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嵐の前触れ

 


  『ノルマ』として課されている『進め! 蜂』の4コマ漫画を全力で書き終えてから、オレはひと心地つき呟いた。


  「さて、コンビニ行くか。」


  桜、弓、柿、あなすたしあの4人全員が、偶然それぞれのバイト先でトラブルがあったという事で、オレは久しぶりに『監視』抜きの昼間を手に入れたのだ。


  何しろ4人が働いてくれているとは言えまだまだ金の足りないオレは、深夜のコンビニバイトを続けているからな。


  かと言って、この貴重な解放の時間を無為な睡眠に使う等という愚行には走らない。


  土日休日の昼のコンビニには、バイトの後輩であり女子高生であり、何よりオレがこれから描こうとしている新作漫画のヒロイン(の、モデル)たるきゃわわツインテール小柴皐月サマが働いている。

  そしてラッキーな事に世間様は本日、土曜日である。



  「我らが『進め! 蜂』団の復活なくして、新世界の創造などもっての他なのです!」



  と、リーダー格の桜が宣言していたが、こっちだって漫画家人生が掛かっているのである。

  『神(作者)』無くして『人間キャラクター』は存在し得ないだろう。


  だから、今オレが皐月サマに会いに行って新作キャラクターの肉付けする作業に入るのは仕方ない。

  うん、仕方のない事なのである。


  あいつらにとって、皐月サマは自分達の存在を脅かす『新世界の人間』という事になってるらしいからな。

  皐月サマは4人と違って正真正銘3次元の人間なんだけど。

 

  今絶賛バイトで稼ぎ中の4人に対してちょっと罪悪感はあるがオレはしばらくぶりに皐月サマに会いに行く事にした。



  「あれー!? 原口さん、久しぶりじゃないですかー!?」



  丁度バックヤードで休憩を取って、ツナのおにぎりを食べていた皐月サマは、相変わらずのドングリ眼をパチパチさせ、嬉しそうに突然の訪問を歓迎してくれた。


  「うん、皐月ちゃん、久しぶり。元気そうで良かったよ。」


  皐月サマの明るい笑顔を見て、ホッとするオレ。あなすたしあちゃんも良いけど、やっぱり皐月サマの笑顔は癒される。


  「聞いてると思うけど、今ちょっと都合が悪くて深夜のシフト入れてるんだ。」


  「『都合』って漫画の事ですか!? 」


  「うーん、まあ、そうかな。」


  途端に皐月サマのテンションが上がる。

  それにしてもオレは何で面と向かっては『皐月ちゃん』呼びで心中ではサマ付けなのか。


  「えっと、それってもしかして……。」


  皐月サマはテンション上げーの、その次にちょっとモジモジし出した。


  「私を、モデルにしてくれてるっていう例のお話し。あれ、ですか?」


  「う、うん。」


  歯切れの悪いオレの返事。

  嘘ではないんだけど、今はあいつらにねだられて旧作の4コマばかり描いているからな。


  大体、「パソコンの中からオレの昔作ったキャラクターが這い出て来てさあ」なんて言える訳がないし。


  でも、皐月サマをモデルに描いた女の子の原稿は持って来てあげた。


  「これ、一応描いてみたから見せようと思って……。どう?」


  「! 凄い……!! え、コレ私ですか!? 凄い可愛く描いてくれてるじゃないですかあー!!」


  キャッキャと嬉しそうに原稿を眺める皐月サマを見て、こちらも嬉しくなる。

  やっぱり、彼女をモデルにして正解だったと確信した。

  後は、本来の目的であるキャラクターの肉付けだ。


  「……それでさ、今まで皐月ちゃんの趣味とか、好きな事とかあんまり聞かなかったじゃん? オレの悩みとかを聞いて貰うばっかりでさ。

  で、改めて皐月ちゃんの事知りたいんだけど、バイト終わったら時間ないかな。」


  あの4人が帰って来るのは夜の7時過ぎ頃だ。皐月サマのバイトが終わるのは4時、時間は充分ある。


  「勿論、大丈夫ですよー!! わあ、何だか凄い楽しみ。」


  「そう?」


  「それは楽しみですよう! だって、何か2人で新しい人間を創るみたいじゃないですか? ワクワクしちゃいます!!」


  新しい人間、と聞いて内心気が気でなかった。桜、弓、柿、あなすたしあの存在が頭をよぎったからだ。


  ーーいやいや、ここは一旦あいつらの事は忘れよう。新作の方ーー皐月サマーーに集中するのだ。

  新しい世界を創ろう。

  それが結局、廻り廻って4人の為にもなるのだ。


  新作に集中して、もしやそっちが上手くいったら同人誌やツイッターやブログ、投稿サイトなんかであいつらを改めて発表して。

  ーー時間的に余裕があったらだがね。



  「じゃ、オレ向かいの喫茶店で待ってるから、終わったら来ておくれよ。」


  「はーい! 急いで行きますね!!」


  「急がなくても向かいの店だから……!」


  皐月サマとの約束を取り付けて、オレはコンビニを出た。


  これが後々大変面倒臭い事になるとは思いもせずに。

 

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