第11章:第21話
神を創りたい。そんな途方も無い願望の為に、アディはメディに隠れて研究を始めた。
一方のリディとメディの喧嘩も収まる見込みは無かった。
「ここで一つ。先程リディよりメディの方が扱える力が大きいと言いましたね」
「そうだよね。じゃあ、メディさんが勝ったの?」
「いいえ、リディが勝ちました」
「え、どうやって?」
「リディは、ニンゲン達の力を借りたんですよ」
このままではメディには勝てない。そう考えたリディはニンゲン達にこう言った。
「お願いします、皆。私に力を貸してください。協力してくれる心優しい方には私の力を分けてさしあげましょう」と。神の力に興味を持っていたニンゲン達は歓喜して飛びついた。
そうしてリディは人々に世界を脅かさない程度の力を与えた。そうして生まれたのが「天使」と呼ばれる種族だ。天使達はメディを討つ為にリディに協力した。
「なんだかどんどんまずそうな方向に進むんだな」
「ええ、そうですね」
「天使を創ったのはリディなら、悪魔を創ったのは……ってなるのか?」
「その通りです。メディも対抗してニンゲンに力を与えました。そうして生まれたのが悪魔です」
「じゃあ魔術師はどうなんだ」
「魔術師はリディにもメディにも属さなかった人達です。天使や悪魔が生まれたことで、魔法というものがニンゲンの間にも普及していきまして。魔法は実はやり方さえ覚えればニンゲンにも使えるんです。魔法の研究が進み、自力で魔法を習得していった人達が魔術師です。
こうして多くの人が魔法を習得していくうちに何の力も無い『ニンゲン』という種族は数が減って、淘汰されてしまいました。
それから、リディは更にメディの裏をかく為に吸血鬼と獣人を生み出しました。主に情報収集の為に」
キラは意外だなと思った。
「え、吸血鬼はリディさんの側なんだ。吸血鬼って悪魔と外見がすごくよく似てるから、メディさんの側かと思った」
「そもそも、悪魔に紛れこませて血を吸わせたり、情報収集をさせる為に作ったのが吸血鬼という種族なんです。ですから悪魔と外見がよく似ているんです」
「へえー」
「けれど、こうしてニンゲン達が新たな種族に生まれ変わっていく様子が、アディに発想の種を与えてしまったんです」
そこでセイラは一つため息をついた。「あー長かった」という顔をしている。それから再び息を吸って、とうとうあの男の話を始めた。
「お待たせしました。ここでようやく、吸血鬼オズ・カーディガルの登場です」
アディが目を付けたのは吸血鬼という種族そのものだった。人の血を吸う。その行為で他人の力を取り込むことはできないかと考えたようだ。
そうしてアディはブラン聖堂の鉱石と本物の吸血鬼を使って人体実験を始めた。最初はメディがリディとの戦争で取っ捕まえた吸血鬼を貰っていたが、そのうち数人の部下を連れて自分から吸血鬼の子供をさらってくるようになった。
そうして連れてこられた子供の一人がオズだった。
「そして、アディの実験は成功しました。吸血鬼に神の力の因子を植え付け、神が使う魔法──ブラン式魔術を使わせる実験が。その成功した時の被験者がオズさんなんですよ」
キラは言葉を失った。ゼオンも同じだ。まさかオズがそんな壮大な歴史の中の重要な人だったなんて。
「じゃあ、オズは……元々人体実験の被験者だったの……?」
「そうです。神を利用した最古の魔法使いに生み出された模造品の神……それがオズさんですよ。
とはいっても、この実験はあくまで計画の第一段階に過ぎません。まだまだ、神の強大な力には遠く及びませんでした。けれど、アディリシオが自分の野望が果たされるのを見ることはありませんでした。その前に、奴は殺されてしまいましたから」
「殺された? 誰に?」
「オズさんに。他でもない、自分の実験台に」
アディは鉱石の力で寿命を引き延ばしていた。そのからくりを見抜いたオズはその鉱石を破壊し、そのままアディを殺してしまった。
元々アディがきっかけで戦争に突入したリディとメディは大層困惑した。その元凶がいとも容易く殺されてしまったのだから。
「じゃあ、そこで戦争は終わって、怖い実験もそこで終了?」
「いいえ。リディとメディの戦争はもう誰にも止められない規模になっていました。メディはアディが居なくなってから人格歪んじゃいまして、やけになってむやみに人を捕らえたり殺したりしてしまうんで、リディも野放しにはできなくなってしまうんですよ。この時点で既にアディがメディと知り合ってから数百年は経っています。
オズさんもオズさんで、アディを殺した後、すぐに行方をくらましてしまうんです──あの男が始めた実験を引き継いで、成功させる為に」
「え……でも、オズは連れ去られてきた子で、好きで実験台になったわけじゃないんでしょ。どうして……」
「『強い力が欲しかった』──らしいですよ。確かにオズさんはアディを恨んでいましたし、自由の身になる為に奴を殺したわけですが、自分に強い力が宿ったことは好都合と捉えたようです。ちょうどその時、リディはアディを殺したのがオズさんだと気づき、オズさんと協力すればメディを追い込めるのではないかと考えたわけです」
そこからなぜかセイラは急に不機嫌になり、残りを早口で一気に説明した。
「そこから先は簡単ですよ。オズさんとリディは手を組み、オズさんがメディの仲間になるふりをして罠を仕掛け、同時にリディが乗り込んで、リディの勝利めでたしめでたしというわけです。
メディは身体と精神を切り離され、世界樹の管理の為に精神の方はそのまま、身体の方は封印して力を使うことを禁止しました。二人の喧嘩の為にあまりにも地上を巻き込んでしまったことを、リディ自身もすごく反省して、それ以降人々には必要以上に干渉しないことを決めました。『私達は世界のシステムであり、それ以上でもそれ以下でもない』……とね。
そうして長ーい年月が経って、50年前のあの爆発に繋がるわけです。はい以上、終了終了。こういうわけです」
「ちょ、ちょ、勝手に終わらせないで。説明足りない。若干足りない。それで、オズはどうして封印されてたの」
セイラはものすごく嫌そうな顔でため息をついた。干からびた魚のような見たこともない顔をしている。そんな顔をしないでほしい。
「ああ、そのことですか。あのクソ野郎のことですか」
「いや、そんな睨まれても……なんでオズは封印されてたの。オズが引き継いだ実験と関係あるの?」
「そうですよ。あいつは、リディを騙してその実験を完成させたんです」
「騙した……?」
「はい。その前にお二人にクイズです。以前、私はオズさんについて『神の血を吸って力を得た』と言いましたね。オズさんが吸ったのはリディとメディ、どちらの血でしょうか」
キラとゼオンは顔を見合わせ、それぞれ考え込んだ。
「リディさんはオズが好きなんでしょ? オズもリディさんのこと必死で探してたし。リディさんじゃない?」
「けど、オズの力って『創造』って感じじゃないよな……紅の光が出るし……メディの方じゃないか?」
セイラは干からびた牛のような顔のまま何度もため息をついた。
「答えは両方です」
「うわぁ」
「最低じゃねえか」
オズはリディと協力する際に「リディの血を一口だけ貰う」という約束をしたらしい。リディの血──それがアディによってオズに仕掛けられた魔法陣が発動する条件だということは教えずに。
アディが仕掛けた魔法陣。それは吸血によって取り込んだ力を無限に倍増させて自分の力としていくものだった。
リディの作戦通りにメディを陥れ、相手が動かなくなったその時、オズはリディを裏切った。メディの血を吸えるだけ吸い、アディから引き継いだ実験を完成させ、『破壊』の力を手に入れたのだった。
「けど、突然強大な力を手に入れてそれを制御しきれるはずもなく、オズさんはその時暴走しだしてしまったんですよ。模造品の神の存在を許していいはずないですし、本当はその時にリディはさっさとオズさんを処分しなければならなかったんですが……」
「その時に殺さないで、地下に封印ってことになったの?」
「そうです……」
セイラはとうとう般若のような顔で声を荒げた。
「リディがオズに惚れたりなんてするからオズに惚れたりなんてするから惚れたりなんてするから!!!」
「あの、セイラ……」
「あーあのクソ忌ま忌ましいオズ野郎め。奴がうちのリディをたぶらかしたりなんてするからこの有様だ。百歩、いや一万歩譲って神だの罪だのそんな事情を無視したとしてもだ。あんなクソ野郎認めない、リディに相応しくない。ウィゼートの国王くらい誠実な奴ならまだ考えてやらんこともないが、あんなクズは認めん。あいつとリディの関係なんか絶対認めんクソクソクソ……」
キラもゼオンも唖然とした。
「ゼオン、どうしよう。セイラがこわれた……」
「……セイラ。まさかとは思うが、お前がオズをずっと嫌っていたのって、それが理由じゃあないよな?」
「だったら悪いか!!?」
二人は何も言い返せなかった。確かに今の話を聞いているとオズに否が無いとは言えないが、セイラがそこまで自分の主へ愛着を持っていたというのはなんだか意外だった。
すると、ゼオンが言った。
「それにしても、困ったな。事情を聞けば多少俺達がどうしていくかの考えも纏まるかと思ったけど、今の話で逆に俺はセイラに手を貸していいのか不安になった……」
「えっ、え、ゼオン、どうして?」
ゼオンはきっぱりと言う。
「オズが最低なんだよ」
「そうなんですよ、オズさんは最低なんですよ」
「何か事情があるのかと思ったりもしたけど、今の話聞いてると情状酌量の余地ねえぞ」
「そうなんですよ。全くリディもリディだ。あいつは騙したんだ、それなのになんで未だにあいつを……」
「ちょ、ちょ、二人とも! かといって殺しちゃうのはやり過ぎでしょ! それじゃイオ君達がやろうとしてることに賛成しちゃってるじゃない!」
「だから困るんだよ。セイラに手を貸したいのに、どう考えてもオズは悪い」
キラは頭を抱えた。ゼオンはともかく当のセイラまでオズをクズ呼ばわりするので、これでは本当にセイラがメディ達を止める気があるのか疑いたくなる。
オズはリディを騙した。リディは今でもオズに惚れこんでいる。そうして情に流されて殺すことを躊躇った。
そうは言うけれど、メディとアディとオズ……このとんでもない三人を押さえ込んだリディが、そうもあっさり騙され、しかも騙された後もオズに愛想を尽かさなかったというのもどうにもしっくりいかないように思った。
「ま、まあ、オズのことは別としても……メディさんが世界ぶっこわそうとしてるなら、復活させちゃいけないのは確かでしょ?」
「まあ、そりゃそうだけどな……あいつに実体を与えちゃいけないってのはよくわかるし……」
そう話したところで、突如セイラの足が止まった。行き止まりにたどり着いたからだ。ようやく愚痴を吐き尽くしたセイラは二人に言った。
「まあ、あなた方が今すぐ結論を出す必要はありませんよ。私について行けないというのならそれでも構いません。勝手にしてください」
そうしてセイラが岩壁に触れると、地震と共に岩が縦に裂けた。太陽の光がキラ達を呼んでいる。
「お二人共、長話にお付き合いいただきありがとうございました。というわけで、そろそろ休憩にしましょうか」
裂け目の向こうに現れたものは広大な砂漠だった。そして、セイラが指差す先には南国の木々が生い茂るオアシスがあった。




