二話 過去
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無慈悲に降り注ぐ冷たい雨が、目尻から伝う暖かい水と混じって流れてゆく。
雨音と雷だけが鳴り響く、時が止まったような空間。
暗い闇に包まれた深い森の中、まだ幼き少年は呆然と立ち尽くしていた。
まだあどけない顔を恐怖に歪め、瞳は絶望に染まっている。
「……パパ、ママ……?」
けれどその呼びかけに両親が応えてくれる事は、ない。
ふらりと膝を付き、少年は地面の‘‘それ”に小さな手を伸ばす。
真っ赤な血を全身から流しながら、冷たくなった男女二つの身体。
いつも優しく微笑んでいた顔は苦痛に引き攣り、空を虚ろな瞳で見つめている。
寒さと恐怖に震える体で、温もりが消えた母親を抱き締めた。
その体から流れる血が、服を肌を紅く穢してゆく。
「ねぇ、返事してよ……やだよ、こんな……こんなの」
少年は必死に呼びかけて手を握る。
しかし、母親の腕は力無くだらりと地面に抜け落ちた。
「ねぇ……良い子にするから。もう勝手に遊びに行かないから、だからッ」
瞳から涙を零し、少年は冷え切った亡骸を強く抱き締めた。
もう永遠に動く事も、優しく声をかけてくれる事もない。
自分の選択のせいで、両親はーー死んだ。
「……どう、して ママ、パパ
……。う、うあああぁぁあぁぁッ!!!」
悲痛に叫ぶ少年に、残酷な雨が降り注ぐ。
『ねぇ、喜んで?』
そんな楽しげな声が耳朶を打った。
『だって、貴方がそれをーー』
ーー願ったのだからーー。
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