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水の嫌いな水精霊使い  作者: アモール
一章 王立学園
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二話 幼馴染

 シャツにズボンという質素な服に着替え、後ろにリリーを従えて部屋を出た。


 と、屋敷内を歩いていて一つ分かったことがある。

 それは使用人達の態度が少し柔らかくなったことだった。


 横を通り過ぎる時はしっかりと頭を下げ、微かな笑顔すら浮かべて去って行く。


「……どういうことだ」


 嬉しさよりも気持ち悪さを感じて呟くアクシルに、リリーは困ったような笑みを浮かべた。


「それはですね、セティア様のちょっとした嘘のおかげと言いますか……」


「嘘? どんなだ」


「はい。昨日の襲撃に関してなのですが、地下に閉じ込めた人達への説明でアクシル様が襲撃者を撃退したとお伝えしておりました」


「まて、なら今の俺は恩人ってことか?……くだらない」


「くだらなくないです。これはアクシル様の株を上げるチャンスなのですよ!」


 拳を握りしめて力説するリリーに、目を細める。


「よく言うよな。お前も昨日まで同じだっただろう」


「……それを言われると言い返せませんね。でも今は違いますよ?」


「出世のために、か」


「もちろんです!」


 清々しい程にきっぱりと言い切られ、アクシルは口を噤む。


 階段を降って一階に着くと、玄関ホールで他貴族の使用人と会話をしていたローグを見つけた。


 此方に背を向けていたが、会話の相手がアクシルを指差すと素早く振り返り、手を振ってくる。


 近づいてくる叔父にため息を漏らすリリーに、


「もし、俺が精霊と契約できなかったらどうするつもりだったんだ」


「その時はその時ですね」


 アクシルを仰ぎ、にまりと笑った。


「身分差の恋に落ちるのもいいかもしれません。私、アクシル様ならイケます」


「それはそれは。俺の気持ちが変わるといいな」


「あはは。じゃあナシってことですね!」


 やって来たローグは、言い合う二人に目を丸くして眼鏡を引き上げた。


「おや、楽しそうに何をお話しですか」


「くだらない事だから気にするな。ーーところでローグ、昨日から一段と老けたようだな」


 目の下のクマと皺を見つけて鼻で笑うアクシルに、ローグの眉がぴくりと動く。


「それを言うならアクシル様も。昨晩はよく眠れなかったようですね」


「あぁ。お前達のおかげでな」


 肩を竦めて言うと、それ以上追求できないのか誤魔化すように目を逸らした。


「そもそも、セティア様は強引なのです。基本的に精霊術師と精霊の波長は、自然に繋がっていくものなのですから。……それを、ルーベルトをけしかけてまで強引に力を使わせるなど……」


「? それに合意して叔母様に協力したんじゃないのか」


 アクシルの胡乱な問いかけに、リリーは激しく首を横に振った。


「違いますよ! 身内だと手加減してしまうから、襲撃を装ってアクシル様に精霊を使わせるように仕向ける。とセティア様に説明されました。なのでえーっと、ルーベルトさま?」


「あんな奴はルーベルトでいいのです」


 首を傾げる姪に、ローグは力強く訂正。


「じゃあルーベルトで。……本当はその人じゃなくて、セティア様が直々に相手をなさる筈でした。それなのにあんな事になって私も叔父さんも驚いているんです!」


「じゃあ、大体は叔母様の考えってことか」


「まぁ、はい」


 リリーの渋い応えに、アクシルは閉ざされた玄関ホールを睨む。


「ローグ、叔母様は中庭か?」


「は、はい」


 怒りの気配に気づいたローグは身を震わせた。


 バラした事をセティアに怒られるのが嫌だからか、それともアクシルの怒りにか。


「分かった」


 そんなローグの横を通り過ぎ、扉を開けて外へと出た。


 途端、中庭に居た貴族達の視線が一斉にアクシルへと注がれる。その一番前に、セティアが立っていた。


「おぉ、アクシル様だ……」


「命の恩人ですな」


「さすがセルベスト家のご子息」


 ひそひそと会話がなされ、馬車に乗って出発直前だった人達までも出てくる始末。


 が、アクシルは周りは気にせず一直線に足を進める。セティアは驚きもせず迎えた。


「おはようございます。叔母様」


「おはよう。身体はもう大丈夫なのかしら」


「はい、おかげさまで。昨日は色々とありがとうございます」


「何を言うの? 貴方のおかげで皆様が救われたのよ」


 ひたと見据えて返すと、セティアは外面よく笑顔を浮かべる。

 その顔が苛立つのだと言いかけ、大人しく言葉を飲み込んだ。


「あ、そうだわ。今朝学園への入学手続きをしておいたの。あとは王都へ向かうだけだから、そこでちゃんと精霊術について学びなさいな」


「もちろん。私は叔母様の指示に従うのみです」


 周りの貴族は、二人の不穏な気配に勘付いたのか黙って見つめている。


「……それより、昨日は叔母様がルーベルトさんをけしかけたみたいですね。何故ですか?」


「……」


 周りに聴かれぬよう声を落として囁く。

 それに対して、セティアは笑顔を消してアクシルの後ろを見やった。

 つられて見ると、屋敷から出てきたローグが所在なさげに佇んでいる。


「そう言われても仕方ないわね。……ルーベルトについては予想外だったけれど、それもこれも貴方の事を想っての行動なのよ」


「またそれですか。私は、叔母様の事をまったく理解できない……。ルーベルトさんとの関係を知ってるでしょうに」


「それが必要だと思ったからよ。それだけ」


 冷たく吐き棄て、セティアは口を閉ざす。そんな態度に幻滅して肩を落とした。


「言いたくないなら構いません。その代わり、叔母様とは二度と話したくない」


 貴族達に一礼をして、アクシルは屋敷へと戻ろうとする。


 と、


「アクシル、貴方は昨日の夜ずっと部屋に居たかしら」


「はい?」


 セティアの突然の問いに、怪訝な顔で振り返った。


「もちろんです。そもそも、叔母様が部屋の前に見張りを置いていていたのではありませんか。外に出るわけがない」


「そう、よね。ならいいの」


 セティアは神妙な表情で呟き、軽く手を振った。


「部屋へ戻っていなさい。後で話しがあるわ」


「それは命令ですか」


「お願いよ」


 その言葉に、アクシルは言葉を返そうとしてーー、


 突然の嫌な予感に鳥肌を立てた。


「ア〜ク〜シ〜ル〜」


 何処からともなく少女の声が聞こえてくる。アクシルは恐怖に喉を鳴らした。


「お、私はこれで失礼します!」


 慌ててその場から離れようとすると、頭上に影がかかる。


「逃げるなんて失礼しちゃう!」


「!?」


 空を見上げた。そこには、両手を伸ばした美少女が金髪を靡かせて飛んでいて。


 むしろ飛びかかってくる、の方が正しいのか。


 真っ赤なドレスから覗く細い脚と、下着。しかしアクシルは何も感じない。


「ーーレイア!?」


「会いたかったわあぁ」


 唇を突き出し、少女が落下してくる。

 受け止めようとして失敗、二人して地面を転がった。


「アクシル様!?」


「た、大変……」


 一番に駆け寄ってくるローグとリリーに、擦り剥いた肘を抑えてアクシルは身を起こす。


「……平気、平気だ」


 少女は少女で、顔を擦り剥きつつも笑顔でアクシルにすり寄った。

 少女を見た貴族達からざわめきが広がり、セティアは額に手を当てる。


「貴女様はなんてことをなさるの!?」


「久しぶりねセティア」


 にっこりと笑う少女。ローグは眉間に皺を寄せた。


「お久しぶりですね。相変わらず品がないようで」


「貴方はそうね、随分と皺が増えたようだわ」


「……叔父さん、この方は?」


 リリーの疑問に、少女は楽しげに赤目を細める。


「わたくしはアクシルの幼馴染。ーーそしてゼストルフ王の三女、エルレイシアよ」

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