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ある魔女のための鎮魂歌【第2部】  作者: ワルツ
第11章:記録と予言の聖譚曲(後)
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第11章:第24話

「セイラ、記録書取ったよー!」


キラは早速セイラに叫んだ。様々な魔法がぶつかりあう中でセイラは小さく頷く。話は伝わったが、目の前の戦闘で忙しいらしい。


「出口がどこにあるかわかんねえけど、セイラがあいつから離れる隙を作った方がいいかもな」


「どうする? 下手に近づいたり攻撃しすぎてイオ君の狙いがこっちに向くと逆にセイラに迷惑かかるかもよ?」


キラ達が話し合っていた時だ。あの『世界樹』の様子がおかしい。無限に増えていく枝葉を手足のように振り回して周りのもの全てを捕らえようとしている。地響きがする。まるでこちらを怒鳴りつけてるようだ。


「……なんか、すごく怒られてる気がする」


「……まあ、そりゃ怒るだろうな。突然自分の腹に穴開けて持ち物盗まれたら」


「とりあえず、逃げよっか……」


キラとゼオンはすぐに『世界樹』から距離を取る。だが、死闘を繰り広げている最中のイオとセイラはそうはいかなかった。世界樹の枝が迫っても戦いを止めようとしない。それどころか、二人とも樹の攻撃を利用して相手を捕らえ自分が優位に立とうとしていた。


「おいセイラ、離脱だ、早く! こっちの目的は記録書を奪うことで、イオを倒すことじゃないだろ!」


「わかってますよ……! 離れる隙がなかなかできないんです!」


やはりこちらが援護して隙を作るべきだろうか。ゼオンが炎を呼びだし、イオの方に放とうとした時だ。『世界樹』の葉が散りはじめた。葉は紅と蒼に淡く色づき、光に透かすと様々な色が見える。

綺麗。そう思った瞬間、樹は牙を剥いた。刃物のように鋭利な葉が吹雪のように吹き荒れ、手足を切り付ける。

キラ達はすぐに逃げることができたが、イオとセイラは一瞬怯んだ。その瞬間、樹は太い枝を両手のように振り回して二人を別々の方向に弾き飛ばした。


「セイラ!」


キラ達はすぐにセイラを追う。下へ下へ、セイラは遠ざかり姿が見えなくなっていく。ゼオンと操縦を代わってキラが手を伸ばすがセイラには届きそうにない。

深く地下に潜っていくうちに周りの景色も変わっていった。桜乱れる春の世界、海が広がる夏の世界、紅葉と銀杏が舞う秋の世界──そうして潜りつづけると、突如目の前に白い壁が現れた。


「わわっ」


キラは慌ててブレーキをかけたが一歩遅く、二人は顔から白い絨毯に激突した。


「うーー…………」


顔が冷たい。急いで顔をあげると、白い絨毯にキラの顔の跡がくっきりとついている。辺り一面が銀世界。空から白いものがふわりふわりと舞い散る。

これは雪だ。ここは終わりの無い冬の世界だった。


「ゼオン、セイラはここかな……」


「さあな……イオに見つかる前に見つけねえと」


二人が服に付いた雪を払っていると、後ろからゴォゥと風が渦巻く音がする。振り向くと、キラ達のすぐ近くで七色の竜巻が渦巻いていた。


「これ、さっきあたし達が入った……ついろくのなんとかかんとかじゃない?」


「……『追憶の渦』な。まさかセイラの奴、あの中に吹っ飛ばされたんじゃないだろうな?」


この渦が先程キラ達が入った物と同じ性質だとすれば、渦に飲み込まれたとしてもセイラに危険は無い。ただ記憶が再生されるだけだ。

しかし、


「あの渦で見た記憶さ……すっごく長かったよね……一度入ったらしばらく出られないよね?」


「だな。それに出た時、俺達は入った時と違う空間に飛ばされてた」


「もしセイラがあの中に居るなら、追わないと離れ離れになっちゃう……」


二人が追おうとした時、最悪のタイミングで蒼の閃光が降り注いだ。真白の空に白い衣と黒のリボンがなびいている。

イオだ。狂気に満ちた眼がこちらに狙いを定めていた。第二波が来る。蒼の閃光がキラ達を串刺しにしようと迫る。

ゼオンがキラを庇うように光の盾で閃光を防ぐ。しかし、聖堂に蔓延る蒼の力を取り込んだイオの攻撃はこちらの想像を越えていた。

光の盾はチカチカと音を立てて弾けた。閃光が盾を越えてくる。ゼオンの腕に脚に赤い跡を付けながら通り過ぎた。それでも、ゼオンが盾になったおかげでキラには傷一つ付かなかった。


「全く……世界樹も乱暴だなあ。ボクびっくりしちゃった」


まさかこんなに早くイオに追いつかれるとは思わなかった。イオは早速七色の竜巻に目を付けた。


「あはぁ、セイラはあの中に突っ込んじゃったの? やったあ、ボク運良いなあ」


イオは七色の渦に手を向ける。魔方陣が攻撃の魔術を生み出そうとしていた。


「あの中に入ったら記憶の再生が終わるまで意識無くなるからねえ。あの渦さえ消してしまえば、ラクしてセイラを……」


その時、イオが渦に向かって伸ばした手を何かが撃ち抜いた。イオは血に濡れた手を見つめ、ケタケタ笑いながらこちらに狙いを変える。


「なんだよぉ、ゼオン。ボクと喧嘩する気ィ?」


ゼオンの杖はイオへ狙いを定めていた。そうこうしているうちに、七色の渦はキラ達と逆方向に移動を始めた。


「お前、あれを追ってくれるか?」


ゼオンがキラに言う。イオは舌なめずりしながら次の獲物を見下ろしていた。まただ。ゼオンはまた一番危険な位置に立とうとしていた。今のイオに敵う保障なんて無いのに。

しかし、迷っている間に七色の渦はどんどん遠ざかっていく。悩んだ末にキラは杖に飛び乗った。


「すぐ戻るから!」


振り返らずにキラはあの渦を追う。その竜巻は悪気など無いかのように白銀の世界を悠々と散歩していた。

さて、あの渦のすぐ傍まで付けたはいいが、ここからどうやってセイラを連れ戻せばいいのだろうか。

この渦を消してセイラだけを取り戻す魔法なんてキラは使えない。キラは首を捻りながら竜巻と並んで白銀の世界を飛び回ったが答えは出なかった。

その時、キラが杖の進行方向が徐々に渦の方向へ傾いていることに気づいた。方向の修正をしようとするが、キラはますます渦の方向へ引き寄せられている。

まずい。そう思った時には既に遅く、どんなに速く飛ぼうとしてもキラは渦に飲み込まれる一方だ。


「いっそもう、中に入ってセイラを探すというのは……」


そう呟いた瞬間、風がキラを揺さぶってバランスを崩した。そのままキラも一緒に渦の中へと吸い込まれていってしまった。




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