一話 記憶
水は嫌いだ。
嫌な事が起こる時、必ずと言っていいほど水が関係してるから。
俺が大嫌いな奴は水を操る精霊使いだし、俺に不幸が訪れる時も水が関係したりする。
両親が奪われた時だって……
だから水なんて飲むのはおろか、見るのすら嫌なのに。
なのに何故、こんな事になったのか。
ーーそなた様は水の精霊に好意を持たれ、主に選ばれました。それも高位の精霊でございますーー
そうローブを纏った白髪の老人に言われたのは、ほんの数秒前。
髭を撫でつける老人を前にして、俺の思考は停止していた。
は? とか思わず声を漏らした時は叔母にジロリと睨まれたが、今はそんな事を気にしていられない。
「あ、あの。もう一度言ってくれますか? 少しばかり理解が出来なくて……」
「む?」
震える声に老人は首を傾げ、再び同じ言葉を繰り返した。
「ふむ、そなた様は水の精霊に好意を持たれ、主に選ばれたのです。これは一族にとっても素晴らしい事ですぞ」
その言葉は、何回も頭の中で繰り返される。
俺が水の精霊に、好意を持たれただってーー?
俺の内心に気づかない老人は、皺くちゃの顔を綻ばせた。
「アクシル様、おめでとうございます」
老 人が深く頭を下げる。
と、広々としたホールに集った人々から、盛大な拍手が巻き起こった。
「嘘……だろ?」
呆然と俺は呟く。
「本当でございます」
響き渡る沢山の歓声は、まるで俺を嘲笑っているように聞こえてきた。
ーーそれは、全ての始まりだった。