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水の嫌いな水精霊使い  作者: アモール
一章 王立学園
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六話 危機

 竜車は向きを変え、再び走り始めた。


それから少しして、雨がポツポツと降ってきた。リリーが慌てて窓を閉める。


「大丈夫ですか?」


「……おぇ」


「わー!? アクシル様、我慢してください! ほら目閉じて、閉じて!」


 口元を抑えるアクシルに、リリーはあたふたと手を彷徨わせる。


 一番最悪なのは草を濡らす雨の香りだ。窓を閉めても、嫌でも鼻につく。


「駄目なんだ……きつい」


「ほんっとに嫌いなんですね……。話には聞いてましたが、まさか此処までとは」


 なんとも言えない表情を浮かべる。アクシルは吐き気を堪えて鼻を摘んだ。


 が、数秒も経たぬうちに酸欠になって息を吸い、再び襲う吐き気に息を止める。


 そんな無意味な行動を繰り返すアクシルに、リリーは何かを閃いたのか手を叩いた。


「いい事を思いつきました! 気分転換に質問とかどうでしょう?」


「いや、いい」


 アクシルはきっぱりと断る。


「そんな冷たいことを言わず。ほら、やってみて駄目なら諦めますから」


「はぁ……勝手にしてくれ」


「はい!」


「はい、じゃないが」


気にせず、リリーは指を立てた。


「では一つ。アクシル様って純粋な水以外なら飲めるじゃないですか。でももし、暑い場所で水しか無かったらどうします? 助けは来ません」


「余計に意識が雨へと向く質問だな。……水を飲むくらいならーー」


「なら?」


「我慢する。か、死ぬ」


「はー! つまらない答えですね。そんなのでは駄目ですよ」


 肩を落として残念がるリリー。

 果たして面白い答えとは一体なんなのだろうか……。


 真剣に悩むアクシルは、ふと気持ち悪さが若干薄れていることに気がついた。


「……多少、マシになった気がする」


「本当ですか! 私ってば流石ですね。才能があるかもしれません」


「ーーで、さっきの面白い答えって?」


「……え? えっとですね、それはーー」


 腰に手を当てて満足げだったリリーは、途端に挙動不審になった。視線を彷徨わせる。


「で、なんだ?」


「え、え……うーん」


 必死に頭を回転させているのか、顔が赤くなっていく。


 と、不意に乗り上げたような振動が竜車に走った。軋む音をたてて走行の揺れが止まる。


 狭い竜車内で、リリーは誤魔化すように勢いよく立ち上がった。


「つ、着いたのでしょうか!?」


「……だと思いたいな」


「アクシル様、窓開けますからね。吐かないでくださいね」


「努力はする」


 無理かもしれないがと内心で前置きをして、窓から視線を逸らす。


 瞬間、


「ーーきゃあ!!?」


「!?」


 リリーの悲鳴があがった。何事かと考える前に、腰に括り付けていた護身用の短剣を引き抜く。


 窓か扉が開いたのか、雨粒と風が頬に当たってきた。


 唇を引き結んで素早く一歩下がり、扉へと目を向ける。そして、リリーの姿を見て息を止めた。


「リリー?」


 開け放たれた扉の前、リリーが意識を失って倒れ伏していたのだ。


 雨に濡れた黒髪が、青ざめた頬に張り付いている。


 だが、”それだけ”だった。


 襲撃者の姿は何処にも無く、リリーは見たところ怪我もなく倒れている。

 訳が分からず観察していると、ふと先日の事を思い出した。


 アクシルは眉間に皺を寄せる。


「また俺を騙すつもりなのか? それとも遊んでるのか」


 言いつつも、まったく動かないリリーに不安を拭いきれなかった。もしや、何か病気を抱えていたのかもしれない。


 一応として、短剣を片手に近づいていく。その肩に手を伸ばしたーーその時、


 世界がひっくり返ったような眩暈が襲い、身体の感覚を奪い去った。


 気づけばリリーへと覆い被さるように倒れ、目を回しながらも頭を持ち上げる。


 歪む視界に、何者かの足が映り込んだ。


「あれま。頑丈だな」


「……だれ、だ」


「こりゃ後までひくぞ〜」


 頭部に衝撃が走り、視界が閉ざされた。

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