表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水の嫌いな水精霊使い  作者: アモール
一章 王立学園
22/26

七話 救いに

 ーー意識が覚醒する。

 最初に感じたのは、激しい頭痛だった。


「……ッ」


 痛みに歯を嚙み鳴らし、アクシルは頭を抱えて身体を丸める。


 閉ざした瞼裏に、光が瞬いた。


 ーーいったい、なにがーー、


「アクシル様、しっかりしてください!」


 男の呼ぶ声が聞こえ、目を開いた。

 木目のある低い天井が見え、次いでアクシルの顔を覗き込む男に気づく。


 灰色の短髪をボサボサに乱した男に何者かと息を呑み、それがミロなのだと気がついた。


「……ミロ、か」


「はい」


 いつもの鎧を脱いで楽な格好をしたミロは、疲労によってか顔色が悪い。


 アクシルが身を起こそうとすると、慌てて押し戻してくる。その手には、包帯が肘まで巻かれていた。


「それ、怪我したのか」


「自分の事などいいのです。それより、まだ無理をなさってはなりません。魔術の後遺症が残っているようですので……」


「いったい何がどうなったんだ?」


 馬車の中で襲撃にあったことは覚えているが、それからの事はさっぱり分からない。


 つとアクシルは辺りを見回す。そこは、小屋のような部屋の中だった。


 木の柱に木でできた壁、アクシルが寝ていた硬いベッドと棚、そして一組のテーブルと椅子のみの質素な部屋。


「此処は?」


「ーーガルム村の宿です。……我等は村の近くで襲撃に遭い、道に放り捨てられていたようです。抵抗しましたが魔術で乱され……気がつけば此処に」


 膝をつき、ミロは身を震わせる。押し殺した嗚咽が漏れた。


「誠に申し訳ございません。騎士という身でありながら、あっさりとやられるとは……」


「気にするな、命があっただけマシだろうに」


 その言葉に、ミロは呆然とアクシルを見上げた。怒られ罵られるとでも思っていたのだろうか。


 アクシル自身抵抗する前に倒れたのだ、ミロを責める資格はない。


「それで、そいつらの目的はなんだったんだ?」


「は。ーー竜車と積荷、全て奪われてしまいました。話によればここ最近、村近辺にて盗賊が横暴していたらしく……金目の物を狙っての犯行でしょう」


 拳を握りしめるミロ。

 そこでようやく、アクシルは少女の姿が一向に見えないことに気がついた。


「そうだ、リリーは? 無事なのか」


「リリー、ですか。彼女は……その……」


「まさかーー」


 嫌な想像に、アクシルは立ち上がりかける。瞬間、激しい眩暈にベッドから転がり落ちた。


「アクシル様おやめください! 頭に怪我だってあるのですから!!」


 言われて、頭部に包帯が巻かれているのが分かった。ミロに身体を掴まれるが、強く振りほどく。


「だからなんだ……俺は、助けに行くぞ」


「……何故ですか? 彼女は、所詮ただの使用人なのですよ? 主人たる貴方様が無理をする必要はない、盗賊など騎士団に任せてーー」


「リリーは、学園に行くのを楽しみにしていた」


 アクシルは、ふらりと身を起こす。


「こんな不吉な俺に、嫌とも言わずついて来てくれたんだ」


「アクシル様……そんな事、使用人としては当たり前で……」


「違う。そうじゃない」


 鋭い視線を向ける。驚きに息を呑むミロに、アクシルは両手を見下ろした。


「そんな事はどうでもいい。俺は、リリーと話をしていて、ずっと抱いていた嫌な感情が和らいだんだ」


 昔から呪われた者だと蔑まれ、自分なんて生きる意味も、未来を見ることすら無意味だと思っていた。


 ローグのことを信じてくれていたが、それでも奥底では暗い考えが消えなかった。このまま悲劇を演じていて、いつか失望されるのではないかと。


 ーーけれど、リリーを見ているとそれが馬鹿らしく感じられたのだ。

 自分とは正反対を向くリリーと共にいると、何か変われる気がして。


 それを奪われるのを黙って見ていては、また同じになってしまう。また、あの苦しい世界に取り残されてしまう。


 だからーー、


「リリーを救いに行く。たとえ一人でも」


「無謀です! 変な魔術を使う盗賊ですよ? 今まで、周りが何もして来なかったわけではないはず……それなのに真昼間に襲撃できる盗賊の規模が、一体どれほどのものか……」


「俺が寝ている間、聞き込みをしたのか?」


「……まだ、です。本部に聞くにしても、伝達用の魔石すら奪われていますから……こんな田舎に果たしてあるか分かりませんし」


 尻すぼみに言うミロに、アクシルは肩を竦めた。


「何も分からないってことか。ーーそれに、救出まで時間がかかっては助かる見込みも低くなる。自分で行くしかないだろう」


「アクシル様!!」


「いいぞ、此処に居てくれれば。叔母様へと連絡をしていればいい」


背を向けると、背後でため息が漏れた。振り返るアクシルに、ミロは呆れたように眉を下げて立ち上がる。


「……どう言っても聞かないのですね。ならば私も共に行きますとも。……アクシル様一人で行かせては、首が飛びかねない」


 やけくそに言い放たれ、アクシルは深く頭を下げた。


「すまない」


「いいのです。どうせ死ぬなら同じですからね!」


 少し食い気味に言われるが、しかしその発言を無視する。扉へと向き直った。


「まずは聞き込みだ。何か知ってる人がいるかもしれない」


  そう呟いたと同時、突然扉が開け放たれた。ミロはアクシルの前へ飛び出し、身構える。


「落ち着いて。その話、僕も混ぜてほしいんだ」


 両手を上げて現れたのは、首にかかるぐらいの銀髪を切り揃え、髪と真逆の黒目を吊り上げた青年だった。


 普通にしていれば柔和であろう顔は、しかし怒りにか固く引きつっている。ミロは訝しげに口を開いた。


「何者ですか」


「僕はソーク、君と同じように知り合いを連れていかれたんだ。だから手を貸したくて、さ」


「盗み聴きするような人間の話、信じるに足る証拠はありますか?」


「……あぁ、話を盗み聞きしたのは謝るよ。けど、僕としても説明を長々としてる時間は余りないんだ。一つ言いたいのは、一緒に行けば役に立つし、勝つ見込みが増えるということ」


 ソークと名乗った青年は片手を伸ばした。その瞬間、掌の上でバチリと火花が散る。


「見ての通り、雷の精霊と契約してる」


 不敵に、ソークは笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ