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ある魔女のための鎮魂歌【第2部】  作者: ワルツ
第10章:記録と予言の聖譚曲(前)
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第10章・第8話

キラ達がじーっとゼオン達の様子を見つめていると、セイラがキラ達の様子を見て言った。


「ゼオンさん、あなたがあまりここで話しているとキラさん気が散るみたいです。あちらに行ってあげてはいかがですか。魔法の知識の伝授でしたら、あなたが居てあげた方がはかどるでしょう」


キラは驚いた。セイラがキラに気を遣うとは思わなかった。セイラはゼオンに目配せし、ゼオンは黙ってオズから離れてキラ達のところへやってきた。

その後、セイラはオズに何かを話していた。オズは餌をおあずけされた犬のように不満げな表情を浮かべていた。


「こっち来てよかったの? あたしに気を遣わなくていいんだよ」


キラがゼオンに言うと、ゼオンはセイラの様子を見ながら


「いや、いい……んだと思う。多分」


と、はっきりしない返事をした。ゼオン達の話の邪魔をしてしまっただろうか。キラがそう思っていると、ティーナがゼオンに言った。


「ヘイ、ゼオン! キラに魔法の基礎知識教えてあげてよ。キラってば魔法使えないどころか魔法の知識もスッカラカンなんだよ。これであたしの愛するゼオンを越えようだなんて100万年早いんだよねえ」


ティーナは今までキラに教えていたことをゼオンに説明していた。ゼオンも魔術書を開いてティーナに何かを話している。どうやら本当にゼオンが指導に加わるらしい。ゼオンはティーナに言った。


「具体的にこいつは何がわかってないんだ」


「もう全部。魔力が何かから、魔法の発動の仕組みまでスッカラカン」


ゼオンは可哀相なものを見るような目でこちらを見つめた。キラはぶうっと頬を膨らませた。


「うるさいうるさい、魔力だなんてそんな誰も一ミリも説明してくれない謎ステータス突然取り上げられたってさっぱりわからないよ!」


するとティーナが言い返した。


「だからこうして説明してるじゃないかぁ」


「だってだって、『魔力ってのは魔法を使うための力で、あーしてこうしてドーンとすれば魔法になる』ってさっぱりわかんないよ! 魔力が魔法を使うための力って当り前だし!」


キラがムキになって更に言い返すと、ゼオンは小悪魔達に声をかけて、メモ用の紙を一枚貰った。ゼオンはその紙に焚火の絵を描いて説明した。


「あのな、魔法の発動ってのは、物が燃える仕組みと似てるんだ。火をつけるためには燃料と空気と火がつくくらいの高温が必要だろ。この燃料にあたるものが魔力なんだ」


「へえ、ふーん」


「で、魔力っていう燃料に火をつける為に俺らは呪文を唱えたり魔法陣を作り上げたりする。こういう魔法の火だねを作る技術が高温の部分にあたる」


「へえー」


「魔力ってのは生まれ持った素質で、努力しても増やすことはできない。けど、魔法の技術ってのは努力で磨ける。魔法を練習するっていうのは、この技術の部分を磨くってことだ」


「ふーん」


「基本的に、魔法を使う時は呪文を唱えて魔方陣を呼び出す。魔方陣を手で描いてからやる場合もあるけど、その時も呪文は必ず唱えなきゃいけない。呪文詠唱をカットする魔法をあらかじめ唱えたりしない限り、一度に使える魔法は一つだ」


「なんで一つしか使えないの?」


「魔法を使うには呪文詠唱が必要って言っただろ。お前に呪文を唱える為の口は二つ以上あるか?」


「ハイッ、人に口は一つしかないです!」


「そういうことだ。わかったか?」


正直なところ、魔法という単語に拒絶反応を示すキラの脳にはあまり深く染みてはくれなかった。

しかし、ティーナの感覚的な説明と比べると随分具体的でわかりやすい説明だった。


「うーん、半分くらいわかったかも。ところで、ゼオンって絵の腕はびみょーなんだね」


キラはゼオンが描いた焚火の絵を指さした。焚火だと判別不能なほど下手というわけではないが、線はふらふらと安定していないし、薪の形は若干曲がっているので上手とも言い難い。ティーナとルルカが早速その絵を覗き込んだ。


「別に下手じゃないじゃん」


「でも上手くもないわよ。まあ、微妙ね」


「お前……人の絵にケチつける暇あったらやる気出せよ。やる気無いんだったら俺帰るからな」


ゼオンは自分が描いた絵を丸めながらキラに背を向けた。


「あああごめんごめん、あたしが悪かったよ。ちゃんと頑張るから、怒んないで! あと、絵捨てないで! なんかもったいないから!」


ゼオンは慌てて引き止めるキラを見ると、渋々こちらに戻ってきて、キラに丸めた絵を投げつけた。丸まった絵はキラのおでこに当たって床に落ちた。


「で、やる気があるんなら、さっきの説明はちゃんと理解したんだろうな?」


キラは投げつけられた絵を拾い上げ、一生懸命広げて皺を伸ばした。それからキラは先程の説明を思い出した。


「うーん、なんとなくわかったようなわかんないような。魔法と火が似てて、燃料が魔力で、高温が魔法使いの技術なんだったら、空気にあたる物はなんなの?」


そう言うと、ゼオン達は急に顔を見合わせて黙り込んだ。ひそひそと何か話しているがキラへの返事がなかなか返ってこない。


「ちょっと、なんでコソコソ話してるの……まさかわかんないの?」


ゼオン達は手元の魔術書を開きながら言った。


「わからないというより、はっきり説明している本や人が少ないんだよな」


「あたしはそんなもの考えたこともなかったよ。魔法なんてえいってやってドーンってすれば使えるもんだし、それで不自由したことないし。ルルカは多分王室でちゃんと教わったでしょ。何か知らない?」


「一応教わったけど、『魔法の威力はその場の環境にある程度左右される』ってことくらいよ。その魔法の威力を左右する物について具体的な話は無かったわ」


「『世界の核から生み出される万物の素が魔法の威力を増幅させる』っていうのなら本で読んだけどな。けど、それじゃまず世界の核ってどこだよって話になるだろ。俺達が知らないというより詳しく解明されてないんだよ」


キラは納得がいかないまま黙り込んだ。仕組みも解明しきれていないものを理解しろと言われても難しい。ゼオン達は今まで魔法を使ってきて、その仕組みについて気になったことはないのだろうか。

だが、キラはそこまで考えたところでため息をついた。キラだって今まで何の疑問も持たずに魔法を見てきていたのだ。魔法だけではない。キラだって仕組みを知らずに使ってきた物はいくらでもある。例えば、キラは汽車の仕組みを知らない。石炭を燃やして走る程度の知識だ。だがアズュールから帰る時は汽車に乗って帰ってきた。汽車に乗る為に必要な物は汽車の知識ではなく乗車券だ。

物だけではない。キラはこの村の仕組みもウィゼート国の仕組みもわからない。だが、キラは生まれてから今までずっとこの村でこの国で生活してきた。

そう考えてみると、魔法の仕組みがわからないことは特別なことではないのかもしれない。キラは魔法を支える世界の仕組みもわからないが、それは当たり前のことかもしれない。

キラはふてくされながら言った。


「なんか思ったより魔法ってつまんないなあ。燃料は生まれ持った素質で、空気のことはよくわかんなくて、今から磨けるのは技術だけなんでしょ。これでどうやって強くなればいいんだろう」


「キラぁ、ぶーたれたらそこでおしまいだよ? そもそも誰も今から魔法のプロフェッショナルになろうって言ってないよ。その技術に関する知識を身につければ魔法を使ってくる敵への対策ができるって話なの!」


「じゃあ例えばさ、その技術の知識だけ身につけたら、あそこの二人と戦って勝てると思う?」


キラはオズとセイラを指さした。二人はまだ険しい顔で何か話していた。途端にティーナの口調に勢いが無くなった。


「う、うーん……あー……キツイ、かもね」


オズはそもそもの魔力量が人知の域を越えているし、セイラの知識量にはどう足掻いても勝てないだろう。ゼオン達がわからなかった空気にあたる物についてセイラが知っていてもきっとキラは驚かない。


「あたしは強くなりたいのに、どう頑張れば強くなれるのかなあ」


キラは机に突っ伏しながら呟いた。キラはゼオンが描いた微妙な絵を見ながら考えた。どうしたら魔法が使えなくても強くなれるだろう。どうしたら魔法を使ってくる敵に負けないで立ち向かえるだろう。

敵。そう考えた時、ショコラ・ブラックの姿が浮かんだ。次出会う時、キラはあの人と戦うことになるのだろうか。キラはあの人に勝てるのだろうか。

それ以前に、キラはブラックと戦えるのだろうか。キラはついこの前までの時間を捨てきれなかった。ゼオンが転入した直後の頃、魔物に襲われそうになったキラをブラックが助けてくれた時のことが頭を駆け抜けていった。

キラは机に突っ伏した頭を上げた。その時だ。


「キラさん、少しよろしいですか」


セイラの声だ。どうやらオズとの話は終わったようだ。セイラは気がつくとキラのすぐ隣に居た。


「修業とやらが終わった後で構わないのですが、キラさんは今日はこの後時間はありますか?」


「あるけど、どうしたの?」


「キラさんの学校のお友達を私に紹介してほしいんです。できる限り沢山」


なぜセイラが突然そんなことを頼んだのかキラにはわからなかった。


「別にいいけど……」


そう返事をしながら、キラは遠くにいるオズの方に目を向けた。オズは窓の外を見つめていた。いや、見つめているというよりは、上の空といった方が近いかもしれない。この図書館ではない別の何かに心奪われているような目をしていた。

オズは一体セイラと何を話していたのだろう。いつにもまして不機嫌そうに見えるのは、やはり先程ゼオンがリディという人について詳しく話さなかったからだろうか。

キラがじっとオズの横顔を見つめていると、セイラが言った。


「ではキラさん、よろしくお願いします」


「へっ? あ、はい、わかった」


どうやらセイラは先程の友人紹介の話をしていたようだったが、セイラの話をろくに聞いていなかったキラはそう返すことしかできなかった。

キラが事態を把握できないまま、話はとんとん拍子で進んでいく。こうしてキラはセイラとお友達紹介の旅に向かう嵌めになったのだった。

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