金髪ロシアっ娘メガネの『あなすたしあ』
先週の事でしたが、ネット小説大賞様から感想頂きました。
有難い有難いです……
「神サマ、今日モ頑張ッテクレテマスネー!!」
「ああ、掃除どうもな、あなすたしあちゃん。」
今日の『監視員』は、日本人の父とロシア人の母を持つハーフ、金髪メガネっ娘の『癒し系』あなすたしあちゃんだ。
あなすたしあちゃんはさっきから忙しなく動き、隅々まで部屋の掃除をしてくれている。
フワフワのカールのかかった細い金髪をシニヨンに纏めて、更に白い三角巾をかぶり割烹着を着ている。
しおらしくてなかなか似合ってるな、純血なる日本人よりも日本人らしいぞ、なんて思いながらオレは『進め! 蜂』の4コマ漫画を描き続けた。
オレが、その昔描いていた漫画『進め! 蜂』を少しでも描かない限りこいつらはパソコンの中に戻ってくれない。
新作を描かせて貰えないのだ。何という事だ、『人』が『神』を支配するとは。
ーーでも、このあなすたしあちゃんだけはこのまま居てくれてもいいかな、なんて思う。
自分の作ったキャラクターと結婚できるならどんなに良いだろう。
「あなすたしあ、さっきから掃除しっぱなしで疲れただろ? 一緒にお茶にしようぜ。オレ淹れるから。」
「スパシーバ! デモ、神サマニオ茶淹レテ頂クナンテ罰ガ当タリマスー。」
あなすたしあはいそいそとガス台の前に立ち、お湯を沸かしはじめた。
「粗茶デスガ!」
緑茶と羊羹を2人分、テーブルの上に置いて金髪美少女はふんわりと花開くように微笑んだ。
可愛い。
他の3人もこれくらい愛想があればな、と思う。
このお茶も羊羹も、金の無いオレの為にバイト代で買ってきてくれたものなのだろう。彼女は近くのロシア料理店でバイトをしているという話だった。
オレは有り難くご馳走になる事にした。お茶は適度な温度で大変飲みやすい。
お茶の湯気があなすたしあのメガネを曇らせていて、そこがまた愛らしい。
「あなすたしあ、凄く美味いよ。お茶淹れるの上手だね。」
「アリガトウゴザイマスー! 神サマニソウ言ッテ頂ケルトトテモ嬉シイデス。」
「緑茶は君の日本人のお父さんの好物だったよね、そう言えば。」
お茶と羊羹を堪能し終え、さてとばかりにオレは金髪の美少女に質問をした。
「あなすたしあは、どんな場面でどんな事をしたい? 参考にするから。」
あなすたしあは小首を傾げ、不思議そうに言った。
「『ドンナ事』? オッシャル意味ガ分カリマセーン。」
そんなに日本語難しかったかな。
オレは、より分かり易く説明をした。
「例えばさ、4人で遊園地に行きたいとか、そこでどんな乗り物に乗りたいとか、どんなハプニングが欲しいかとか。」
あなすたしあはますます不思議そうな表情を浮かべた。
「私ハ神サマノ望マレル方向に行動スルマデデース。神サマノ御意志が私の意志デース。」
そうか、彼女は敬虔な信徒なんだ。その『神』がキリストでも仏陀でもなく、しがない漫画家兼コンビニバイトのオレだという所が可哀想だが。
「ウーン、じゃあ『神』として言うけど、これから君はどうなりたい? 何でも願いを叶えるよ。」
「皆ト一緒ニ、当タリ前ノ毎日ヲ楽シク過ゴシタイデース。
パソコンヤDVDノ中ハ、時ガ止マッタママデ神ノ存在ヲ感ジラレナイ世界デ、不安デシタ。」
あなすたしあは悲しげに言う。
そんなに寂しい思いをさせていたのか。3次元ーーつまりオレの世界でも色々な事情があったとは言え、本当に悪い事をしたんだな。
思えばオレは彼女達の事を仕事の材料としてしか捉えてなかった。これからは『神』として自覚ある行動に出よう。
ーーまあ兎に角、パソコンの中に帰してからね。
「あなすたしあ、羊羹だけじゃ足りないだろ、ラーメン屋行こう……ってえ!?」
気付くと割烹着に三角巾を着けた金髪美少女は、部屋の中央に跪いて床にキスをしていた。
某超有名なロシア文学の主人公だよ。ロジオンロマーヌイチ何とかニコフだよ。彼女は殺人も犯してないのに。何の罪も犯してないのに。
ーー悪いのはーー。
っていうかでもやり過ぎだ! やってみたかったのかそういうのを!?
オレは彼女を抱き起こし、割烹着と三角巾を脱がせてあげてからいつものラーメン屋へと連れ立って向かった。