キャラ達の願い
「……『桜』……。『結本桜』、か……?」
「そうでふ! 桜ちゃんです!!
何年ぶりですかしらねえ、神サマ。」
「神サマ」なんて呼んでくれてる割には偉そうな感じでオレの前に仁王立ちし、挑戦的な瞳でオレを見つめている銀髪の美少女。
設定上は確か15歳だったはずだ。
「う、うん、久しぶり……。って、そういう問題じゃねーだろ!!」
「じゃあどういう問題なのさ。」
結本桜……。桜は、物珍しそうに部屋を見渡し、やがてやれやれだわとどこぞのスタンド使いっ娘といった感じで首を振る。
「すっごく汚いお部屋!! 神サマ、これはお掃除しないといけませんです。
私達ってこんな部屋から生まれてきた訳?」
と、銀髪美少女は落胆半分、興味半分で部屋を歩き回る。
オレの方はというと、この異様な事態を何とか自分自身に受け入れさせる為、反対にその元は2次元の住人だったはずの桜と名乗るどう見ても実在する3次元の少女をじっくりと観察する事にしていた。
銀髪ロングヘアで目が大きい、碧眼、色白、頰はピンク色で唇にツヤがある。
身長は160センチくらいに設定していたはずで、只今狭い部屋の中をお散歩中の銀髪少女とシルエットがピッタリ合っている。
ご丁寧な事に胸の大きさまで、オレがなんとなくの好みで描いていた膨らみと一致している、ヒップの丸みも確かにあんな感じのラインだった。
……こうやって現実の世界で見ると、銀髪碧眼のせいでコスプレじみてはいるがなかなか魅力的な少女ではあった。
コミケとかに行ったらバンバン写真撮られそうで。オレコミケって行った経験無いから聞いた話からの想像だけども。
『そうか、オレ、女の子を描くのが苦手とか言いながら結構良い線のキャラを作ってたんだ。』
……なんて文字通り自画自讃……いや絵じゃないから自像自賛なのか、とにかく良い方に現実逃避して自信を付けている間に、問題の銀髪少女は自らが這い出て来たパソコンのマウスを弄っていた。
「……おい、何やってるの?」
「決まってるっしょ。私1人で掃除するの大変でふから、弓と柿、あなすたしあも召喚しまふ。」
「っておい本当に何やってるんだ!?」
弓と柿、ロシア人留学生と見せかけつつ単なる日本人とロシア人のハーフのあなすたしあも当然オレが数年前に作ったキャラクターだ。
弓は黒髪ロングで釣り目のボーッとしたキャラ、柿はボブヘアの冷徹なツッコミ役、あなすたしあは金髪の癒やし系メガネ女子である。皆オレの処女連載作たる『進め!! 蜂』の登場人物であるのだが。
……これ以上非現実的な事が起こってたまるか。
「おい、頼むからやめてくれ!!」
「だーめ、皆にも神サマの世界を見せたいの。……大切な用事もあるっちゃし。」
桜と名乗る銀髪少女はマウスをこれでもかという程に素早く動かし、フォルダの中から次々とカラーイラストを開いていった。
バチッ!! ビキッ!!!
さっきと同じくらいのもの凄い音をさせてパソコンが閃光し、揺れる。
「はーい、皆順番にね。まずは弓から!!」
桜が誘導する。
銀髪少女が出てきたのと同じ要領で今度は黒髪のセーラー服少女がゆっくりと這い出て来た。黒髪でしかもロングヘアである分、桜の時よりもますます貞◯感が増す。
「はーい、次は柿!!」
栗色の髪の毛をした冷たい目の少女がこちらを見据えながらパソコンから這い出て来た。
どうでもいいけどお前ら、靴を脱げ。
「最後に、あなすたしあ!!」
メガネをかけた、ゆるふわ金髪少女が困ったように這い出て来た。
2次元の時は他の日本人キャラと描き分けできていなかったが、3次元になったらちゃんとハーフっぽくなっている。
驚くべき事に、この子はパソコンから這い出し終える前にきちんと靴を脱いだ。
『神』たるオレの意識が通じたのかもしれない。オレはこの子に好感を持った。
銀髪の桜が叫ぶ。
「進め蜂団、只今神の元に召喚されました!!」
召喚した覚えなんて無いし。
彼女達は、すぐさま部屋の掃除に取り掛かった。
「……汚いわね、ここが本当に神の部屋?」
と、黒髪弓。
「そうらしいよ。私も最初見てびっくりしたんじゃけどね。」
と、銀髪桜。
「野郎の一人暮らしじゃしょうがないだろ。」
と、ボブヘア柿。
「ナルベク、キレイニシテサシアゲマセウ。」
と、金髪メガネあなすたしあちゃん。
その間オレは、少女達の動向をはらはらしながら見守っていた。
こいつら結局何しに来たんだ?
まさか部屋の掃除だけでは終わるまい。
「私達の願いはただ1つ。」
と、掃除が終わって桜は叫ぶ。
綺麗に片付けられた部屋の真ん中で4人のセーラー服少女に囲まれ、オレは佇んでいる。
「それは、進め蜂団の再結成でありまふ!!」