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水の嫌いな水精霊使い  作者: アモール
一章 王立学園
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三話 引っかかり

「なんでレイアが居るんだ。聞いてないぞ」


「秘密。それより、聞いたわ。襲撃者から皆を護ったみたいね! さすがアクシルよ」


 抱きつくレイアを、強引に引き離す。


「帰れレイア。今すぐに」


「いやよ。わざわざアクシルに会いに来たのに、なんですぐ帰らなくちゃいけないのよ」


「どうせ王城抜けてきたんだろ。俺を巻き込むな」


「ち、違うわ」


 分かりやすく口笛を吹くレイア。つとアクシルの肘を見て目を見開いた。


「やだ、怪我してるじゃない」


「君が野蛮にも飛びかかってきたからな」


「ふふ。人の揚げ足取りみたいなその話し方、昔から好きよね。性格の悪さ滲み出てるわ。ーーはい、肘見せて」


 レイアの細い指が、肘に触れる。

 白い光が傷口を覆い、綺麗さっぱり跡形もなく消してみせた。


 次いで自身の頬に触れ、その傷すら一瞬で治す。


「はい、終わり」


「その力……レイアも何かと契約したのか?」


「え、えぇ」


 曖昧に返事をし、レイアはセティアを仰ぐ。


「ちょっとアクシル借りてもいい? すぐ返すから」


「もちろんですわ。その代わり、終わったら何処かに放ってきたでしょう護衛と大人しく帰ってくださる? 責任は負えませんの」


「バレてたのね。分かってるわ」


 レイアは立ち上がり、アクシルの手を掴んだ。


「お話しついでに庭園の花を見て回りましょうよ」


「君ってそんな柄じゃないだろ」


「よく分かってるわね」


 身を起こし、心配そうな顔のローグに目配せしてその場を離れる。


 静かな庭園に着くと、申し訳なく思いつつも仕事中だった庭師を移動させて二人はベンチに腰掛けた。


 色とりどりの花を、レイアはつまらなそうに眺める。


「実はね、最近お上品なお姉様達と花を愛でるお茶会ばかりで飽き飽きしてるのよ。わたくしは花より冒険の方が好きだわ」


「それはまぁ、お姫様だしな。仕方ないと思うぞ」


「……貴方だけにはそんな事を言ってほしくない」


 むすりと不機嫌な顔で一言呟く。そんな姿に、アクシルは目を瞠った。


 どこか、自分と同じようなモノを感じたからだ。


「もしかして、城で何かあったのか」


「何か? わたくしは三女といえ王女だもの。沢山あるわ……精霊との契約だって、複雑な思惑に巻き込まれてウンザリしてる」


「そうか。俺もさ、知ってると思うけど水の精霊と契約したんだ。……両親と同じ精霊じゃなくて、水だった」


「だって貴方、どう見ても水の精霊と契約しそうだものね」


 髪と瞳を見て笑う。


「やめてくれ。俺がどれだけ悩んでると思ってーー」


 言いかけ、レイアの真摯な瞳に直視されて息を呑んだ。


「分かるなんて軽々しく言えないけど、ある程度の事情なら理解してる。だから無理をしてまで此処まできたの」


「なんの為に?」


 問うと、顔を歪めて口を開きーー両手で顔を覆った。


「レイア? 大丈夫か!?」


「平気。ちょっと目眩しちゃっただけ」


 肩を掴むアクシルに、こくりと頷く。すぐさま背筋を正すが、その顔は少し青ざめていた。


「医師に診てもらうか?」


「良いの、もう帰るから……」


 息を吐き、ころりと笑顔を浮かべる。


「ーーそういえばアクシル、貴方は王都の学園に通うそうね。噂で聞いたわ」


「……それ、誰から聞いたんだ?」


「一昨日ぐらいに噂で耳にしたわ。貴方の家系は有名だもの」


 ーーということは、最初から学園へ入れるのを決めてたということか。


 なにが今朝入学手続きをしておいた、だ。

 どこまでもよく分からない人だと、アクシルは息を吐き出す。


「だから、わたくしも学園に通うことにしたのよ。それを伝えるために、わざわざかっ飛ばして来たのだから。あ、あとアクシルの顔も見に……」


 そう言い、アクシルをじーっと観察する。その瞳が微かに揺らぎ、離れていった。


「待て。王城には専属の教え人がいるだろうになんでまた?」


「理由なんて一つだけ、あんな退屈な場所に一刻だって居たくないからよ。だって一緒に通えば、また子供の時みたいに遊べるでしょ?」


「俺は別に」


「はいはい。アクシルが言いたいことはよーく分かってるわ。でももう決めたことよ」


 レイアは一人立ち上がった。

 アクシルを残して来た道を戻りかけ、振り返って指を突きつける。


「楽しみにしてるんだから、ちゃんと通うのよ? また学園で会えるの楽しみにしてるから」


 軽く手を振るその姿が去っていくのを、アクシルは呆然と眺めていた。


「まるで嵐のようだな……そうは思わないか、リリー」


「そうですね。美人なのは認めますが、どちらかといえば男のような荒々しさがあり同じ女として高貴な身として如何なものかと私は思いますね」


「盗み聞きとは趣味が悪い」


 一方の花壇に向かって声をかけると、花の隙間で黒髪が揺れた。

 恐る恐るリリーが顔を覗かせる。


「もしや声が漏れてしまいましたか!?」


「それ以前の問題だ」


「おぉ。さすが、何もかもお見通しでしたか」


「……それでいいや、もう」


 身を起き上がらせ、リリーはそろりとアクシルに近寄った。

 横に立ってモジモジと身を揺らす。


「怒っておりますか。なにせ心配だったのですよ、アクシル様が食われないかと」


「お前は何を期待していたのか知りたくもないが、生憎俺とレイアはただの友人だ。男友達のようなもので、それ以上はありえない」


「……あれ、そうなのですか。てっきり恋仲だと思っておりました」


 目を丸くするリリーを睨み、無視してベンチから離れる。


「あ、アクシル様待ってください。冗談ですから」


 駆け寄ってくるリリーに、しかしアクシルは他の事が気にかかっていた。


 ーーレイアは、本当にそれだけ言いに来たのだろうか。

 王都からこの街まで、馬車で飛ばしても半日はかかるというのにーー。


 何か引っかかりを覚えつつも、アクシルにはそれが何なのか分からなかった。


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