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ある魔女のための鎮魂歌【第2部】  作者: ワルツ
第14章:ある罪人の為の序曲
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第14章:第19話

無限の星空にカツン、カツンと音が響く。三度目の打ち合わせは、再びリディが創った星空の空間で始まった。

オズとリディ、二人の間には初めて出会った時と同じようにチェス盤があり、互いに一歩も譲らずに実力をぶつけ合った。二度目のチェスは前回は見えなかったリディの本性が見えた。この女は本気になればなるほど、一つ一つの手から感情が消え、駒が標的を仕留める兵器となる。

そして、数十分後、白の女王が黒の王の正面に立ちはだかった。


「だあああああああああっ! 負けたああああああああああっ! ちくしょコノヤロウ! やっぱ最初の時は手加減してやがった、くそおおおおおおおおお!!」


勝敗が決まった途端、俺はチェス盤をひっくり返して怒鳴った。やはり、リディは鬼のように強かった。床に落ちたチェス盤を見つめながら、リディはきょとんと首を傾げた。


「わあ、驚いた。そんなに悔しかったの?」


「当たり前や! 男たるもの戦いから遊びまで全てにおいて最強やないと気が済まへんもんやろ!」


「そうなの? ヒトの男性ってとっても向上心が強いのね」


「その反応、めちゃくちゃ気に食わへん! チクショーこのクソ女神!」


俺はチェス盤の次に椅子をひっくり返して地団駄を踏んだ。リディはじっとその様子を見つめ、春風のように優しく微笑んだ。そういうところを見ていると、余計に腹が立った。


「不思議。オズって、本当にいろんな一面を持っているのね。観測しがいがあるわ」


「そないなやり甲斐、与えとうないわ。あークソ畜生、クローゼットの角に100万回足の小指ぶつけろ、この偽善者」


俺はぶちぶちと悪態をつきながらさりげなくリディから目を背けた。初めて出会った時のリディの笑顔は明らかに感情の籠もっていない作り笑顔だった。だが、気のせいだろうか。出会う度に少しずつ、笑顔が自然になっていくように感じる。リディの振る舞いがヒトらしくなる度に──脳裏にメディの顔が浮かび、俺は唇を噛むのだった。


「くそ……なんで同じ顔なんや……」


リディに聞こえないように小声でそう呟いた後、俺はひっくり返した椅子を元に戻した。


「あーあーもうええ、はよ行こや。あれやろ。今日の本題は天使共のとこに行くことやろ」


「そうね。その方が、あなたも機嫌を直してくれそうだし」


「……お前、ほんと腹立つな」


リディが席を立ち、数歩あるき出した瞬間、リディの足が触れたところから空間が壊れ始めた。空間のヒビから光が入り込み、夜空が砕け散っていった。崩壊の最中、リディは俺に右手を伸ばして微笑んだ。その顔は、脳裏でメディと重なった。

何が女神だ。まるで、悪魔の誘惑のようだ。すぐにでもその笑顔をめちゃくちゃにしてやりたい衝動を抑えながら、俺は差し出された手を取った。



空間が完全に崩壊し、瞼を開いた時、眼前には白銀の都が広がっていた。当時リディ率いる「天使連合」と呼ばれていた集団の拠点である、アンゼレという都市だ。正面には壮麗な城があり、堅牢な城壁が周りを囲っている。城下町はアズュールとは比べ物にならないほど栄えており、白い翼を持った天使たちが行き来していた。

俺はリディに手を引かれながら城の正門前に降り立った。見張りの天使はリディの姿を見ると、敬礼をした。


「女神様! お帰りになられたのですね!」


「はい。今日はお客さんを連れてきたの。案内してさしあげて」


「かしこまいりました。少々お待ちください」


天使は門番に指示を出し、正門を開けさせた。


「ありがとう。さあ、オズ。行きましょ」


俺は黙ってリディの後に続いた。城の中は天使達で溢れかえっていた。兵士、メイド、執事など──様々な者が働いており、全員がリディに忠実に仕えていた。まるで、神というよりは女王のようだ。リディは俺の案内をしながら兵士達の報告を聞き、次の指示を出していた。


「……そう、ありがとう。十分な成果だわ。お疲れさま。引き続きよろしくね」


「はい、女神様。そう言っていただけると光栄です」


兵士は頭を垂れ、リディへの忠誠を示した。「メディとは随分な差だ」と感じた。あいつはヒトからこのような「本物の」忠誠心を掬い上げることはできないだろう。リディは兵士が状況を報告する度に必ずお礼と労いの言葉をかけ、問題に対する具体的な指示を出した。これは明らかに「神」というよりは「ヒト」の処世術だ。


「お前は狡い神やな」


「そう?」


「ああ。ヒトの感情なんて記録からの推測でしかわかってへん癖に、うまく合わせるもんや」


「それって、褒めてるの? 貶してるの?」


「褒めとる」


そう言うと、リディの頬が僅かに色づき、笑った。


「そう……なんだか、初めてあなたに褒められた気がするわ。『嬉しい』、かもね」


あ、これは本物の笑顔だ。そう察した時、俺はついリディから目を逸らしてしまった。確かな感情が籠もった表情を見て、素直に「かわいい」と思う反面、危機感が募る。リディとメディは別人だと頭では理解している。そのはずなのに、こうして一瞬でもリディに惹かれる度に、仇に籠絡されていっているかのように錯覚するのだった。

その時、リディは一人の金髪の男性兵士に声をかけた。


「ああ、そうだ。そこのあなた、えっとたしか名前は……マチカ、よね?」


「そのとおりです。覚えていただけて光栄です」


「ふふ、よかった、合ってて。ちょっとオズを部屋まで案内してくれる?」


「かしこまいりました」


どうやら、リディは宿泊の為の部屋まで用意してくれているようだった。人々を従えるリディと神を崇拝する人々──両者は互いを認め合い、良好な関係を築いているようだった。とはいえ、リディは人の世界に介入し、神々の戦争に人を巻き込んでいる。その時点でリディの行いは身勝手だ。だがこうも円満な関係を見せつけられると、俺も感心せざるおえなかった。


「ところでオズ殿」


リディと別れ、用意された部屋に向かう途中でマチカという兵士が声をかけてきた。


「こういうことをお尋ねするのは失礼かと思いますが……オズ殿と女神様はどういう経緯で知り合ったのですか?」


マチカは嫌味無く、純粋な好奇心を向けていた。一見すると堅物で融通が利かなさそうなタイプに見えたが、このようなことを軽率に尋ねてしまうあたり、意外と素直なのかもしれない。


「それはちょいと機密事項やから教えられへんわ。堪忍な」


ここは、こう答えておくのが無難だろう。すると、マチカは慌てて頭を下げた。


「作戦に関することでしたか!? 大変申し訳ございません。軽率な発言、お詫び申し上げます!」


「ええってええって。というか、作戦やなかったら、なんやと思ってたん?」


これは、特に深い意図のない質問のつもりだった。だがそう言った途端、周囲のメイドや兵士達が一瞬ざわめいた。マチカは小声で耳打ちした。


「い、いや……女神様が急にかっこいい人を連れてきたから、恋人か何かじゃないかって、みんな色めきだっているんですよ。ほら、周りでざわざわ言ってるのも多分それですよ」


どの地域でもどの種族でも、ヒトは所謂恋バナを好むようだ。俺は咳払いをしながらそっけなく答えた。


「ちゃうわ、そないなもんやない。もっとお堅い話や」


「そうですか……美男美女でお似合いだと思いますけどね」


「……というか、お前、一応あいつに仕えとるんやろ? 女神に恋人なんてありうると思っとるんか?」


マチカは「あいつ」という呼び方に一瞬目を丸くした後、普段どおりの礼儀正しい口調で答えた。


「いや、勿論全然そんなイメージはありませんでしたよ。女神様はお優しいですが、そういったことには関心を持たれない方でしたから。でも、だからこそ皆気になっているんじゃないかと思いますよ」


俺が「ふぅん」と言いながら近くの柱に視線を向けると、「きゃー」と言いながら二人のメイドが立ち去っていった。どうやら俺は、好奇の目で見られているようだった。


「ヒトはどうしても自分達の価値観を他人にも当てはめてしまいがちですからね。女神様はお美しい方ですから、女性なんかは『あんなにかわいいのになんで恋しないの?』と思うことも多いらしいですよ」


「男やったら、あいつに恋する奴も多いんやろな」


「そうかもしれませんね。頭では理解していても、崇拝と恋情を混同するものもいるでしょう」


「せやったら、俺はそういう奴らには妬まれるやろか」


「かもしれません。ですが、ご安心ください。客人への無礼な言動は私共が許しません。オズ殿は安心しておくつろぎください」


マチカは背筋をピンと伸ばして力強く語った。真面目な奴だと思った。

案内された部屋は、まるで王様の部屋かと思うほどに豪華絢爛だった。一人部屋なのにベッドは三人寝れそうな程に大きく、家具一つ一つに金の装飾が部分的に施されていた。両親が生きていた頃は俺も多少余裕のある暮らしをしていたが、実家と比べても豊かさの度合いが全く違う。なるほど、経済的に発展しているという話は本当のようだった。

俺が部屋の中を一通り見て回った後、マチカは言った。


「では、どうぞゆっくりなさってください。何かわからないことがございましたら、何なりとお申し付けください」


「せやったら、ちょいと買い物に行きたいんやけど」


「かしこまいりました。確かに、基本的な生活用品はこちらで用意できますが、個人個人のこだわりというものもありますからね。で、何を購入されるのですか?」


俺は眉間に皺を寄せ、ブルドッグのような顔をしながら低い声で呟いた。


「チェス盤」


「……はい?」


「チェス盤や、チェス盤。どっかに売ってへん?」


「それはもちろんございますが、その表情……チェスに親でも殺されたのかって感じの顔をなさってましたので……」


俺はつい先程の敗北を思い出して、頬を膨らませた。そのまま眉間を梅干しのように皺だらけにして呟いた。


「あのクソ女……次は負けへんからな」





マチカの案内でチェス盤を購入し、早速部屋に戻って数時間が経った頃、リディが俺の部屋を訪れた。リディは俺の様子をじっと見つめてこう言い放った。


「オズ。私、前言撤回しようと思うわ。あなた、女たらしじゃなくて、人たらしなのね」


俺の部屋には兵士、メイド、コックに門番……様々な人々が押し寄せ、チェス大会が開催されていた。彼らはチェス盤を挟んで俺の向かい側に綺麗に列を作って並んでおり、自分の出番を今か今かと待っていた。

俺はリディの声には耳も貸さずに、チェス盤と睨み合う。そして、黒のルークの駒を白のクイーンの左直線上につけた。


「っしゃあ、俺の勝ちや!」


「ええと、ここでポーンを取らないとキングが取られるけど、取らなくてもクイーンが取られて、そうするとキングにも王手……いやぁ参った、お強いですね!」


向かい側に座るコックが負けを認めると、後ろに並ぶ人々がまたどよめいた。コックが席を立つと、一つ後ろに立っていた門番兵が目を輝かせながら席に座った。

リディは傍で呆然とその様子を見ていたマチカに経緯を訪ねた。


「いやあ、チェス盤を買ってきた後、オズ殿が練習として一回相手をしてほしいといいまして。けれど私では全く歯が立たなくて負けてしまいました。そしたら、オズ殿は『もっと強い相手はいないか』と。なので知り合いの兵士を読んできたら、それでも駄目で、『もっと強い相手は』と。なので今度はその兵士の知り合いを連れてきて……というのを繰り返したら、こうなってしましました」


「そう、報告ありがとう。全く、勝手にこんなことして、みんなそれぞれ仕事があるのだけど……」


リディが僅かに眉間に皺を寄せると、マチカは笑いながら言った。


「女神様のそんな顔は初めて見ました。本当に、女神様の恋人ではないのですか」


「恋? 神はそのような感情を持つことを許されてはいないわ。オズは仕事の依頼の為に来てもらったのよ」


「はは、そういうことにしておきます」


俺が意気揚々と次の一戦を始めたところで、リディは無表情のまま俺の耳を引っ張った。


「オズ。少し話があるのだけどいいかしら」


「いたっ、なんや、今ええとこやのに……」


「どうしてこんなことを? チェスは遊び。彼等の仕事を中断させてまで行うことではないはずよ」


「どうしてって、練習や練習!」


リディは「練習」の二文字に首を傾げた。


「またそないなキョトンとした顔して、腹立つな。俺はあんな敗北認めへんで。次は絶対ボコボコにしたるから首洗って待っとけや」


キングとクイーンの駒を持ってあかんべえをする俺を見て、リディはますますキョトンとした。


「そ、そんなに悔しかったの……。というか、そこで地道に練習するのね。意外……」


俺がまたチェスに戻ろうとすると、リディは俺の肩を掴んでゆっさゆっさ揺らした。


「こ、こら、そうじゃなくて。あなたに用があって来たの。チェスは後でもできるでしょ」


その場に居た人々は、その様子を見てきゃあきゃあ楽しそうに噂話をしていた。やはり、みんな俺がリディに呼ばれた理由を何か誤解しているようだった。

俺が不貞腐れて口を尖らせると、リディは俺の首の後ろを掴んで、部屋から引きずり出そうとした。この世のものとは思えない腕力で俺は天井から床へと叩きつけられ、ボロ雑巾のようにリディに引きずられていった。俺は床に叩きつけられた背中を抑えながらリディに怒鳴った。


「おっ……まえ、本性出しおったな、この怪力! 痛いやないか!」


「迅速な回収を第一目標として行動しただけよ。手段を変えてほしければ、次からはすぐに話を聞いて行動してね」


リディらしからぬ棘のある言葉と強引な行動に、思わず俺の口元がにやりと釣り上がった。


「もしかして、ちょいと怒っとる? ははぁ、気ぃつけや、女神様。俺はふてくされた別嬪さんからかうの大好きやから」


そう言うと、俺はリディの手を振り払って立ち上がり、リディの隣を歩き出した。リディは無機質な仏頂面をしていたが、よく見ると普段よりも不自然に速く歩いていた。俺はますますニヤニヤと笑う。俺はリディの肩を軽く叩いてみた。リディが振り返った時──


「なぁに? 足を止めないで。今、急いで……」


俺の指がリディの頬をぷにぷに突いた。とうとうリディの口元がへの字に曲がった。俺は笑いを堪えるのに必死だった。


「なんや、お前もええ表情できるやないか」


「なにがいい表情なのかしら。こっちは予定を狂わされていい迷惑だわ。これ以上邪魔をするなら、あなたの求める報酬、あげないわよ」


「おお、怖い怖い。ほな、からかうのはこのくらいにしとくわ。んで、用ってのは何なん?」


ようやくこちらが真面目に話を聞く姿勢になったので、リディも無感情な「神」の顔へと戻った。


「これから私達の打ち合わせがあるの。あなたにも話を聞いていてもらいたいのよ。あなたも、今の戦況を知りたいでしょ?」


「はいはい。『私達』っちゅうのは、お前が率いとる軍のことか?」


「そうよ。ほら、もうすぐ会議室に着くわ」


リディが指した先には巨大な象牙の扉があった。扉の両脇には二階への階段がある。城の中心部から少し離れた場所にあるこの部屋は、先程の中央棟よりも重々しい雰囲気があった。


「あと三分で始まるから、二階席に座ってね」


「はいはい」


そう言って、扉の前で俺はリディと別れ、脇の階段を昇っていった。二階席への扉はすぐに見つかった。この扉の先で打ち合わせが行われるらしいが、詳しい内容は聞かされていない。リディが「戦況」という言葉を出したことを考えると、メディとの戦争のことなのだろうが──神が人と一体何を打ち合わせるのだろうか。

多分、一番最初に出会った神がメディだったのが悪かったのだろう。俺は、神とはメディのような存在だと思いこんでいた。なので、神は人を見下し、足蹴にするものだと思っていたし、ましてや人に意見を求めるなどあり得ないと思っていた。

さてどんな口八丁で人を洗脳するのやら──そう考えていた時、背後から声がした。


「よくのこのことこの場所に来れたものだな」


振り返ると、最初にリディと出会った時に傍にいた黒髪の少女と少年──セイラとイオがいた。


「リディにあのようなことを言っておきながらこの場所までやってくるとは、余程面の皮が厚いようだな」


セイラは俺を鬼のような形相で睨みつけた。そういえば最初に出会った時から、この二人は俺に冷たくあたっていた。子供の外見に似合わない異様な雰囲気と強い魔力から、普通のヒトではないことはすぐに推測できたが、この二人の正体を知るのは遠い未来の話になる。

セイラは両腕に蒼の魔力を纏わせながら、低い声で俺に言った。


「忠告しておこう。あまりリディに余計なことを吹き込むな。さもなくば、私達がお前を葬り去ってやる」


「吹き込む? なんや誤解があるようやな。手札となる情報は俺よりお前らの方が多い。なんやようわからへんけど、お前らは俺のことをよう調べてきたらしいしな? おかげでこちら側の手札は殆ど見抜かれとるねん。せやから、俺からあの女に嘘八百吹き込んで操ることなんてできへん。むしろ俺があの女に事実かどうか調べようのないことをあれこれ吹き込まれとる方やと思うけど」


「そういう話ではない。もっと、感情的な部分のことだ」


その一言で俺は眉をひそめた。人というよりは神に近い雰囲気を持つこの少女が「感情」を話題に上げたことに違和感を覚えた。


「リディはお前と出会い、話をする度に何かおかしくなっていく。ヒトみたいなことを言い、ヒトの女みたいに外見にも気を遣うようになった。お前のせいだろう」


「はぁ? 知るか、あいつが勝手に変わってっただけや。吹き込むって感情のことか? 神に感情なんて吹き込んだら禄なもんにならへんやろ。なんでそないなことせなあかんねん」


「よく口が回るな、詐欺師。お前はそういった無意識と偶然の産物すら、自分の道具として利用すると記されていたが?」


俺は苛立ちの表情を浮かべたまま、心の中でほくそ笑んだ。なるほど、よく調べている──俺は感嘆の言葉を口に出さずに飲み込んだ。


「お前がリディを惑わせるならば、私達の手で排除するまでだ。最古の魔術師にいいように騙され、狂わされた──メディのような欠陥は二度と生み出しはしない」


「はぁ、あのクソ所長、そないなふうに思われとったんか。あいつずっとモフモフ撫でてただけやで。まあ……メディが狂わされたってのは間違ってへんかもな」


リディを待たせていることもあって、俺はそのあたりで会話を切り上げて部屋に入ろうとした。だが、一瞬の殺気を感じ取って足を止める。首筋と足の健、二箇所に蒼く輝く短剣が当てられていた。


「キャハハハ! 何を企んでいるか知らないけど、神を誑かそうなんてこと考えたら、すり潰しちゃうから覚悟しててね!」


「そのとおりだ。お前は黙ってこちら側が敷いたレールに沿って動いていればいい。そうすれば、リディも悪いようにはしないはずだ。お前の望む『復讐』への道筋は自然とできるだろう」


俺はへらへらと嗤いながら、心の内で怒り狂っていた。気に食わない。願望を掬い上げさえすれば、ヒトなど容易く掌の上で踊らせられると思っている安易な考えが気に食わない。神どもめ、ヒトをなんだと思ってやがる。


「はぁ、おもろい。リディはメディと似てへんけど、お前らはメディとよう似とるようやな」


「腹の立つことを言ってくれるな、詐欺師」


「一つ言うとくけど、俺が関わる前からリディは確かな感情を持っとったし、俺が関わらなくてもいずれその感情は膨れ上がる。『感情』を欠陥やと言うんやったら、お前らの神はどっちも最初から欠陥品や」


そう言って、俺はイオとセイラの腹を腕で突き飛ばそうとした。その攻撃は結果的に避けられたが、その隙に蒼の刃も俺から離れたため、その隙に俺は部屋の中へと駆け込んだ。



「あの男……」


獲物が過ぎ去った後の扉を睨みつけ、セイラは歯ぎしりをする。


「セイラ。あいつはそんなに危険?」


イオの問いにセイラは深く頷く。


「危険だ。あいつはそれだけの過去を持っている。多くのヒトを騙し、欺き、死へと追いやった極悪人だ」


「うん。ボクも同意見だ。あいつの未来はリディにとっては毒だ。でも、セイラがそんなに心配する必要は無いよ」


イオは無邪気な笑顔を浮かべながら、セイラに囁いた。


「リディがあいつを使ってメディを打ち倒す気なら、終わった後のお片付けまで、きちんとやればいいだけの話だもん」



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