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憂鬱なのは、月曜日だけじゃなくて

富士山麓、ヴァリアンツの砦での出来事から、しばし時をさかのぼる。


「ヴァリアンツの来襲だ!

 二人とも準備頼む」

 

室内のインターホンから、声が聞こえる。


個室の花瓶をデッサンしていたルカは、ため息をついた。


ここは、東京の目黒にある自衛隊駐屯地だった。

ルカと家族、そしてエリシャは、その施設の一角に間借りしているのである。


現在、地球に侵攻を繰り返しているヴァリアンツを倒すことのできる存在、ピアリッジの身を守り、出動時には適切にサポートするためだった。


家族も同じ施設にいるとはいえ、ほとんど顔を合わせることはなかった。

個室にあるテレビ電話での会話が、主なコミュニケーションの手段である。


なぜなら、ルカたちピアリッジはヴァリアンツに一度捕獲され、生還したことで、人類を凌駕する力を得たからだった。

いまだ生態が明らかでない異生物ヴァリアンツと同じく、彼女たちも防疫の観点から、ゆるやかではあるが隔離対象となっているのである。


鋭くドアがノックされる。

ルカが答える間もなく、ドアは開いた。


「また、もたもたしてる!

 早く用意して!」

 

叱咤とともに、エリシャが飛び込んできた。

つぶらな瞳は真剣そのものの、強い光を放っていた。


「ごめんなさい、もう行く」


スケッチブックと鉛筆を机に置いて、すぐにロッカーを開ける。

そこには、自衛隊の迷彩服がぶら下がっている。

戦闘用の服装だった。


エリシャはすでに迷彩服にヘルメットを身に着けている。

銃器や刃物は帯びていない。

ピアリッジの主な攻撃手段は、肉体から放出するエネルギー波であるためだった。


「いそごう!

 あいつら、今度は蒲田にでてきたんだって!」


せかすエリシャに、ルカはうんざりしつつも、態度に出すことはできない。


エリシャは本気でヴァリアンツを憎んでいるはずだ。

彼女の両親と弟は、ヴァリアンツに捕獲され、直後に死体で見つかっている。


肉親を殺され、天涯孤独となったエリシャは、ヴァリアンツ退治にのめりこんでいた。


が、ルカは家族を失いもせず、ただ異様で不便な状況に陥っただけで、たいした被害はこうむっていない。

毎日学校に通うこともできなくなって、親友のナオミと頻繁に会うことができなくなったことだけが、残念だと思っている。


そのナオミとも、テレビ電話でいつでも話すことはできる。

今、描いていたスケッチも、数日後の登校日にナオミに見せるためのものだった。

ナオミは、一般人は入ることのできない目黒駐屯地の内部に、興味津々だった。

なので、スケッチで見せてあげる、との約束をしたのだった。


もっとも、ルカが住んでいる宿舎からは許可がないと出られないため、とりあえず室内の静物しか見せられないのだが……。


もたもたとルカが装備をつけ終わるまで、エリシャは待ってはいなかった。


「すぐ来て!」


言い残して、部屋から飛び出してゆく。


エリシャが消えると、ため息をもうひとつついて、ルカは手に持ったごついヘルメットを見下ろした。


またも戦い。


そんな怖いこと、したくないのに……。

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