わたしとあなたのどちらが金魚?
エリシャは三体のヴァリアンツに囲まれていた。
いずれも、教員が通勤手段として使用する自動車とバイクに憑依したヴァリアンツであった。
タイヤで走行する彼らは速度が速く、さらに憑依による変形によって、小回りも獲得している。
なかでもSUVのヴァリアンツは強敵であった。
膨れ上がった巨大な体が、猛烈な勢いでエリシャに迫る。
エリシャの手から伸びる光の剣が、ヴァリアンツめがけて突き出された。
が、巨体に似合わぬ敏捷さで、剣先をかわす。
巨体がまともに衝突し、エリシャはサッカーボールのように吹き飛ばされた。
廊下の壁を突き破り、中庭に落ちる。
そこへ、バイクのヴァリアンツが殺到した。
倒れているエリシャを轢く。
「くっそぉ……!」
エリシャは怒りのあまり、声を上げた。
肉体的なダメージはたいしてなかったが、なかなか相手を倒せない焦りが徐々に高まってきた。
ピアリッジのエネルギー放出は、疲労を伴う。
すでに、身を起こすのに息が切れるほど、体力を消耗していた。
SUVヴァリアンツが中庭に飛び降りる。
背後にはバイクが二台、爆音とともに回り込んでいる。
何とか身を起こし、エリシャはいまいまし気に敵を見回した。
その時、SUVが横倒しに吹っ飛んだ。
倒れたSUVに、ルカがしがみついている。
エリシャは跳んだ。
地を這うような低いジャンプで、SUVとの距離を一息で詰める。
SUVヴァリアンツの反応は一瞬遅れた。
宙に浮いたタイヤがむなしく空回りする。
エリシャの輝く剣が、ヴァリアンツを両断した。
「ふわわ!」
ルカは奇声を上げて、飛びのいた。
あやうくヴァリアンツごと叩き切られるところだった。
エリシャは、襲ってきたバイクを返す刀で斬り飛ばす。
不機嫌な声をあげた。
「ルカ!」
「わ、わかってる!」
残った一台に、ルカは両手を向けた。
手のひらから、水鉄砲のように光がほとばしる。
ルカの放つエネルギー波をまともに浴びたヴァリアンツは、消滅した。
「まったく、逃げちゃったのかと思った」
文句を言うエリシャに、ルカはしがみついた。
「どうしよう!
ナオミがいないの!」
「ナオミ?
どっちが金魚で、どっちがフンだかわかんなかったけど、あなたといっつも一緒にいたコ?」
ルカはうなづく。
すでに、心配のあまり、涙がにじみ出るのを止められなかった。
背後から、エミティノートが顔を出した。
「残念よ、エリシャ。
説得は失敗したわ」
疲れ切っていたエリシャの顔が、明るくなった。
「そうこなくちゃ!
お楽しみは最後まで取っておかないとね!」
ルカは慌てた。
「待って待って!
ナオミの無事を確かめてからにしないと……」
「無事だかどうかなんて、わからないじゃないの」
「だからって、無理やり戦わないで!
まだ捕まってるかもしれないんだから、慎重にしてほしいの!」
「だったら、確かめるのはあなたがやれば?」
意地の悪い口調で、エリシャはルカに人差し指を突きつけた。
戸惑うルカ。
「わ、わたしが?」
「そ。
いっつもあたしの後ろをふらふらしてるだけなんだから、自分のやりたいことがあるんなら、ぜーんぶ、自分でやりなさいってことよ。
できるでしょ?
あたしはあたしで、好きにやるんで、邪魔しないでよね」
エリシャはそっけなく背を向ける。
当惑していたルカだったが、意を決して、校舎を見上げた。
ナオミのためなら、少しくらい怖いことも、我慢できる!