もしもあと何分か遅く生まれていたら、こんな出来事はなかったのかもしれない。
私がこの日に生まれていたから、彼との出会いがあって、今の自分がいる。
すべては運命的なことの巡り合わせのようなもの―