茶髪の『柿』
「……お前は今日はバイト行かないのか。」
「行かないわよ。今日は私が『監視』の日。」
オレの作ったキャラクター『進め! 蜂』団の中でも最も手強い少女、『冷徹なツッコミ役』と設定した茶髪ボブの柿(そのまんま『かき』と読む)が、テレビを観ながらどうでもよさそうに返事をした。
オレはもはや新作の執筆を半ば諦めて『進め! 蜂』の4コマ漫画を描き続けている。
「……テレビ、面白いか? 最近そうでもない番組が多いだろう。」
手休めのつもりで柿に話し掛けてみた。
柿は冷たく返事をする。
「面白いわよ。よく観てればアニメもバラエティもニュースも映画も何でも面白いわ。」
「そりゃ良かったな。」
「逆に何で面白くないと思う物を家に置いている訳。観なければいいじゃない。」
仰る通りです。
ホントこいつ、こういう奴だったな。
「DVD観たりする時とかさ、必要なんだよ。」
と、オレ。
「それならパソコンで充分だと思うけど。」
はいそうですね。
お前オレが『神』だって事忘れてない?
と、柿はやおらキッチンに立ち、何やら作り始めた。腹減ったから自分用の飯でも作るのかな。
しばらくゴソゴソジャージャーやった後、
「ん。」
コトン、とオレのデスクにおにぎりが3つと形のいい卵焼きが並んだ皿を置いた。
「え、作ってくれたのか。」
「腹ペコで執筆させる程私は鬼じゃない。」
「……ありがと。」
ちょっと感動してしまった。
いただきます、と手を合わせてまずおにぎりからかぶり付く。
ブホッ!!
これは……ユニークというか、何というか……。いや、食べられない程じゃないんだけど。
「……なんで、おにぎりに生ニンニクの細切れが入ってんの?……」
「だってスタミナ付けてほしいじゃん。」
「いや、米自体がスタミナ源であってだな。」
「卵焼きにも入ってるから、ニンニク。」
こいつは本当にオレを漫画製造機にしか思ってないんだな、という事がよく分かった。
てめえ、漫画の中の扱いがどうなるか覚えて……。
「今、私を漫画の中で酷い目に遭わせてやると企んだでしょ?」
ギクッ。
「いいわよ別に。私は皆と違ってそれ程『存在』に執着してないから。なんなら出してくれなくてもいい。」
冷たい空虚な目でオレを睨む柿。
オレは彼女の奥底に眠る根の深い「悲しみ」を知った。
次に描く時は、こいつをもっと優しい女の子にしてやろう。
「ごちそうさん。お前は腹減ってないのか。」
「減ってないと言えば嘘になる。」
途端、柿はグ〜、キュルルルと腹を鳴らし、不機嫌そうに顔を赤らめた。
オレの前での失態を自分で責めているようだ。
「ラーメン屋でも連れてってやるよ。」
オレは柿と連れ立って例のラーメン屋に行く事にした。睡眠は、後だ。