第12章:第3話
ゼオンの誕生日パーティをしよう。そう思い立ったキラは早速ルルカ達と計画を立てはじめた。
「ねっ、いいでしょ、パーティ。12月24日にやろっ!」
「そうね、やるとなったら食べ物とか買い出しに行かないといけないわね」
「お、珍しくルルカがやる気だ!」
「……だって、ここの二人があまりにもいたたまれないんだもの。誕生日を祝うって習慣くらい教えておいてもいいような気がして」
「ねえ、ルルカの誕生日いつ? 次はルルカもお祝いするよ」
「6月6日」
「がーん、だいぶ前に過ぎてる……」
キラとルルカは話が弾んでいたが、ティーナはなんだか二人の空気についていけていないようだった。ティーナはおそるおそる手を上げて二人に言う。
「あのー……パーティは楽しそうだからいいんだけど、結局何をお祝いするパーティなの?」
本当にわかっていない顔をしているのでますますいたたまれなかった。キラはティーナとゼオンの前に立ち、かっこよくポーズを決めて説明する。
「いいかやろうども、説明しよう! 誕生日とは! その人が生まれてきたことおめでとう! 無事にこの歳まで生きてくれたことにありがとうする行事なのです!」
「なんか、改めて聞くとすごくこっぱずかしい説明だな」
せっかくかっこよく決めたつもりだったのにゼオンの一言で台無しになった。キラはフグのように頬を膨らませてゼオンを睨む。
だが、誕生日の意味は無事に伝わったようで、話を聞いたティーナは目を輝かせた。
「おおお……なんか、ゼオンを愛するこのあたしとしては是非とも参加しなければいけないような気がしてきた!」
「でしょ! パーティしようパーティ!」
キラとティーナは「いえーい」と両手を合わせてくるくる回りはじめ、パーティをする方向で話は固まった。
そこから改めて詳しい計画を立てはじめたのだが、そこで一つ考えなければならないことがあった。
「それで、どこでやるのよ?」
パーティをするならばそれなりに広くて騒いでも周りに迷惑がかからない場所が必要だ。
キラはすぐに思いついたが、一瞬言うことを躊躇った。だが「反対されてもいい」──そう決めて思いきって口を開く。
「図書館はどう? オズに許可取って」
案の定、その場の空気が冷え込んだ。それは仕方が無いことだった。
皆、オズがあの時セイラを酷く傷つけたことを忘れてなどいない。今までもオズがキラ達を利用したことは何度もあったことだが、あの出来事のショックはその中でも特別大きかった。
だから、今更オズの居る所でパーティをすることに抵抗があることはわかっていた。ティーナはそれを聞いて憤慨した。
「やだ、あたしは絶対やだ! あのオズの居るところでやるなんて、せっかくのお祝いが台無しになる! だいたい、あっちだってそんなの許すわけない!」
確かに、あの出来事があった以上、あちらも気まずいかもしれない。一瞬そう思ったが、しばらくしてゼオンが冷静に言った。
「……いや、案外あっちは許しそうな気がする」
「なんで?」
「よく考えたら、あいつが俺らを利用したのなんて今に始まったことじゃないだろ。その割に俺らが図書館に行ったら、あいつ普通に俺達を迎えるし、お茶に菓子まで出してるだろ」
「あ、たしかに」
「つまり、あいつを拒絶してるのは俺達の方だけかもしれない」
「でも結局利用するよね?」
「利用する側からしたら、俺達にはむしろ気軽に来てもらいたいんだろ。その方が利用しやすいからな」
「それって、余計駄目じゃん」
「そう、余計駄目なんだよ」
これにはさすがにキラも頭を抱えずにはいられなかった。さすがオズ。汚い大人はやることが違う。
だが、そうは言うがそれまでキラ達はなんだかんだで図書館に居ることが多かった。それが全てオズの策略かというと、キラにはそうは見えない。
「というかずっと聞きたかったんだけど、むしろなんでゼオン達はオズが嫌いなのに図書館に集まってたの?」
史上最大の謎をキラは遂にぶつけてみた。全員「そういえば」という顔をしている。これでは埒があかない。
「セイラはまだわかるよ。セイラの目的とオズはすごく関係あるし。でも他三人がわかんない。まずルルカ、なんで図書館によく居たの?」
「え? そうね……ティーナかゼオンがだいたい居るからかしら」
「じゃあティーナは?」
「あたしの愛するゼオンが居るから」
「じゃあゼオンは?」
「……なんでだろう」
どうやら本気でわからないようで、ゼオンはそれきり口を閉ざす。キラは首を傾げた。
すると、しばらく静観していたセイラが口を開いた。
「キラさん、わかりませんか? ゼオンさんの好物って、本と甘い物ですよ」
その一言で全て謎が解けた。全ての元凶はゼオンだ。図書館なのだから本はあって当たり前だし、その上あの図書館はなぜかいつでもお菓子がある。正にゼオンホイホイと呼ぶに相応しい環境だ。
キラはますます頭を抱えた。多分オズに悪気は無い。あの図書館はゼオン達が来る前からずっとお菓子だらけだった。おそらく小悪魔達の為に買っているのであって、そこに特別な意図は無いのだと思う。
つまり、あの状況はたまたまゼオンが本とお菓子が好きだったから引き起こされたのだ。
「……なんか、めちゃくちゃくだらない真実に気づいただけで終わった」
キラも呆れていたが、当のゼオン自身も頭を抱えていた。話がおかしな方向に行ったところで、セイラは突如キラに尋ねた。
「ところでキラさん、パーティをする場所に図書館をあげたのは、この前の話のせいですか」
キラはぐっと一瞬黙り込んだ。「この前の話」とは、リディに関する村人の記憶が消されていること、そしてオズだけがこの村にリディが住んでいたことを覚えているということの話だ。
ゼオン達がその話について気になったようなので、キラとセイラはそれについて包み隠さず話した。
それを聞いたゼオン達は突然静かになった。ルルカがキラに言う。
「つまり貴女、パーティにオズを巻き込もうとしているのは、その村人の記憶のことについてオズを気の毒に思っているからなの?」
「違う、違うよ。確かにそれについてオズは辛いだろうなと思ってるし、正直できれば力になりたいと思ってるけど、パーティに巻き込む理由はそれじゃないの!」
キラははっきりと否定した。そう、それよりも重大な理由があるのだ。
「じゃあどうしてよ?」
キラはこの場のメンバーの顔を順に見て言った。
「このメンバーで誕生日パーティやってさ……誕生日パーティっぽくなると思う? オズと小悪魔達が居た方が良いとおもうんだよね……」
その一言で反対の空気が一気に収まった。五人中三人が常にテンションが低い冷静沈着な人々だ。おまけに期待のお祭り少女ティーナは誕生日の存在自体を知らなかった。
そもそも誕生日パーティとして成り立つか怪しいのだ。
「どうしよう……確かに、それはそうね……」
「キラさんが言うことにこれほどの説得力を感じたのは初めてです……」
しかし、ティーナだけはそれでも図書館を使うことに否定的だった。
「あいつはまたセイラを傷つけるかもしれないんだよ。皆を人質にゼオンから昔のことを聞きだそうとするかもしれない。あたし、そんなの絶対嫌!」
「けど、ティーナ……」
「キラ、あんたはお人好しすぎだよ。あれだけのことがあって、どうしてまだオズなんか巻き込もうとするの。せっかくのゼオンの為のお祝いなのに。オズなんか居なくたっていいじゃん」
ティーナがそう言う気持ちは理解できなくはなかった。ゼオンが好きだからという理由だけではない。ティーナは人一倍仲間思いだ。だからこそ、仲間を傷つけたオズが許せなくて仕方が無いのだろう。
キラが口を開こうとした時だ。ゼオンが間に入った。
「なら、明日オズの所に交渉に行ってみてから考えたらどうだ? 話をして、オズが何か企んでそうな素振りを見せていたら後から何か理由をつけて断ればいい」
「けど……あたし達が気付かないとこで企んでたらどうするの」
「いや、気づくよ。セイラが居るんだから」
そうだ。今、こちらにはセイラがいる。あらゆる過去を見通す記録書が。キラ達がセイラに目を向けると、セイラは少し渋い顔をした。
「そうは言いますが……私も以前イオに記録書をいくらか消されていますから、小悪魔ちゃん達の動きを完全に特定できるとは限りませんよ?」
「けど、オズの記録書は確実にあるだろ?」
「ああ、確かに。そうでしたね。自分の頭の中には無いから忘れてましたよ」
セイラは不敵な笑みを浮かべる。ブラン聖堂から奪ってきたオズの記録書がまさかこんなところで役立つとは思わなかった。




