こんなことしても、嫌いにならないで!
ルカは仰天した。
「どうしたの?
もう治ったの?」
エリシャはどこか上の空だった。
戸惑いを隠さず、目を伏せる。
「ううん。
まだ治ってない。
脚もくっついてないかも」
「ちょっと!
そんなので、出歩いたら……」
思わず、エリシャの無謀をとがめるルカ。
が、エリシャはルカの話をほとんど聞いていない。
濡れたようにうるんだ瞳を、ルカに向けた。
「いいよ、そんなの。
でも、ルカは大丈夫なの?
あいつらにやられてたよね……あたしをかばって」
「う、うん。
お医者さんにも、さっき、診てもらった。
すごい回復力だって。
ピアリッジはすごいって、言ってた」
普段とは違うエリシャの様子に、ルカは困惑する。
いつもの傍若無人なエリシャは、今は影を潜め、まるで繊細な子供のようだ。
「痛かったよね。
今もつらかったりする?」
「うん、ちょっとだけ……かな」
「ごめんね、ルカ。
それだけがどうしても言いたかったの。
あたしのせいで……」
泣きだしそうな表情のエリシャは、混乱しているルカに、にじり寄る。
「わたしは、大丈夫だから。
それより、エリシャのほうが、もっと休んでなきゃ」
「もう休んだよ。
今日は、ごめんね、あたしが怪我したから、ルカだけがヴァリアンツと戦って……本当にごめんなさい」
ルカは、ついさっきの生々しい殺戮の光景を思い出し、吐き気を催した。
エリシャはルカの重苦しい表情を見て、胸をかき乱される。
これまでにない、鮮烈な感覚に、全身がしびれるようだった。
わずかでも、ルカの重荷を軽減できれば、と必死に声をかける。
「どうかしたの?」
ルカは言葉を絞り出す。
「いろいろあって……きっとトビヒトさんから話があるだろうけど、わたしって……もう何人も……。
そんなつもりじゃなかったの……。
でも、でも結局、わたしが……何人も……殺しちゃった……」
苦しむルカに、エリシャは声高に叫んだ。
「そんな奴ら、どうでもいいよ!
しかたがない、どうしようもないことだから!
せめてあたしが、その場にいたら、ルカだけにつらい目にあわせなかった、絶対に。
だって、ピアリッジって、あたしたち二人だけでしょ。
それ以外の人間なんか、どうだっていいんだから」
エリシャのいつになく不器用な励ましに、ルカはわずかに微笑んだ。
「ありがとう」
「ううん、こんなこと……こんなことくらい、どうってことない。
ルカがつらいのは、見たくないよ」
ルカは重苦しい気持ちを抱えながら、エリシャに言う。
「うれしい。
……もうエリシャは寝たほうがいいよ。
わたしはもう大丈夫」
力なく微笑するルカのはかなげな表情に、エリシャは吸い込まれるような心地だった。
不意に、エリシャの端正な面差しがルカの顔に接近した。
そっと、唇を重ねる。
互いに、濡れた感触が、ひんやりと口元に残った。
驚いたルカは身を引いた。
エリシャも同じく、自分の衝動的な行動をにわかには信じがたかった。
いつもは白磁のような肌が、顔から首まで真っ赤に染まっている。
かすれた声で、早口にささやいた。
「嫌いにならないで!」
足を引きずりながら、逃げるように部屋を出た。
残されたルカは呆然と閉じたドアを眺めていた。




