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ふたりの終わり

富士山内部の奥深くに築かれた、ヴァリアンツのとりで。


誰も見るものもないその場所で、二人は互いを見つめあっていた。


彼女らは超常の力を得たピアリッジだった。

かつて宇宙の深淵より、地球に異形の怪物、ヴァリアンツが来寇した。

彼女たちは、ヴァリアンツに対抗できる人類の決戦兵器ピアリッジなのである。


超人類である彼女らの姿は、直前の凄惨な戦いによって傷ついていた。


長髪の少女の、淡い燐光を放つ白い肌は、痛々しい傷におおわれている。

もう一人の少女がまとった衣服も、いたるところが破れ、戦塵に汚れていた。

周囲には、おびただしいヴァリアンツの死骸が転がっている。

すさまじい死闘が、終わったばかりなのだった。


そして、今、地球にたった二人しかいない彼女たちは、悲嘆と驚愕に包まれていた。


長髪の少女、エリシャが口を開いた。


「どうしても……あたしが死ななきゃならないって……。

 あなたはそう言うの……?」


エリシャの目はいまださめやらぬ衝撃にうちふるえ、大きく見開かれていた。


その視線に耐えかね、相対するルカは泣き声をあげる。

血の気の失せた白い唇が、激しく震えていた。


「ご、ごめんなさい!

 そんなつもりじゃなかった。

 でも、わたしは、もうエリシャを殺すしか……」

 

「あたしたちは今までずっと一緒に戦ってきた仲間なのに。

 あたしはルカをとても大事に思ってきたのに。

 なのに……そんなのって、ないよ……」

 

「わたしだってそうだよ!

 わたしだって、エリシャのことを大切な仲間だと思ってる!」

 

「……嘘つき。

 ルカは、あたしのことなんて、結局どうでもいいと思ってる。

 だから、殺そうとしたんじゃない」


「ど、どうしようもなかったの……。

 だから、こんなことになっちゃった……」

 

「もう、わからないよ。

 あたしはまだ死ねない、あいつらを全滅させるまでは。

 でも、ルカとは戦えない」

 

呆然と立ち尽くすエリシャの前で、ルカは地にくずおれた。


「エリシャを傷つけるつもりなんてなかったのに……。

 そんなこと今まで一度だって思ったことなかったのに……。

 わたしは弱い、どうしようもなく弱くて……」


ルカは涙を流した。

能面のような無表情で、エリシャはルカを眺める。


嗚咽で声を震わせ、ルカは言った。


「……いっそ、もう、わたしを殺して」

 

エリシャは、力なく背後へよろめいた。


「そんな。

 そんなこと……できっこない」

 

「もうなにもわからなくなっちゃった。

 ただ胸が苦しくて、もう、耐えられそうにないの。

 ほんの少しだって、ここに居たくない。

 もう、消えちゃいたい」

 

突然、エリシャは激昂した。


「できるわけないでしょ!?

 わからないの?

 あたしがルカを殺すなんて!!

 ……いったいどうして、わたしたちはいままで一緒に戦ってきたの?

 二人で殺しあうためなの?」


ルカは、悄然と地面に視線を落とした。


「全部わたしのせいだよ、わたしの……。

 だから、もういい……。

 もう、終わらせて」

 

エリシャはしおれた花のようなルカを、凝然と見据えていた。

固く引き絞った唇から、血がしたたり落ちた。


すでに日が落ち、闇に包まれた外界では、冷たい風が荒れ狂っていた。

 

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