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第8章:第2話

今日も図書館は騒がしかった。

騒ぎ回るシャドウと叱るレティタが図書館中を飛び回り、窓辺を見ればルイーネがホロをうようよさせながらオズに仕事をするよう怒鳴っている。

ルルカに対して一方的にゼオン語りを繰り広げるティーナ、そしてセイラがお菓子を食べる音が重なってそれは素晴らしいアンサンブルを繰り広げて耳を攻撃する。

もはや当然の光景ではあるのだが見る度キラは圧倒されていた。

図書館に到着するなりゼオンがルイーネに言った。


「図書館は静かにする所っていう規則はここには無いのか?」


「はぁ、ゼオンさんの言うとおりだと思うんですが、何しろ館長や一部の職員(某シャドウさんを指します)が規則破りの化身のような人ですからまずここには規則ってものが無いんですよ。

 静かにしてくださいーって言っても説得力無いじゃないですか。」


二人とも一言も返せないくらいに破壊力溢れる説明だった。

規則破りの化身と呼ばれた館長オズは今日も山積みの書類を放り出して「暇や暇や」と呟いていた。

ふとキラがセイラの方に目をやると、セイラの目の前にあるテーブルに大量のお菓子が置いてあった。

お菓子があるのはここではよくあることだが今日はいつにも増して種類も量も多い。

シュークリームにドーナツ、クッキーにチョコレートにキャンディ。キラの目はそれらに釘付けになった。


「お菓子だ……!」


「ああそれか、今日隣町に買い物行ってきたんや。食え食え。」


「いっただきまーす!」


キラは早速テーブルに飛びつきお菓子達に手を伸ばした。が、食べ出す前にゼオンが肩を叩いた。


「お前、なんか忘れてないか……? 気持ちはわかるけど……」


「あ、その……修行はお菓子の後で。」


「それもだがもう一つ。」


ゼオンはオズに言った。


「おい、話があるらしいから今すぐ村長のとこに行けってペルシアが言ってた。」


それを聞いた途端、オズが干からびた魚のような表情をして硬直した。よっぽど嫌だったらしい。

それからオズは急に頭と腹を押さえだした。


「いたたた……急に腹と頭が痛くなったから今日は無理やなー困ったなー行けへんなー。」


「何馬鹿なこと言ってるんですかこの人は! ほら、早く、行きますよ!」


「嫌や嫌やー!」


オズはホロに吊られながらルイーネと一緒に出て行った。

長身の男が駄々をこねながら連れ去られていく様を見送った後、ゼオンが呟いた。


「ルイーネって偉いよな……。」


「どうしよう。それ、よくわかる。」


キラも頷きながらそう言った。

オズが出て行った後、キラは早速セイラと競うようにテーブルの上のお菓子をほおばり始めた。それを見たシャドウとレティタも加わった。

ふとキラはゼオンの姿が見えないことに気がついた。ゼオンがお菓子に興味を持たないはずがないのだがどこに行ったのだろうか。

しばらくしてゼオンは三冊ほど本を抱えて奥から戻ってきてシャドウとレティタに言った。


「こっち二つ、借りてく。」


「わかったわ。貸し出し手続きやるからちょっと貸して。」


レティタとシャドウが本を持ってカウンターの方に飛んで行った。キラはゼオンに訊く。


「何借りたの?」


「魔法書。俺も、練習。使える魔法は多いに越したことはないだろ。」


キラは口をへの字に曲げた。


「あんたこれ以上練習しなくていい……。」


ゼオンは「そんなことない。」と一言だけ言ってテーブルの上のチョコレートを口に入れた。

キラは少しつまらなくなって口を尖らせた。そして思い切ってお菓子をすべて放り出して立ち上がった。


「じゃああたしも魔法練習するよ! 今すぐ!」


キラは魔法書を投げつけられた。ゼオンが持ってきた最後の一冊で、「はじめての魔法」と子供だましのようなタイトルが書かれていた。


「後で。それまでそれ見てやってろ。」


ゼオンはキラの席を奪ってお菓子を食べ始めていた。キラはまた眉間にしわを寄せてハニワのように大口を開けた。

するとティーナとルルカがその会話に興味を示したようでキラに話しかけてきた。


「魔法? 貴女が?」


「なになに、キラってば急に練習なんてどうしちゃったの?」


「あ、気になる? あたし、もっと強くなりたいんだ! だから、魔法の練習!」


一瞬間が開いた後に「ふうん」とか「へぇ」とか、二人とも妙に歯切れの悪い反応をした。

キラはぶぅっと頬を膨らませた。


「ひどいじゃん、ばかー! あたしもっと強くなりたいんだよ!」


「いやぁ、あたしがツッコみたいのはそっちじゃなくて。キラが強くなるのに一番やるべきことは魔法じゃないと思うんだけど。」


ティーナの言葉にキラは首を傾げた。するとゼオンもルルカも珍しく納得したように頷いた。

ゼオンなんて一度魔法の修行に付き合うと言ったくせに。キラはゼオンに言った。


「なんでなんで? 苦手をふっこくするのは普通でしょ?」


「ふっこくって何だよ、克服だろ。お前の場合一番最初にすべきことはバカを直すことか不意打ち対策じゃないか?」


「バカって言うなぁ!」


キラは拳を振り回して怒ったが、ティーナとルルカは納得しているようだった。


「ほらっ、この前だってキラってばあの杖で超強くなったサラ・ルピアに『きらきらいなずまキッーク!』なんて言ってつっこんだでしょ。

 あれは絶対バカだって。例え魔法ができるようになったとしてもあれじゃ返り討ちにされるよ。」


悔しいがティーナの言うとおりだった。キラは言い返せなくてたじろぐ。

続けてルルカが言った。


「不意打ちってのもわかるわね。ヴィオレの時計台で吸血鬼と戦った時、あの時もたしか不意打ちで魔物に振り回されてなかった?」


「う、うう……。」


するとこれまでその様子を静観していたセイラが口を挟んだ。


「キラさん、反乱の件の時に誘拐されてましたが、あの時はどうしてあのようなことになったんでしたっけ。」


「えーっと、たしか廊下を歩いてたら突然魔法でー……あっ。」


キラは何も言えなくなった。ルルカが呆れてため息をつき、ティーナはわざとらしい笑顔でこちらを見守っている。


「……魔法より先に不意打ち対策だな。」


ゼオンがぼそりと呟いた。キラはしょぼんと俯いて言い返せなかった。

その時突然入り口の扉が開き、見慣れない中年の男性が図書館に入ってきた。


「おい、オズ! 村長が呼んで……ありゃ、留守か。」


どうやらオズに用があったようでオズの留守に気づいた途端に大人しくなった。


「オズならもう村長のとこに行きましたよ。」


「おお、そうか。まあ、ならいいんだけどな。」


その男性は村役場の関係者だった。名前は覚えていないが顔は知っていた。

その人は図書館にキラ達が集まっている様子が物珍しかったようでキラ達をじっと見つめた後に言った。


「ああ、なるほど。最近図書館集まってる子達って君らのことか。

 物好きだな、オズと仲良くするなんて。」


それを聞いたティーナが立ち上がり噛みつくように言った。


「はぁ? それ誰が言ったのさ。キラやゼオン(読み:俺の嫁)や我らの乙女のルールカちゃーんとは仲良しだけど、オズと仲良くした覚えなんてないんだけど。」


ティーナはオズに関しては冷たくそう言ったがセイラに関して冷たい言葉を吐くことはなかった。

後から「この子ともね。」とセイラを軽く睨むように見たのはルルカの方だった。

セイラの方ももはやルルカを相手にする気も無いようでそっぽを向きながらお菓子を食べ続けていた。

それを見た村役場の男性は黙り込んでしまった。だが、キラはあながちペルシアやこの人が言うことは間違っていないのではと感じていた。

なんだかんだ言いながらキラ達はいつもここに集まっている。それを端から見て「仲が良い」のだと捉えるのは普通なのではないだろうか。

こんな考えはバカなキラの的外れな考えに過ぎないのだろうか。

いつかオズやセイラとも本当に仲良くなれたらいいのになと密かにキラは願っていた。

村役場の人はキラ達にこう言った。


「まあ、あのオズと仲良くするかしないかは君らの勝手だとは思うけどな、あまり関わんない方が俺はいいと思うぞ。あんな得体の知れない化け物。」


嫌悪の感情が見て取れる言い方だった。ティーナがすとんと落ちるように席についた。するとゼオンが言った。


「得体の知れない化け物って……妙な表現をするんですね。あいつ、吸血鬼ですよね?

 吸血鬼を毛嫌いする風習はよく聞きますが、得体の知れない化け物と言うと未知の生物でも指しているように聞こえます。」


「ん、え、吸血鬼?」


キラは思わず聞き返す。ティーナやルルカも驚いた様子だった。ゼオンは一言「姉貴から聞いたんだよ」とキラ達に伝えた。

役場の人は首を振ってゼオンに言う。


「違う違う、あいつが吸血鬼だからとかそんな差別をしてるわけじゃない。それと、お前一つ勘違いしてるぞ。

 オズは絶対ただの吸血鬼なんかじゃない。」


「その証拠は? オズの魔力の強さですか?」


「理由の一つではあるな。それともう一つ。」


役場の人は急にキラに目を向けた。


「おいキラちゃん。オズがこの村に来たのっていつだと思う? お前の婆さんが来たのと同じ年だよ。」


「ばーちゃんと同じ年っていうと………えっ!?」


キラは思わず声をあげた。はっきりした年はわからないが、リラが村に来た年なんて十年や二十年前なんてレベルではないはずだ。

いつ村に来たかなんて以前にぶち当たる疑問があった。オズは一体何歳だろう?


「あくまで噂だけど、だいたい五十年くらい前だって聞いた。けどあいつが50歳以上のジジイになんて見えないだろ?

 あいつは年をとらないんだ。それに加えてあの強大な力だ。それであいつをただの『吸血鬼』なんて言葉で片付けられるか?

 あいつが何者かはわからないけど、吸血鬼と言うよりはさっきあの小僧が言ったような『未知の生物』って言った方が近いのは確かだろ。」


「そんな言い方……」


「強大な力があろうとなんだろうと、それで村の決まりを守って大人しくしてりゃこっちもとやかく言ったりしないんだよ。

 あいつは傲慢で自分勝手だ。自分の強い力を盾に村長や役員に脅すわ、わけのわからないことを言い出すわ……みんな言ってるよ、あいつは頭がいかれてるって。」


その時突然何かが役場の人の頬を掠めて床に突き刺さった。よく研がれた短剣だった。

シャドウとレティタが役場の人の顔の前を飛んでいた。どうやら今の短剣はシャドウの仕業らしい。

普段の無邪気で愛らしい雰囲気はどこにも無く、シャドウは低く唸るように言った。


「帰れ。これ以上オズの悪口言うようなら許さない。」


役場の人は不愉快そうに眉を潜めて大人しく図書館から出て行った。


全員が言葉を失い硬直する中、セイラだけは全てが当然のことであるかのようにお菓子を食べ続けた。


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