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黒髪の『弓』

 


  『神』たるオレの「生活を支える」為にキャラ達がアルバイトに行っている為、確かに金の面では楽になった。


  そこは素直に感謝しなければいけない。


  しかしこいつらがいるせいで皐月サマを主人公に据えた新作漫画が描けない事に頭を抱えている。

  最近コンビニのバイトにも行けてないし。皐月サマにも会えてないし。



  銀髪がネックになってアルバイトの面接に落ち続けていたというリーダーの桜も、秋葉原の何とかいうコスプレメイド喫茶に受かったという話で、家を空ける事が多くなった。



  ……それで今、自宅兼仕事場のオレの部屋で静かに本を読んでいるのは、黒髪ロングで『天然な性格』と設定した弓だ。


  「……えーと……。何読んでるんだ?」


  「『電気羊はアンドロイドの夢を見るか?』」


  「……タイトル逆じゃねーの? 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』だろ?」


  「あ、そうだった。」


  弓は無表情で自分の頭を小さなゲンコツでコツンと叩く。

  可愛くない事もないが、そんなんで本の内容が脳味噌に入るんだろうか。


 

  こいつらは一致団結して、最低でも1人は家に居てオレを監視することにしているらしい。

  オレがちゃんと、こいつらの登場する漫画『進め! 蜂』を執筆するかを見張っているのだ。


  ……自分の作った『人間』に監禁されてる神ってどうなの。


  おかげで最近のコンビニバイトはさっき言ったように行く時間を減らしているし、シフトもこいつらが寝静まった深夜に代えて貰った。


  本当、どうにかしなければ。


  「……じゃあオレ、寝るから。」


  「おやすみなさい。」


  すっかり昼夜逆転したオレは今眠くてたまらない。


  ベッドに潜り込み、目を瞑った瞬間。


  「ーーねーむれー、ねーむれー、はーはーのぉむうねーにー。」


  「……何歌ってんの。」


  「子守唄。」


  「いやそれは分かるけど。」


  「……。」


  「あの、かえって眠れなくなるんでやめてくれないかな。」


  「そう? 分かった。」


  弓は静かになったが、まだ枕元に気配を感じる。寝るまでいるつもりなのだろうか。


  そしてこれが弓の癖でもある。


  オレは仕方なくそれをいつもどおり無視して、眠りに集中する事にした。




  何時間眠っていただろうか。部屋の中はもう薄暗くなっていた。


  「ん……。おーい、弓ー。」


  返事が無い。どこかに出かけたのだろうか。

  オレは電気を点けてベッドの足元に目をやると……。


  弓が丸くなって、寝息を立てていた。

  動物か! 猫か!!


  オレは弓の丸く柔らかなほっぺを摘んで起こそうとした。


  「おーい、腹減ってるんじゃないのか。ラーメン屋行くぞー。」


  弓はううん、と唸り、


  「いってらっしゃいませ神。」


  と返事をした。眠いから寝させろという意味らしい。


  自由に出入り出来るなんて、これ監禁になってないじゃないか。監視員失格だな。


  オレはここをチャンスとばかりに、デスクに座って新作のアイディアに取り掛かる。



  するとーー。



  「何をしてるのか神。」


  「うわあ!!」


  いつの間にか弓が後ろに立っていた。


  「『進め! 蜂』団の漫画以外は描く事を許さぬよう、皆んなで決めた。」


  「勝手に決めんな!!」


  そういえば、弓の設定はこんなだったっけ。


  【天然だけど、妙に鋭い所がある。】


  オレは渋々『進め! 蜂』団の4コマを1つだけシャーペンで描いてやる事にした。


 

  他の3人が帰ってきた際、それを見せるとそれはもう凄い喜びようであった。


  最初からこうしていれば良かったのだ、とオレは思った。


 


 

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