ぶっきょう!
あまり変わっておりませんが、細かい修正をしました。
子供のとき、お盆の墓参りで手を合わせる母に「なんて拝んだらいいの?」と尋ねたら、「……さあ?」と言われました。
それ以来、成績があがりますように、彼女ができますように、お金が手に入りますようにと、ご先祖泣かせの場違いな祈りを捧げてましたが、熱心にお墓に拝みつづける姿を和尚に見込まれて、今の寺を継ぐことが決まったのです。
しかしフタを開けてみれば檀家の少ない小さなボロ寺です、経営はすでに行き詰まっており、いつの間にか和尚は行方をくらまして連絡不通になり、口にこそ出しませんでしたが一杯食わされたのではという疑念がいつまでも付き纏いました。
このままではこちらがお陀仏です。私は貧乏寺脱却を目指して、運営の改革を余儀なくされました。そもそもこの寺には、神社や娯楽施設まであって節操がありません。
ヤケクソになった私は、最初に寺の門を金色のペンキで塗ったのです。するとお布施が増えました。
勢いに乗った私は、卒塔婆をピンクに塗りましたが、一部のナウでヤングな老人を除いて、これは不評だったので元に戻しました。何事もやり過ぎはいけないと学習しました。
人間の欲望の裏をかき、賽銭箱に「さい銭10倍返し!」と書いたところ、みるみるうちにさい銭が増えました。調子に乗って、20倍返し30倍返しと書き換えていったところ、1万倍返しを過ぎた辺りから胡散臭くなり、さい銭は減りました。やはり、やり過ぎはよくありません。
何しろ10円入れれば、10万円に成って自分の懐に返ってくる計算ですから、みんな10円しか入れなくなってしまったのです。結局、「さい銭167倍返し」と中途半端な数字になったのは、実はそういった事情からで、寺の教えなどは一切関係ないのです。
だったら賽銭箱を増やせばどうだろうか。物覚えが悪く読経も一部怪しい私ですが、行動力だけが取り得です。さい銭箱を7か所作ったところ、なんとお布施も7倍になったのです。
だが、これにも落とし穴がありました。12ヶ所に増やしたら、後半の賽銭箱にたどり着く前に、お客さんの手持ちの小銭が切れてしまうのです。当然といえば当然です。自分の稚拙で浅墓(寺だけに)な考えに、私は悔し涙で毎晩枕を濡らしました。
急いで寺の入り口に両替機を設置しました。その横のテーブルゲームはダミーです。主人公が銃で敵を撃ちまくる、やや倫理的にマズイ内容のゲームが入っておりますが、このゲームが好きなんです。一度クレームが来ましたが、ゲームの中で亡くなられた非存在キャラもちゃんと供養していますよと真顔で答えたら引き下がりましたので、ほっと胸を撫で下ろしました。
元々、寺には古くて小さい賽銭箱があったので後で破棄しようと、本堂の裏の軒下に隠して放置したのですが、誰が見つけたのか、朽ち果てた雰囲気が逆に神秘性を生み出し、クチコミが広がり、お布施の高ベンチマークを叩きだす賽銭箱に成り上がりました。こういうの、皆さんが好きな隠れキャラ……というのでしょうか?
隠れキャラ……ふむ。ヒントを得た私は、護符と名づけたお守りカードにイラストを載せ、時々隠れキャラを忍ばせて販売することを思いつきました。徐々にカードの種類を増やしていくとコレクション性が出てきて、集め始めるお客さんが出て来ました。それっぽい説明と数字、属性を書き加えて、「護符戦」が出来るようにしたのもヒットした要因かもしれません。
「護符戦」とは、想像上の魑魅魍魎を護符から召喚して仮想の戦を行うのだが、プレイヤーである術者とカードの結びつきが強ければ強いほど攻撃力が増す代わり負傷も具現化し、召喚獣が受けたダメージをと同じ傷を術者も負うなど設定に凝りはじめると、もう自分で書いててどんどんワケがわからなくなっていきましたが、飛ぶように売れました。
途中からガチャ制度を採用した護符販売もレアカード、Sレアカード、Sウルトラレアカードと順調にインフレが進んで売り上げもウナギ登りになっていったある日、「これ、ソシャゲの絵じゃね?」と因縁を付け始める、心が矮小で邪悪で不届きな輩が出現しました。しかし私もその道のオーソリティです。
曇りなき心の眼を見開いていただければ、「色が違う」のがハッキリ分かるでしょう?と諭し、彼を正しい道へ導くこともできましたが、無用な争いを避けたかった謙虚な私は、自主的にカード販売を断念せざるを得なくなりました。
このままでは元の貧乏寺へ一直線です。悩んでも仕方がない、フェラーリで湾岸道路を駆け抜け、予約してある景色の良い横浜のレストランで食事をしていると、隣の席には見栄を張って無理してここで食事をしているであろう若いカップルの会話。そこから私の耳に入ってきた単語。「総選挙」
寺に戻った私は、周囲を見渡しました。秋山家、井上家、岡本家……山田家……渡辺家……総選挙……これだ。
静かに目を閉じると、私の頭の中でアイディアの点と点が結びつき直線となり、直線が集合して立体を形作ってそれはソリッドな塊と成り、光と闇が生まれた先からモノクロの世界にすうっと色が付いていくかのように、華やかな彩を与えていく。この世界では美しいものがいつでも正しい。私の考え全てが美しい。そして、ゆっくり目を開けると私は全て忘れてしまいました。
一口千円で一票のお布施券を売り総選挙を行い、投票数によりどの檀家が一番先祖の御霊を大事にしているかを決定する。つまり墓石をお布施の多い順にひな壇に並べ替え、センター家を決めるのです。これを定期的に行うことによって、不労所・・・げふげふ、供養のためのお布施が得られるという寸法です。
それなりの予算をかけて寺をポップに改装し、特設ステージや屋台も用意し、ご当地アイドルも呼びました。激しく交差するスポットライトに、大音量鳴り止まぬ音楽。
寺始まって以来のど派手なイベントに、寺へ集まったお客さんは大いに喜び興奮し、ディスコルームと化した本堂では、天井に設置されたミラーボールに反射したレーザー光線の熱気にギラギラと当てられたジジババが次々倒れて救急車を呼ぶなど、数日に渡った熱狂的な総選挙は盛大に盛り上がりました。結果、これは凄いお布施になりました。
無事に成功を収めたかに見えた総選挙でしたが、私はこの後、大きなミスを犯しました。本来なら業者に頼むべき墓石の移動をケチって、クレーンをレンタルしました。そして自ら墓石を並べ替えている最中に誤ってぶつけてしまい、墓石がドミノ倒しになり、ほとんどが壊れてしまったのです。その光景は、地獄のピタゴラスイッチと呼べるほど禍々しくも、見事なものでした。
オー、マイガー!ファッキュー!サンキュー!を連呼し、私はその廃墟の中心でいつまでもいつまでも、一人でぽつんと立ち尽くしていました。でもお腹は正直です。冷凍庫からイベントで余った沢山のお弁当のうちの一個を取り出し、チンして食べました。
(どうしよう……)粉々になった墓石の数々を見ながら唐揚げ弁当を頬張ると、食ったことないけど、まるでゾンビの肉でも食ってるかのような錯覚に陥ります。モグモグ、ゾンビ肉……ゾンビ……モグ……うま……かゆ……モグモグ……ゾンビ、これだ。
まるで墓場のようにリアルな(つか本物)このフィールドに、ゾンビ役をたくさん放ち、サバゲ野郎に対戦させるゲームをでっち上げ、お金を巻き上……ゲフゲフ、お布施をですね、アレしてコレすれば何とかいけるのではないか。私の中のゴリラが「オラに皆のマネーを分けてくれ!」と吼えながら、ドラミングを繰り返します。
寺は空気銃と弾を有料で貸し出します。BB弾は一発4円。ゾンビは胸の電子プレートに、BB弾1万発に相当する引き換えカードをぶら下げております。その電子プレートにBB弾を100発当てると、引き換えカードが落ちる仕組みです。プレイヤーはそれをゲットして寺で景品に交換し、景品を寺の外の交換所へ持っていくと、一発2.5円換算で現金に換金できます。
一見、日本では禁止されているギャンブル行為に見えますが、間に仲介業者がいるので3点何とか方式といって、違法ではないそうです。
ただし、私が高いコレ(親指と人差し指で丸を作りながら、ゲス顔)で雇った屈強なゾンビ軍団は日本語がカタコトで、ボロ布を纏った見た目に反して俊敏で、マーシャルアーツやモンゴリアン柔術に長けた猛者です。プレイヤーは格闘技を使いこなすゾンビを相手に戦うことになります。
獲物を見つけたゾンビは次々に「ヒャッハー」とプレイヤーに襲い掛かります。プレイヤーはゾンビにスリーカウントを食らうと負けと見なされ、手持ちのBB弾と財布の中身を奪われます。可哀想ですが、ルールですので仕方がありません。
こうして寺の命運をかけたサバイバル・ギャンブルゲームが(ギャンブルと認めちゃったよ!)静かに秘かに始まったのです。