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ある魔女のための鎮魂歌【第2部】  作者: ワルツ
第11章:記録と予言の聖譚曲(後)
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第11章:第20話

ぽたり、ぽたりとどこかで雫が落ちる。瞼をゆっくりと開くと、そこは洞窟の中だった。玉虫色に煌めく川が流れ、あちこちから七色の水晶が生えている。

現実に戻ってきた。キラとゼオンはそのことに気づくまでしばらく時間がかかった。洞窟の最深部、そこにセイラが居た。セイラと目が合った時、キラはようやく記憶の世界が終わったことを理解した。


「お二人共、お疲れ様でした」


「……セイラ、今のはセイラとイオ君の記憶なの?」


「ええ。昔交戦した時にイオの記憶をコピーして手に入れてましたので、それと私の記憶と記録を繋ぎ合わせてみました」


セイラは淡々と言う。セイラ本人が誰よりも辛いはずなのに、むしろキラ達の方が壮絶な過去に圧倒されていた。


「いかがでしたか?」


そう言われても困る。


「いや、もうなんというか、色々凄かったなあとしか……」


「私とイオが対立するようになった経緯はおわかりいただけたでしょうか。その為に見せたのですが」


するとゼオンがセイラに言う。


「これまでの経緯を理解しろ……というのなら、オズやリディのことをもう少し教えてほしいものだな。お前とイオのことはわかったが、あれじゃどうしてオズが封印されてたのか、50年前と10年前の間オズやリディに何があったのかわかんねえよ」


「ごもっともですね。私もそこのところを『見せて』差し上げたいのですが、そこの部分こそがオズさんの記録書に書かれている部分なんですよ。だから、その為にはまずオズさんの記録書を手に入れなければなりません。」


今の話を聞いて、キラはオズのことを思い出した。国の三分の一を滅ぼしたその瞬間、何時よりもオズが人らしく見えた。キラが知るオズの姿は無かった。自信も傲慢さも無かった。強大な力に怯えるただの人の顔をしていた。自分でやったことのはずなのに。


「……そうだね、あたしも、オズに何があったのかもっとよく知りたいな。それに、セイラ達が言う『システム』のことももっとよく知りたい」


ゼオンも頷く。「わかりました」と言い、セイラは洞窟の更に奥へと歩き出した。


「……では、少しだけこの世界のシステムについてお話しましょうか。この世界はね、元々一本の樹から生まれたのですよ」


「樹?」


「はい、私達は『世界樹』と呼んでいます。『破壊』の力を吸って、『創造』の力を吐き出す樹。この世のものは生まれ、存在し続ける為には『創造』の力が必要なんです。私や皆さんが生きる為にも、魔法を使ったりする為にも」


「『世界樹』に『創造』と『破壊』……うーん、難しい……」


「要は呼吸のようなものと考えてください。『創造』の力を消費することで私達は存在し続けることができます。消費された『創造』の力は『破壊』の力へと形を変えます。

 『破壊』の力は貯まりすぎると、生命を殺し、存在を消滅させ、とにかく世界に悪いことを引き起こさせるんです。そこで『破壊』の力を吸って『創造』の力を吐き出すのが『世界樹』なんです。

 以前ゼオンさんが魔法の仕組みを説明した時に、物が燃える仕組みに例えたでしょう。あれの『空気』にあたるものが『創造』と『破壊』の力なんですよ」


キラは創造やら破壊やら、難しい単語と話を必死に飲み込んで理解しようとしたが、そのうち頭が痛くなってしまった。


「む……難しい……ピンとこない」


「まあ、後で『世界樹』のところにも行きますから。そうすればもう少しわかりやすいかと。それで、次はオズさんの話ですね。その前に、少し大昔の歴史の話から始めさせてください」


また難しい話が始まろうとしている。キラは身構えながらセイラの後をついていった。


「昔々、『世界樹』が活動を始めた時、この世界にはまだ生命が存在していませんでした。『世界樹』が『創造』の力を吐き出し、『破壊』の力を取り込む活動を続けていくにつれて、この世界に様々な生物が住まうようになっていったんですよ。

 そうして生物の種類が増えていったある時、『ニンゲン』という種族が生まれました。これが、全ての元凶ですよ」


「ニンゲン?」


キラは聞き返した。聞いたことの無い種族名だ。


「はい。外見は魔術師や天使や悪魔と同じです。ただし天使や悪魔のような翼は無いし、魔法も使えません。身体能力も低いです」


「何の力も無いのに、元凶っていうほどすごい種族なの?」


「はい。この種族が世界に大きな変化をもたらしました。今、世界に居る主な種族──魔術師、天使、悪魔、獣人、吸血鬼……この五種族は全て『ニンゲン』から進化したんですよ」


キラは首を捻って考えた。キラ達と同じ容姿で、特別な力を持たない種族『ニンゲン』──その種族の何がそんなに恐ろしかったのだろう。


「ニンゲンは、この世界を研究し、そこから新たな物を作り出す能力が特別に強かったんです。そうした力を活かして、ニンゲンはこの世界で勢力を伸ばしていきました。そこで一つ、問題がありました」


「問題?」


「ニンゲンは、新たな物を作る時、他の生命を犠牲にするのですよ。火を作る為には木を犠牲にするように」


それを知った『世界樹』は「いつかニンゲン達はこの世界樹のことにも気づくかもしれない。その時ニンゲン達は世界樹のことも手にかけるかもしれない」と考えたらしい。

そこで世界樹は自分をニンゲンの手から守り、世界の均衡を守る為に二人の神を生み出したそうだ。


「それが、『創造』の神であるリオディシアと、『破壊』の神であるメディレイシアです」


二人の神は人を模して創られた。二人は誰よりも美しく、高い知能と圧倒的な力を持って生まれた。その役目は「ニンゲン達から世界樹を守ること」「『創造』と『破壊』の力のバランスを調整すること」の二点だ。

二人が生まれた背景には、世界樹の状態を客観的に診断し、メンテナンスを行う者が必要だったという事情もあるそうだ。

そうして二人は自分の役目を忠実に果たした。ヒトは圧倒的な力を持つ者を目の当たりにした時、その者を「神」として崇め、崇拝するようになるらしい。

二人はこの「神」という役柄を上手く演じた。人々には「導きの言葉」と称して生活の為の適切なアドバイスを与え、その立場を利用して上手くニンゲンを世界樹から遠ざけたそうだ。

二人は完璧にこの世界の為に上手く「機能」しているように見えた。だが、この二人には大きな欠陥があった。


「これは、生れつきとしか言いようの無いことなのですが……リディよりもメディの方が扱える力の量が多かったのですよ」


リディとメディは外見は瓜二つ。対の存在。それなのに、どうして扱える力に差があるのだろう。

『創造』と『破壊』のバランスを取る為に二人が力を振るう時、メディはどうしてもリディに合わせて力を押さえなければならなかった。

ちょうどその頃、「神」を見たニンゲン達は神が扱う超常的な力──魔法に強い興味を持った。


「あの男が生まれたのはその頃ですよ」


「あの男って、オズ?」


「いいえ、違います。昔々、オズさんよりもっと悪い男が居たんですよ」


キラとゼオンは絶句した。セイラに「オズより悪い」と言わせる存在がこの世に居たとは。


「奴はとても特殊な人でした。白髪に薄紫のメッシュ──それが自然の状態として生まれてきましたから。人格も奇怪です。ニンゲンなのにニンゲンに興味を持たず、ニンゲン以外の動植物や鉱物に強い興味を持つ人でした。自分にすら興味を持たず、会う人会う人に自分で呼び名をつけさせました。それが世界最古の魔法使いと呼ばれる人物です。

 メディはそいつのことをリディの名前をもじって『アディリシオ』と呼んでいたようですよ。略して、アディですね」


「アディ……さん」


「はい。メディが奴と出会ったことが、この世界が狂いだしたきっかけです」


自分とリディはなぜ違うのだろう。そう考えた時、メディは「壊れた」らしい。神は元々感情が希薄だ。その神に感情が宿ったことをセイラは「壊れた」と言った。

感情が宿ったメディはニンゲン達に興味を持ち、気まぐれに外を出歩くようになったそうだ。そうして、アディと出会ったそうだ。


「メディは大層アディに興味を持って色々からかっていたようです。しかし、アディは違いました。アディはメディ本人ではなく、メディの神としての性質の方に興味を持ったんですよ。

 あいつは知識欲が強い人でして、神が使う『魔法』を自分も使えないかと思ったようです。まあニンゲンが神の真似事をしたところで元々の力が乏しいですから神を凌駕することはありません。それでも研究したいなら好きにさせればいい。そう考えて、メディは魔法の仕組みをそいつに教えるようになったんです。アディはすぐにそれを理解して使いこなすようになりました。この時、アディは世界最古の『魔法使い』になったんですよ」


しかし、アディの知識欲はそれだけでは済まなかったそうだ。アディは神の性質、『創造』と『破壊』の力、その力が宿る鉱石の力に興味を持ち、研究がエスカレートした。ブラン聖堂の鉱石をメディに持ってきてもらい、身体に埋め込んで寿命を延ばすことまでしていたらしい。


「ちょっと待て」


ここで初めてゼオンが口を出した。


「それで渡したのか? あいつが、メディが?」


「はい。信じられないでしょうが、昔はメディも随分と甘ちゃんだったようですよ。他人の言うこともホイホイ信じちゃってたみたいです。早い話、メディはあいつに言いくるめられて、利用されちゃってたんです」


「嘘だろ……」


「本当です。今の性格はその反動ですよ」


そうしているメディの様子をさすがにリディも見兼ねたらしい。アディリシオから離れるようメディに言ったが、メディは聞きやしない。

そうしているうちに言い争いになり、二人は対立し、ついには喧嘩になってしまった。


「喧嘩、とは言いますが皆さんがするような可愛らしいものではありません。パンチ一つで大陸が木っ端みじんになるようなスケールだと思ってください。殆ど戦争と同じです」


「いや、戦争でも大陸は木っ端みじんにはならねえよ……」


リディとメディは完全に決裂し、「喧嘩」と称した戦争状態に突入してしまった。現在のそれぞれエンディルス国、デーヴィア国にあたる位置に陣地を置いて二人は戦ったそうだ。

その頃、二人の喧嘩の事など放ってアディは研究を続けていた。そうして、遂にこう考えたそうだ。


「神を創ってみたい」


「……正気じゃないな」


「ええ、正気じゃありません。鉱石の力で無理に寿命を引き延ばした影響で、精神汚染が進んでいたせいでもあります。とにかく、遂に奴は『神』を創ろうとしはじめたんです」

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