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ある魔女のための鎮魂歌【第2部】  作者: ワルツ
第9章:ある王女の幻想曲
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第9章:ある王女のファンタジア 第1話

9章までお付き合いいただきありがとうございます。この章を読みながら5章をもう1度見てみると何か発見があったりなかったりするかもしれません

挿絵(By みてみん)


11月の上旬、冬の足音が聞こえてきそうな時期だった。その日は気持ちの良い秋晴れだった。キラ達四人は村のはずれの草原に来ていた。

柔らかな風が吹く草原の真ん中でキラはゼオンと対峙していた。両者共杖を持っている状態だ。

キラは杖を構え、鋭い瞳でゼオンを睨みつけていた。ゼオンは状況を呑み込めていないようでその場に呆然と立ち尽くしていた。

ティーナとルルカが二人の様子を近くで見守っていた。ゼオンがキラに言った。


「本当にやるのか?」


「おうっ、勿論! 修行で試合なんだよ! ゼオンかかってこいっ!」


「全く、なんでこうなるんだ……。」


気合いに満ちているキラとは裏腹にゼオンはやる気が無さそうだった。キラは少しつまらない気分になった。

こうなったきっかけは今朝リラと喧嘩したことだ。キラはまたリラにこてんぱんにやられたので悔しかった。

その時に先日キラがお菓子につられて中止になった修行を改めてやろうと思ったのだ。

そしてキラはゼオン達をこの草原まで引っ張ってきて勝負を挑み、現在に至る。

せっかくの勝負なのだからゼオンも気合いをいれてかかってきてほしかった。するとティーナがゼオンに言った。


「多分一度手合わせしてあげないとキラは気が済まないんじゃないかなー。審判はあたしとルルカでやるからさ、まあちょっとやってあげたら?」


「……仕方ないな。」


渋々そう言うとゼオンは持っていた杖をティーナ達の方へ投げた。キラは怒鳴った。


「あっ、なんで杖投げたの?」


「いらねえ。俺は一応杖無しでも少しは魔法を使えるわけだし、練習なら必要ない。」


「うっ、なんかあたしだけ杖持ってるのも嫌だな。どうせ魔法使わないだろうし。」


キラもティーナの方に杖を投げた。ティーナは二人分の杖を受け取るとキラとゼオンの間に立って言う。


「さぁ、じゃあ二人とも用意はいいかなー?」


深呼吸をしてキラはゼオンを見つめた。相手は無防備に立っているだけのように見える。

先手必勝。そうキラは心の中で復唱して構えた。


「はじめ!」


その声と同時にキラは駆け出して真正面からゼオンに突っ込んでいった。

ゼオンはキラが動き出すと同時に呪文を唱え始めた。


「させるかぁ!」


キラは鳩尾目掛けて拳を繰り出した。だが甘かった。ゼオンは呪文を唱えながらキラの服の袖を掴んで腕を引っ張ってきたのだ。

腕を引かれたキラはゼオンの右へと流される。全速力で突っ込んだ勢いを抑えきれずにキラは少しよろけた。

まだこれから。そう思った時には勝負はすでに終わっていた。キラが被っていた帽子がヒョイと頭から離された。キラの背後にキラの帽子を持ったゼオンが立っていた。


「なんじゃそりゃばかやろー! あたしの帽子返せー!」


キラが帽子に手を伸ばそうとした時、キラは敗北に気づいた。腕が全く動かなかった。腕だけではなく全身が石と化したように動かない。

キラが視線を下ろすとキラの足元で小さな魔法陣が輝いていた。ゼオンが言った。


「もういいだろ。」


否定したいのに指先すら動かなかった。キラが言葉を失うのと同時にティーナの黄色い声が響きわたった。


「きゃっわぁぁぁぁん、さっすがあたしの愛するゼオンが今日も輝かしすぎて生きるのがつらい!

というわけでゼオンの勝ち! キラ残念だったねー。」


あまりの悔しさに震えながらキラは座り込んだ。足元の魔法陣も消え去り、勝負は完全に終わってしまった。

キラががっくりと俯いて座り込んだ時、帽子が頭の上に戻ってきた。

キラは帽子にぐりぐりと頭を突っ込むと頬を膨らせて後ろに居るゼオンを見た。


「気は済んだか、この馬鹿。」


「全然済まない、このやろーこのやろー!」


悔しさをぶつけるようにキラは拳をぶんぶん振り回した。ゼオンは困ったようにため息をつき、ティーナは楽しそうに笑っていた。

すると今まで様子を見ているだけだったルルカが口を開いた。


「大体、真っ正面からつっこんでくのが馬鹿なのよ。おかげで完全にゼオンの策にはまったようね。

純粋な接近戦になったら間違いなく貴女の方が有利なのに、頭の悪さのせいで折角の身体能力を生かせてないわ。」


「ううう……。」


ルルカの言うとおりなのかもしれないが、ついつい勢いに任せて突っ込んでいってしまうのだ。

自分の未熟さをキラは改めて感じた。


「もっかい! もう一回だ!」


「誰が二度もやるか、馬鹿馬鹿しい。」


そう言ってゼオンはキラに背を向け、市街地の方へ戻ろうとした。キラは慌てて後を追おうとしたが、ゼオンはすぐに止まってしまった。

キラも立ち止まり、ティーナとルルカがゼオンの傍へと行った。


「どうかしたの?」


「誰か来る。あれは……ペルシアか?」


ゼオンが指差した方向に確かに人が見えた。少女がこちらに走ってくる。ゼオンの言うとおり、それはペルシアだった。

ペルシアはキラ達の所に着くと息切れしながら言った。


「はぁ、ふぅ……やっと見つけましたわ。」


「どうしたの、また村長さんから伝言?」


「ええ、そうですわ。ルルカさんって方、いらっしゃる?」


突然名指しで呼ばれてルルカは驚いたようだった。確かにルルカに村長から伝言が来るのは初めてだった。


「お祖父様がルルカさんに渡すものがあるそうですの。ちょっと来てくださる?」


「渡す物って何かしら? 貴女が持ってきて渡すのではなぜいけないの?」


ルルカはペルシアを睨みつけ、ペルシアは少し怯えた様子で後ずさりした。

キラは慌てて間に入る。


「ちょっとちょっと待った、そんな怖い顔するほどのことじゃないんじゃ……。」


そう言ったがルルカはまだこちらを睨んでいた。するとティーナが言った。


「ヘイ、お嬢! あたし達も行ってもいいかな? もしルルカが一体一で村長さんに会わなきゃいけないなら、その間お屋敷のどっかで待ってるからさ。」


「大丈夫だと思いますわ。」


「ね、ルルカはそれでどう?」


ルルカは堅い表情をしていたが、しばらくして黙って頷いた。


「よしっ、じゃあキラもゼオンも一緒に行こ!」


そう言われてキラ達四人はペルシアの屋敷に向かうことになった。

キラは村長がルルカに渡したかった物よりも、ルルカがなぜあんな冷たい目をしていたのかが気になった。

これは初めてのことではない気がする。出会った時からそうだ。ルルカは他人への警戒心が人一倍強いように感じた。



◇ ◇ ◇




村長にはルルカ一人で会うことになった。その間、キラ達は別室で話が終わるのを待っていることにした。

ペルシアの屋敷に来るのはゼオンの一件以来だ。キラ達が案内された部屋には艶やかな木でできたテーブルとソファーがあり、キラ達はそこでルルカを待っていた。

20分程して、ドアがノックされ、ルルカが戻ってきた。ティーナが真っ先に飛び上がって言った。


「きゃっほう、おかえりルルカぁ! で、結局用って何だったの?」


ルルカは何故か照れくさそうに口をつぐんで視線を逸らした。両手を後ろに回して何か隠しているようだった。

屋敷に来る前のように神経を尖らせている様子は無く、むしろどこか嬉しそうに見える。

キラはルルカが何を持っているのかわからなかった。だがティーナはルルカの様子を見るとすぐにはしゃぐのを止めてにやにやしながら言った。


「あっ、なぁるほどーそういうことかあ……。」


「え、ティーナ、用が何だかわかったの? あたし全然わかんないんだけど。」


「いやぁキラさんや、女の子にはそっとしておいてあげた方がいいこともあるんだよ。ひっひっひ。」


ティーナは全部を理解したようだったが、キラは何一つ理解できなかった。

すると唐突にゼオンが言った。


「国王から手紙か?」


その一言でルルカとティーナの空気が氷点下にまで下がった。ティーナが頭を抱えてしゃがみこんで呟いた。


「……あたし、そんな正直なゼオンを愛してるよ……!」


ルルカは今にも弓矢でゼオンの目を潰しにかかってきそうな空気を漂わせていた。どうやら図星だったらしい。

確かにルルカにとって国王から手紙が来たというのは少々嬉しい反面照れくさいことなのだろう。


「確かに、そっとしておいた方がよかったのかもね……。」


苦笑いするキラと頭を抱えるティーナを見てゼオンは硬直していた。


「何か、悪かった……。」


ルルカはため息をついて後ろに回していた手を前に出した。手には純白の封筒があった。


「もういいわよ。何か、馬鹿馬鹿しくなってきたわ。」


「おっ、それならそのお手紙に何が書いてあったかちょーっと教えてルールカちゃー……んがあ!」


身を乗り出してきたティーナの腹にルルカは蹴りを一発美しく決めてみせた。

ダンゴムシの如く丸まっているティーナなど見えないかのように、ルルカはキラとゼオンだけに言った。


「用は済んだし、行きましょ。こんな所まで付き合わせて悪かったわね。」


丸まったティーナに視線釘付けのキラとゼオンを置いて、ルルカはそそくさと部屋から出て行ってしまった。

ルルカは封筒にシワがつかないよう、優しく大切に手紙を持っていた。


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