パラシュートなしのスカイダイビングって爽快!
「ヤダーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
空中で絶叫しながら、ルカは手足をばたつかせる。
猛烈な風に翻弄され、なすすべもなく体が回転する。
頭上では、エリシャが高らかに雄たけびを上げていた。
「イヤッホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
巧みに手足を操って風圧を利用し、するするとルカのそばに近づいた。
その戦闘服をつかむ。
「まず、敵をさがそ!
見つけたら、エミにしゃべってもらって、ダメだったらすぐに倒す。
これしかない!」
エリシャの助けで、ルカの姿勢は安定する。
混乱している頭を必死に整理し、ルカはなんとか口を開いた。
「え? え?
ダメだったら、倒すって……?
人質は?」
「状況しだい!
よーするに、エミがうまくやればいいんだって!」
エリシャの首にしがみついているエミティノートが抗議する。
「うまくいくとは思えないわ!
ピティノートはかたくなだから、私の手に負えないかもしれない」
不安が高まるルカ。
「もし、うまくいかなかったら?」
笑顔でエリシャは答える。
「だーから、状況しだい!」
「待って待って!
そんなので大丈夫なの?
みんなの安全は……」
「作戦会議は終わりね」
言うなり、エリシャはルカから手を放す。
もう地面は目前まで迫っていた。
着地点は、校舎の屋上だった。
エリシャの手に、まばゆい光が閃いた。
着地寸前、エリシャは火球を下にたたきつける。
轟音とともに、校舎の屋上が爆発した。
爆煙がエリシャを包み込む。
熱を持ったがれきの上に、エリシャがふわりと着地した。
爆風をクッション代わりにしたのだ。
一方、ルカは爆風にあおられ、校舎の屋上から外れて、校庭に落下した。
「めちゃくちゃよ……!
こんなことして、ピティノートを刺激したら……」
あたりに充満する砂塵を嫌って、エミティノートは大きな目を閉じた。
エリシャが出現した場所は、北校舎の三階である。
四階の床は、屋上の爆発によって穴が開いていた。
目の前には、使用されていない教室があった。
窓側のカーテンはすべて閉ざされ、教室はうす暗い。
エリシャは静まり返った廊下を眺める。
「どこにいるのかな……エリは近くに仲間がいたらわかるんでしょ?
とっとと、場所教えて」
意識を集中させるように黙り込んでいたエミティノートが悲鳴を上げた。
「すぐそばにいるわ!
逃げて!」
同時に、教室のドアが木っ端みじんになった。
飛散する破片を避けるように、エリシャは背後へ下がった。
教室の入り口から、重々しい足音ともに、大柄な人間が現れる。
いや、正確には人間ではなかった。
近年、商店の店頭などに設置されることの増えている、広告用のロボットであった。
「あ、ペッパー君じゃない。
あたし、前ほしかったんだよね~」
が、エリシャの前に立つロボットは、元の姿をとどめてはいなかった。。
ヴァリアンツが憑依した無機物は、あたかも生物であるかのように、その体を自在に変化させる。
ロボットの身長は二メートル近くにまで増し、横幅も同様に広がっている。
もともと脚部のなかった下半身も、二足歩行できるように強靭な両脚が生えていた。
かろうじて、頭部のみが面影をとどめている。
丸い頭が動き、大きな目がエリシャを見据えた。
V字型の微笑を浮かべた口から、野太い声が言葉を紡ぎ出す。
「おい、テメー、ふざけてんじゃねえぞ!
わけもわからず俺らを追い回しやがって、いい加減キレちまったぜ!
憂さ晴らしにこれから鍋パーティーやっからよぉ。
その食材はテメーだ!!!」
爆笑しそうなのをこらえ、にやにやしながら身構えるエリシャ。
ふと見ると、ヴァリアンツの背後に、今回の事件を起こしたヴァリアンツ、ピティノートの姿があった。
ウェーブした長い黒髪の20代後半の女性。
元、須月レベカであったヴァリアンツであった。
エリシャの背中にしがみついていたエミティノートが叫ぶ。
「ピティノート!!
少しお話をさせて!」
無言でピティノートは背を向ける。
さっとエミティノートは床に飛び降り、すばやくロボットに憑依したヴァリアンツの足元をかいくぐる。
エミティノートに追いすがった。
ロボットのヴァリアンツはエミティノートをとらえようとした瞬間、エリシャはロボットの足を蹴りつけた。
太もも周辺に命中したエリシャの足は、ロボットの表面を覆っていた黒い鉄のような装甲を飛散させる。
よろめいたヴァリアンツが、苦しげな声を上げた。
「とっとと来なさいよ。
口だけの、ウドだってことを、思い知らせてあげるから」
異様に明るい光を帯びたエリシャの眼が、ヴァリアンツを見上げた。