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オムレツを作るには、タマゴを割らなくちゃね!

「ちょっと待ってください。

 今日は今までと少し状況が違います」

 

エミティノートを抱いたトビヒトが言う。


「これまでは、発見したヴァリアンツをせん滅する任務ばかりでしたが、今日の相手は、人質を取っています。

 場所は、西調布中学校」

 

ルカは息をのんだ。

逆に、エリシャははしゃいだ声を上げる。


「あたしたちの学校じゃない!

 あと三日で登校日だったけど、課題もらいに行く手間省けたね」


「人質って……誰ですか?」


恐る恐る発したルカの問いに、淡々とトビヒトが答える。


「2-A組の生徒が主です。

 脱出した生徒から聞き取りした結果、人質のリストを作成済です」

 

「見せてください!」


トビヒトのタブレット端末に、人質リストが表示された。

ルカの眼は、ひとつの名前にくぎ付けになる。

にわかに、心臓が激しく鼓動する。


田奈科たなかナオミ。


ルカの親友も、囚われの身になっているのだ。


「憑依されていた人間は、須月すづきレベカ、女性、28歳。

 西調布中学校の教員であり、独身、一人暮らしのため身近に親族がおらず、発覚が遅れました。

 以前より、不審に思った生徒からの通報があったため、監視対象としていたのですが、確定に至る直前に事件が起こりました」


「あなたたちは、いっつもそう。

 ちっとも役に立たないんだから。

 こないだなんて、ヴァリアンツじゃくて、ただの人間だったし」

 

明るい口調でエリシャはトビヒトに当てつける。


ルカの脳裏に嫌な記憶がよみがえってきた。


一週間ほど前、トビヒトの指示によって、ルカとエリシャはヴァリアンツ認定された人間を襲撃した。


標的が一戸建ての自宅に帰ったころを見計らい、不意打ちをかけたのだ。

初めはルカが標的に相対した。

しかし、あわてふためき、腰を抜かして逃げようとする中年男性の姿を見て、どうしてもルカは攻撃することができなかった。

エリシャはルカを押しのけ、男を文字通り粉砕した。


あまりにも凄惨な光景に身動きできないルカをしり目に、屋敷に単身突入したエリシャは、数分後、血まみれの姿で戻ってきた。


『家族は消えてるって話だったけど、みんないたよ』


結局、数人の死骸ごと屋敷は焼却された。


翌日のニュースによると、犠牲者は政府の要人とその家族であり、火の不始末による火事によって、全員焼死したとのことだった。


トビヒトは全く動じた様子もなく、話を続ける。


「エミティノートさんからの情報を参考にすると、今回発見されたヴァリアンツは、ピティノートという個体だと推測されます。

 皆さんにそん色のない戦闘力を備えていると思われます」


エリシャは意地悪く言う。


「人質はどうすんの?

 全員救出するっていうの……いまさら?」

 

トビヒトは、腕の中にいる猫に視線を落とした。


「現地にて、エミティノートさんに、ヴァリアンツとの交渉をお願いします。

 人質を解放するように説得していただきたい。

 時間制限があります。

 14:30までの30分」


「短すぎるわ!」


エミティノートが抗議する。


エリシャは興味深そうにトビヒトをまじまじと見つめる。


「……国連平和維持軍が来るんでしょ?

 それまでに片付けて、ヴァリアンツの秘密は日本政府が握っておきたい……ってね」

 

トビヒトは、わずかに顔をこわばらせた。


エリシャの指摘は、図星だったのだ。


鉄面皮のトビヒトが、感情を動かす様子を満足げに眺め、エリシャはにっと笑った。


「なら、とっとと行きましょ!

 ほら、学校が見えてきたじゃない。

 この際、多少の無茶はしょうがないよね」

 

エリシャの言う通り、眼下に彼女らの母校が広がっている。


突然エリシャは身を乗り出し、ルカが座っている側の扉を強引に開いた。

猛烈な風が吹き込む。


驚くルカから、シートベルトを引きちぎった。


「何するの、エリシャ……!」


ルカの言葉が終わらないうちに、エリシャはルカをヘリから突き落とした。

悲鳴とともにルカは空中に放り出される。


「お仕事に行ってきま~す!」


トビヒトの腕からエミティノートをかっさらい、エリシャはルカの後を追った。

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