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ある魔女のための鎮魂歌【第2部】  作者: ワルツ
第9章:ある王女の幻想曲
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第9章:第12話

ゼオンはキラの前に出て、冷静にネビュラに言った。


「その話は誰から聞いたんですか? ルルカがこの村に居るということを教えた人物とは、何か関係があるんでしょうか。そこのところ、詳しく教えてもらえませんか。」


ネビュラが震え上がって目を背けた。おそらく図星なのだろう。ネビュラはしばらくだんまりを決め込んでいたが、やがて諦めたように言った。


「わかった。話すよ。ちょっと場所を変えてもいいかな。ここであまり長いこと話すとまたルルカを刺激してしまいそうだ。」


キラがゼオン達と相談した結果、そうしようということになった。キラは言った。


「じゃあどこで話す? あたしんちに来る?」


するとゼオンがネビュラには聞こえないように小さな声で言った。


「お前んちにはお前の婆さんが居るだろ。サラ・ルピアの話が出たところを見ると、もしかしたら婆さんを巻き込まない方がいい話になる可能性は無いか?」


「あっ、そっか。じゃあどこにしよう……図書館?」


キラがそう言った途端、ゼオンとティーナとセイラがすごく嫌そうな顔をした。


「あ、えっ、そう、じゃあ……どうする……?」


キラが慌ててそう言ったが三人から返事は無かった。三人とも不快そうな顔をしたまま黙り込んでいた。だが、最終的にゼオンは言った。


「いや、図書館にするか……。どうせオズもなんだかんだで事情を知りたがるだろうし……」


ティーナとセイラも嫌そうに頷いた。キラはなんだかオズがかわいそうに思えてきた。こうしてキラ達は全員図書館に向かうことになった。宿屋を出て歩いてゆく時にゼオンが呟いた。


「なんか、いつも結局こうなるんだよな……」








図書館に着くと、オズがいつも通り胡散臭さ満天の微笑みでキラ達を出迎えた。

キラ達は早速オズに事情を話してから、図書館のテーブルと椅子を借りてネビュラの話を聞くことにした。事情を知ったオズは楽しそうに笑って言った。


「そらあかんなー、あかんことになったなあ、ハハハ。」


「ちょっと、笑い事じゃないんだけど。」


ティーナがそう言ってオズを睨んだ。ルイーネ達が用意したお茶を飲みながら、話は始まった。まずゼオンがネビュラに言った。


「じゃあ、話してもらえますか。まず、あなたはこの杖の力について誰から教えてもらったんですか?」


ネビュラはお茶に手もつけずに俯いていた。深いため息をつき、ネビュラは話しはじめた。


「先月のことだったよ。ウィゼートの反乱と国王暗殺未遂の話が伝わってきてしばらく経った頃かな。奴は突然現れたんだ。

俺が私室に一人で居た時なんだけど、ちょうど使いの兵達からウィゼートの状況の話があった直後だったんだ。

 ウィゼートのことだからね、当然サバト国王のことを少し考えてた。そしたら、突然声がしたんだ。

『あんた、あの暗殺事件がどう終わったか知ってる?』って。そしたら突然周りが真っ暗になった。

 そしたらサラ・ルピアが手足を呑まれる光景が目の前に映し出されたんだ。あの杖に、消されるのが見えたんだ。それと、ルルカの姿も映し出された。あの杖を弓矢に変えて戦ってた。声は言ったよ。『あの杖には人を消す力がある』って。『あんな危険な杖を持ってたら、ルルカもいつか消されてしまうよ』ってね。

 俺はどうすればいいか尋ねた。そしたらその声は『ルルカから杖を取り上げろ』と、取り上げた杖をどうすればいいか尋ねた。そしたら、『その杖が欲しいから、ボクはこうしてあんたに話をしてるんだ。杖はボクが責任持って預かるから』と。その声はそう言ったっきり、もう聞こえてこなかった。周りが再び明るくなったら、窓際にロアルの村までの地図があった。ここがルルカの居場所だという書き置きと一緒にね。

 そうして俺は兵や父上には気付かれないようにここに来たんだ。テルルには話を聞かれたらしいからね、もういっそ巻き込んでしまった方が事がむしろ周りにばれにくいだろうと思ったんだ。」


キラはどうも今の話に納得できなかった。ルルカはネビュラを裏切り者だと言っていたが、今の話だとネビュラはルルカを心配してここにやってきたように聞こえる。

だが、今のネビュラにはこの村に来た直後のような余裕は無い。今のネビュラに嘘八百を並べることができるようには見えなかった。だが、かといってルルカが嘘をついているようにも思えない。そんな余裕があるならば先ほどのような自体にはならないと思うのだ。

キラは「むー……」と首を右に左にと傾げたが、すとんと落ち着く答えは出てこなかった。するとゼオンが言った。


「その声だけで、わざわざこんなところまで来たっていうんですか?」


「……そうだよ、悪い?」


キラはネビュラに尋ねた。


「えっと、たしかネビュラさんはルルカを裏切ったって聞いたんですが、今の話を聞いてると、なんか……よくわかんないです。結局、ネビュラさんはルルカの敵か味方か、どっちなんですか?」


ネビュラはため息をついて言う。


「愚問だね。最初から言ってるだろ、俺は『裏切り者』なの。ルルカの味方なわけねえし、ここに来ちまった時点でぶっちゃけ父上万歳もしたくねえの。

 ……どうせ言ったところで誰も信用しないだろうから言わなかったけどね、俺は別にルルカを裏切りたくて裏切ったんじゃない。少なくともルルカがお姫様だった頃は、俺はルルカのこと本当に友達だと思ってたよ。

 でも俺は友達と思ってても、父上はそう思ってなかったんだ。ある日突然だよ、父上は言ったのさ。『喜べネビュラ、お前は明日から王子様だ。お前のおかげだ、よくやった』ってさ。俺はわけわかんねえって言ったら父上はこう言った。『よくぞ今まで王女を騙してくれた』ってね。

 ふざけんじゃねえよ、騙されたのは俺の方だ。クーデターだなんだ、そんな話初めて聞いたよ。けどさ、結局大人には逆らえなかった。

 居心地のいい王子様の椅子を投げ捨てて死ぬ度胸は無かったんだ。だから牢から逃げ出したルルカに言った。『騙されてくれてありがとう、お姫様』ってね。」


ネビュラは苦い顔でそう言った。淡々と話していたが、いささか話し方に迷いがなさすぎるようにも聞こえた。ティーナが低くボソッと呟いた。


「何その自己弁護。」


おそらくティーナの非難はネビュラにも聞こえていただろう。しかしネビュラは言い返さなかった。堅く口を閉ざして俯いていた。キラには先程の言葉はネビュラの本心のように思えた。村長の屋敷で話を聞いた時よりもずっと芯が強く確かな言葉のように聞こえた。

ティーナがルルカの為を思ってネビュラを赦しはしない気持ちはわかるが、キラはネビュラにそこまで冷たくはなれなかった。俯いて陰が落ちているネビュラの顔を見て、キラはこれ以上ネビュラを追い詰めたくなくなってしまった。

ゼオンが再びネビュラに言った。


「……もう一度聞くようですが、その謎の声の言うことを疑う気は無かったんですか? この村にルルカが居るだなんて、そんな書き置き一つで納得するような確証がどこにあったんですか?」


ネビュラは眉間にしわを寄せながら口を閉ざしたままだった。その時、ネビュラの傍に居たテルルが不意にこう言った。


「それは私も気になります……。ルルカ王女がこの村に居るという話を聞いた時は私も驚きましたし、そんな話、すぐには信用できませんでした。私はルルカ王女はまだエンディルス国内を逃げ回っていると聞いていましたから……。この村どころか、まずエンディルスではなくウィゼートに居たこと自体驚きでした。」


その時、急にゼオンとティーナが身を乗り出した。ティーナが驚いた様子でテルルに尋ねた。


「ちょっと待って。あんたお城の兵士さんだよね? ルルカがウィゼートに居るって知らなかったの?」


「えっ? あ、はい。でも私だけではないと思いますよ。今もルルカ王女の捜索は続いていますが、捜索範囲はエンディルス国内です。ルルカ王女の目撃情報や捜索の手がかりは全て国内で見つかってましたので。」


「それ、ほんと? ただの噂話とかじゃなくて?」


「はい、私、七月までルルカ王女捜索に関わってましたので。元王女の手がかりは国内からしか見つかってません。」


するとゼオンが言った。


「……それはおかしい。」


「えっ?」


テルルはきょとんとしていた。キラも一体何がおかしいのかわからない。


「ねえ、何がおかしいの?」


キラが尋ねるとゼオンはこう言った。


「だって、この馬鹿女とルルカを含む俺達が初めて会った時、ルルカの奴兵士に追われてただろ。

 たしか四月のことだ。俺達が初めて会った場所は完璧にウィゼート国内だ。兵士がちゃんと仕事してりゃ四月の時点でルルカがウィゼートに居るとバレてるのが自然なはずだ。」


キラは「あっ」と声をあげた。随分前のことなのですっかり忘れていたが確かに初めて出会った時にルルカは追われていた。ゼオンの言うとおり、実際にエンディルスの兵士がウィゼートまで来ていたというのにルルカの手がかりがエンディルス内でしか見つかっていないというのはおかしな話だ。

その時ネビュラがテルルに言った。唸るような殺気さえ感じるような声だった。


「テルル……駄目だろ、そういう話を城の外の奴にしちゃ。」


「えっ、はい、すみません! あの……ネビュラ様……?」


テルルが戸惑うのも当然だった。ただ兵士の言動を諌めるにしては少々ムキになりすぎだ。なぜだろうか。キラもテルルと同じように戸惑っているとゼオンがネビュラに言った。


「ああ、そういうことか。あなたがルルカの居場所の情報を隠蔽してたってことですか?」


ネビュラが唖然としていた。その様子を見てキラもテルルも唖然とした。「さすがゼオン……」とキラは思ったが口には出さなかった。周囲の反応に戸惑ったのかゼオンがキラに言った。


「違ったのか?」


「いや、多分その逆じゃないかな……よくわかったね……」


キラは苦笑いしながらチラリとネビュラを見た。あの様子は図星だろう。ネビュラはひたすら唖然とした後、半ばやけくそになって言った。


「あーもう、そうだよ全部正解だよ。ったく、ほんと抜け目無いな。ルルカがウィゼートに居るってことは四月の時にはもう知ってた。ってか、ルルカが逃げ出した時からいずれ行くだろうって思ってたんだよね。サバト国王の居る国だし。

 んで案の定ウィゼートでルルカが見つかったって話が来たから、そういう話は俺が片っ端から潰して隠蔽した。んで、エンディルス内にルルカが居るって情報を捏造して捜索班に回した。あとウィゼートの側には俺がこっそり手を回して兵達が領土に入ったことは黙ってもらうことにして……どうせ末端の奴らだから国王とか中央の奴らには気づかれなかったしー……

 とにかく俺は今までひたすらルルカ捜索の邪魔してたんだよ。」


ネビュラはイライラしているようだった。キラはますますネビュラという人が一体どういう人なのかわからなくなっていた。キラは言った。


「なんでそんなことまで……。ルルカの為ですか?」


「ルルカの為? 馬鹿だな、違うよ。そんな綺麗な理由じゃない。俺の為だ。ずっと怖かったんだ。俺はあいつを裏切ったんだ。あいつが牢に放りこまれて、ボロボロになりながら逃げ出して、追い回されてる間、俺はずっと暖かい城でぐうたらしてたんだよ。

 俺は絶対あいつに恨まれてる。あいつだけじゃない、あいつの親やクーデターで死んでった奴らにも。

 その恨みが怖かった。ずっと赦されたかった。罪滅ぼしした気分になりたくてルルカの情報を隠蔽してたんだ。

 自分が裏切って見捨てた奴が、最終的にあの杖に消されて死にましたなんて結末になったら、後悔と罪悪感に俺が殺される。

 だから、ここに来たんだ。あいつから杖を奪おうと。後悔から逃げたくて。」


初めネビュラはイライラした様子で話していたが、徐々に声に元気が無くなり、最後には暗く沈んだ声で話しきった。まるで錘を吐き出すようだった。ルルカが心の底から嫌った人であるはずなのに、キラは苦しそうなネビュラを見て寂しくなってしまった。

ルルカだけではなく、ネビュラの苦しみも軽くできないだろうかと思ってしまった。

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