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ある魔女のための鎮魂歌【第2部】  作者: ワルツ
第14章:ある罪人の為の序曲
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第14章:第10話

帰り道は行きよりも危険な道程となった。陽が落ちてくると視界が薄暗くなるだけではなく、夜行性の魔物等の気配も強くなる。水平線に向けて沈んでいく太陽を見つめながらオズが呟いた。


「やっぱり、できる限り陽が沈みきる前には着きたいよな」


帰りの山道で休憩をしている最中のことだった。マオが後ろからオズの背中に抱きついた。


「えへへ、おにーさま。皆ばかりずるいのです。ボクもかまってほしいのです」


「マオとは家に着いてからでも遊べるだろ。山道は危険だから、ちゃんと皆のことを見てやらなきゃ」


「むぅうー。そんなこと言ってると、おにーさまはお祭りに入れてあげないのですよ!」


その言葉を聞いて、オズは首を傾げた。そういえば、大人達がその話を口にしていたっけ。


「祭り……ああ、今日準備してるってやつ? この時期に祭りなんてあったっけ。収穫祭とかか?」


「おにーさま、自分で忘れちゃったのですか?」


「自分で?」


「収穫祭もありますけど、おにーさまのお誕生日、明日なのですよ」


オズは数秒黙り込んだ後、頬を掻きながら


「……忘れてた」


と呟いた。


「おにーさまってば忘れんぼうさんなのです! お誕生日おめでとーなのです!」


「いや、だって色々あったし……というか、俺一人の為に村総出で祝うなんて大袈裟だろう」


「今年は収穫祭が偶々この時期になりましたので、おにーさまのことも皆で一緒におめでとーすることになったのです。おめでとーです!」


そう言われた時のオズの様子はキラから見るとおかしくて思わず笑いそうになってしまった。照れくさそうに視線を逸し、しばらく黙り込んだ末に、


「まあ、ありがと」


とだけ呟いた。オズにもこのような微笑ましい少年時代があったのか。現在のオズがこの記録のノートを渡すことを渋った気持ちが少しだけ理解できた。確かにこれは少し見られると恥ずかしいかもしれない。

暖かい家族に囲まれ、住んでいる土地の人々にも慕われ……オズは本当に恵まれた少年時代を過ごしてきたようだった。

マオが照れているオズの腕を引っ張り、故郷の村へと歩き出す。


「だからおにーさま、早く帰るのです! 急ぐのですー!」


「ったく、仕方がない奴だな」


沢山の子供達に囲まれてオズは山を下り始めた。陽が沈むというのに、灯り一つついていない村へと向けて。






村に着いた頃には太陽は沈み、僅かに残った空の茜色も濃紺に塗りつぶされようとしていた。

オズは村へと戻ると子供達全員の無事を確認してから、全員に告げる。


「お前ら、今日は楽しかったか?」


「楽しかったー! ライオンがいたー!」


「魔法使いキモくて面白かったー! 兄ちゃん、明日も行こうー」


山一つ往復したというのに平然とそのようなことを言い出すあたり、子供の体力は恐ろしい。オズは少し笑って答えた。


「残念だけど、サーカスは暫くお休みだ。またチケットが手に入ったら行こうな」


そう言って、オズはその子供の頭を撫でた。それから全員に言い聞かせる。


「じゃあ、皆寄り道せずに真っ直ぐ帰るんだぞ」


「わかったー」


「兄ちゃんばいばいー」


子供達はそれぞれの自宅へと歩き始め、村の入り口にはオズとマオだけが残された。ようやく兄を一人占めできるようになった途端に、マオはオズの腕を掴んで引っ張った。


「おにーさまおにーさま、ボクたちも帰るのです!」


「はいはい、わかってるよ。それにしても……やけに静かだな。暗いっていうか……」


村の中は閑散としていた。もう陽が沈むというのに民家に灯りが点いていない。祭りの準備ならばせせこましく人が行き来していそうなものだが、通りには足音一つ聞こえなかった。


「何かあったのかな……」


水の入ったバケツが井戸の傍に放置されている様子を見てオズが呟いた。すると、マオが自宅の傍の木を指した。


「おにーさま、あの方、誰でしょーか?」


そこには白い外套を身に纒った赤味がかった白髪の人物が居た。顔だけ見ると女と間違えそうな程の綺麗な顔立ちだったが、身長や体格は男のようだった。顔の半分を仮面で覆い隠しており、無機質な瞳で木の根を観察していた。


「こんにちはですー、どちらさまですか?」


男は全く反応しなかった。マオがもう一度挨拶したが無視された。よく見ると、男の手元にはリスのような魔物が居た。男の手には餌が乗っており、どうやら魔物を飼い慣らそうとしているようだった。

数十秒の沈黙の末、魔物はようやく掌に乗った。


「ふむ、珍しい種類だ。この地域特有の種だろうか。良いモフモフ具合だな」


「こーんーにーちーはーでーすぅー!!」


マオが叫んだ途端、リス型の魔物は驚いて逃げ出してしまった。男は「あっ」と声をあげたが既に魔物は姿を消してしまった後だった。男は暫く悲しそうに魔物が過ぎ去った方向をみつめていたが、その後ようやくマオ達と目を合わせてくれた。


「頭部の体毛のみが発達している二足歩行種族……そうか、この土地の生物か」


「はいなのです! 村の外から来た方なのですか?」


「村……そうだな、この土地に形成されている共同体の外部から来たことは間違いない」


外部から来た、という言葉にオズが耳聡く反応し、マオを遠ざけた。男はオズとマオの顔を順に見つめ、こう尋ねた。


「お前達は、吸血鬼か?」


「違います」


オズは即答した。嘘だ。しかし、オズの様子から察するに、この時代の吸血鬼に対する差別は嘘をつかねばならないほどに厳しいものだったのだろう。


「そうか、なら用は無い」


そう言って、男はそのまま立ち去ってしまった。


「不思議な方でしたね」


「マオ……あいつとは関わらない方がいい。早く家に戻ろう」


そう言って、オズはマオの手を引き、足早に家へと向かった……真に危険な場所は自宅の方だと気づかずに。

家に灯りはついていなかった。それどころか、鍵もかかっていなかった。玄関の扉を開いたまま、足を踏み出さずにオズはじっと黙り込む。


「マオ、ちょっとここで待ってろ。様子を見てくる」


「ほぇ? お家でどうして様子を見て来なきゃいけないのです?」


「……いいから。静かに待ってろ」


オズは一人で居間へと向かった。気配を殺して、足音を立てぬように進む。カラスの声がした。風の音がした。しかし、家に居るはずの両親の声がしない。その時、ガシャン、と金属の音がした。オズが足を止める。扉の影に身を隠して居間を覗き込むと──腹部が破裂して死亡し、床に転がっている両親が見えた。その周りを銃を持った黒い外套の兵士達が取り囲んでいた。

即座にオズは引き返し、玄関で待っていたマオの手を引いて駆け出した。


「お、おにーさま!? おうち、入らないのですかぁ?」


「いいから、ついてこい。逃げるぞ」


その時、玄関からあの黒い外套の兵士達がぞろぞろと現れた。見つかった。彼等は銃を構え、オズ達へと狙いを定める。オズはマオと共に咄嗟に家の塀の影に身を隠した。銃声が数十秒間鳴り響いた。そして銃声が鳴り止むと、オズはパチンと指を鳴らした。兵士達の足元の地面が爆発し、炎が彼等を呑み込む。

その隙に、オズとマオは逃げ出した。


「ふぇ……おにーさま、あれは誰ですか、何なんですかぁ」


「俺もわからない、けど、今はとにかく逃げるんだ!」


「おとーさまとおかーさまは……」


オズは俯いたまま唇を噛んだ。その言葉に即座に答えることはできなかった。マオの手を強く握りながら、オズは平然を装った。


「二人は……きっと、後から来るよ。すぐ追いついてくる。だから、マオはちゃんと俺についてきてくれ」


「……はい、おにーさま」


「絶対、守ってやる」


それから、オズとマオはサーカスに共に行った子供達の家を訪れた。親達がやられた現在、気がかりなのは子供のことだった……が、結果は散々だった。どの家も、鍵は開いたままか壊されていた。中に入ると子供達の親が無惨に殺されていた。銃殺された者が殆どだったが、時折奇妙な死に方をしている遺体があった。身体の一部が破裂しており、手足は老婆のように干乾びている。

生存者探しは殆どオズが行い、マオは扉の影で蹲っていた。


「おにーさま……ボク、怖いのです。早く逃げましょうよぅ……」


「そう、だな……でも、もう少しだけ待ってくれ。お前も、友達が心配だろ? 無事な奴が一人でも居たら、助けてやらなきゃ」


マオは生存者を求めて駆け回るオズの背を涙目でみつめていた。


「おにーさまは、皆が大事なのですね」


「そうだな……今の俺があるのは皆のおかげだから、だから……助ける。当たり前だろ。たとえもう手遅れでも、どうか、一人でも……」


しかし、通りは黒い外套の兵士達に制圧されていた。兵士達は玄関で待ち構えていれば子供はまんまと罠にかかると学んでいたのだろう。オズ達とサーカスに行った子供達の半数はそれぞれの自宅の玄関で射殺されていた。その遺体を見つける度に、オズは唇を噛み、腕は震え、澄んだエメラルド色の瞳は負の感情に侵されていった。

それでもオズは生存者の捜索を止めなかった。一人でも多くの人を救おうと、兵士達を撒き、住宅地を駆け回った。だが、住宅地を一周しかかったあたりで、オズはあることに気づく。


「子供の遺体が、足りないような……」


訪問した家の大人はほぼ殺し尽くされていた。だが、子供の遺体はある家と無い家があった。サーカスに共に行った子供達の中にはまだ遺体が見つかっていない者も居た。


「まだ生きてる奴も居るかもしれない……あの兵士達、何かしたのか……? だとしたら……」


その先の言葉を吐き出す直前、マオがオズの腕を引いて駆け出した。住宅地から離れて村の入り口へと強引に連れて行く。


「おい、マオ! まだ皆が……もしかしたら、あいつらに捕まってるかもしれないし……」


「いやです、嫌なのです! ボクは怖いから逃げるのです!」


「でも、俺は……」


「おにーさままで死んじゃうのは、ボクはぜったいぜったい嫌なのです! 皆の為におにーさまが死ぬくらいなら……二人だけでも、逃げるほうがいいのです!」


オズは最初はマオを引き止めようとした。だが途中で冷静になって黙り込み、最終的にむしろオズが率先してマオの手を引いて走った。村は黒い兵士達に占拠されてしまった。何の力も無い少年と少女ではあの悪魔達に太刀打ち出来ない。だからまずはオズとマオ、二人が助かる道を捜す。少なくとも、マオだけでも安全な場所へと逃がす。それは決して間違った選択ではなかっただろう──相手が、悪魔達だけだったならば。

屍が転がる通りを抜け、村の入り口が見えた時だ。家の前で出会った白い外套の青年の後ろ姿が見えた。オズは苦い表情で木陰に身を隠した。


「お、おにーさま?」


「静かに。あいつ、絶対怪しい。あの黒い奴らと関係があるかもしれない」


「早く逃げるのですよぉ……」


「わかってる。でも逃げるにしても、あいつに見つからないように行かなきゃ……」


そのときに「神」は舞い降りた。ブラックオパールの翼が視界を通り過ぎた……その瞬間、オズの身体は地面に叩きつけられ、腹を蹴られて跳ね飛ばされ、胸を踏まれて身動きが取れなくなった。何が起こったのかわからない──そんな表情で少年オズは「神」を見上げた。薄桃の長い髪が揺れ、ルビーや真珠のような宝石で彩られた片翼がオズの逃げ場を奪う。真紅の瞳が脆弱な鼠を嘲笑っていた。


「メディ」


先程の白髪の青年が「神」である少女をそう呼んだ。


「何をしている」


「あら、あなたのご所望の吸血鬼の子供を捕まえてやったんじゃない。この破壊の神がわざわざ出向いてやったのだから感謝なさい」


白髪の青年は無機質な瞳をオズに向けた。オズはメディの足を払い除けて、白髪の青年に問いかけた。


「お前が、主犯格か。お前は、誰だ」


青年は感情の欠片も無いような目をしたまま答える。


「私は、私だ」


「答えになってない。名前を言え」


「名……やはり、ヒトとは個体の識別を求めるようだな。名など忘れた、と言っても聞かないのだろう。と、すれば……ここはやはり、君に貰った名前を名乗るべきだろうか」


青年がメディに視線を向けると、メディは少し満足げにほくそ笑んだ。


「私は、アディリシオだ。長いのでアディと呼んでくれていい。吸血鬼、これで質問の回答として適切か」


「どうしてこんなことをした……何の恨みがあってこんな惨い真似をした!」


「恨み? そんなものは無い。ただ、吸血鬼の子供が必要だった。だから捜しに来た。そうしたら、こうなった。それだけだ」


「そんな……そんな身勝手な理由で、こんな死体の山を作ったのか!?」


オズは傷だらけの身体を引きずり、喰らいつくように怒鳴った。だが、アディには全く響かなかった。彼は辺りが静まり返る程に長く黙り込んだ後、きょとんとした顔で返した。


「死体……? そんなもの、存在したか?」


その一言を聞いた瞬間、オズの表情は怒りと憎悪で染まっていった。オズはありったけの魔力で刃を作り、アディに向けて投げつけた……が、ただの吸血鬼としてのオズの全力は容易く弾かれた。アディがそっとオズの方へ手を翳すと、蒼の水晶がアディの盾となるように現れ、刃を全て弾いた。片仮面の下で、何かが淡く光っているようだった。その時、メディの黒い翼がオズを横から殴り倒した。メディが倒れたオズを自分の下に敷き、顔を引き寄せた。


「私を無視するなんて、これまでよりも随分元気の良い吸血鬼のようね。でも勿体無いわぁ。こいつにもあの薬、使うんでしょ? 顔が綺麗だから、もうちょっと遊びたかったのに」


「離せよ、邪魔だ」


「煩いわね。黙りなさい、羽虫」


何らかの魔法を使われたのだろう。メディがオズの額を小突くと、全身が鉛のように重くなり、身体が動かなくなった。メディが後方に合図を送ると、あの黒い外套の兵士達がオズを取り囲んだ。そのままオズのことを兵士達に任せ、メディはアディに話しかけた。


「これでこの村は全て片付いたわ。吸血鬼以外は全て殺して、吸血鬼には例の薬を打ったわよ。でも全部失敗。皆勝手に死んじゃったわ」


「そうか……残念だ。吸血鬼の集落だと聞いたから、期待したのだが」


「あなたの薬が悪いんじゃないのぉ? 所詮ヒトはヒト。神の力を得るなんて不可能なんじゃなァい? まあ、万一成功すればリディに対抗する戦力にはなりそうだから一応手は貸してあげますけど」


「協力には感謝する。しかし、あの薬は成功例も出している。確率は低いが方向性は間違えていないはずだ」


「……ふん、本当につまらない男だわ。もういい、さっさと引き上げましょ」


そう言って、メディは兵士達に撤退の合図を送った。どうやら、騒動の発端はアディだが、兵を率いているのはメディのようだ。黒い化物達が引き上げの準備をし始める様子を、オズは地に倒れたまま見つめていた。身体は岩のように動かなかったが、瞳にはこれまで存在しなかった感情が芽生え始めていた。兵士達は「ゴミ」を井戸に投げ捨てた。身体の一部が破裂し、干乾びた死体──サーカスにオズと共に行った子供達の亡骸だった。オズは地面に爪を立て、歯を食いしばった。


「ああそうだ、アディ。私、もう飽きちゃったから余り物はあなたが片付けなさいよ」


メディがそう言うと、アディはオズの目の前に立ちはだかり、じっとこちらを見下ろした。


「……お前、一体何がしたいんだ」


メディと比べるとアディの方が露悪的な言動は少なかった為か、オズの声色にはまだ若干の戸惑いがあった。

しかし、アディの背後にあるものを見た瞬間、オズの戸惑いは完全に消え去った。マオが黒い外套の兵士に捕らえられていた。べそをかきながら必死に逃げようとしていたが、兵士達は心の無いブリキ人形のように冷徹にマオを取り押さえた。そして、兵士の一人がある薬を取り出した。オズの顔が青ざめた。


「おにー……さまぁ」


か細い声が消えていった。そして、兵士達は薬をマオの口の中に強引に押し込んだ。同時に、オズは自分にかけられていた魔法を振り切って駆け出した。

発泡音が三発鳴った。一つ目は脚、二つ目は肩、三発目は腹に当たり、オズは血を流して再び倒れ込んだ。動かない身体を引きずりながら顔を上げると、右腕と腹部と左脚が肥大化し、血を吐きながら藻掻くマオが居た。顔はミイラのように干乾びていき、肥大化した箇所は皮膚が破裂し、それ以外の箇所は骨と皮だけになって動かなくなる。

マオだったものが完全に息絶えると、兵士達はまるで生ゴミのようにマオを投げ捨てた。


「お前は、この行いに何も思わないのか?」


オズは状況に不釣り合いな程静かにアディに問いかけた。アディは言った。


「知らん、興味無い」


その瞬間、それまでのオズは、勇敢で、無垢で、心優しい少年のオズは死んだ。

黒い外套の兵士達はオズを取り囲み、マオにしたことと同じ事をした。オズの世界が暗闇に飲まれ、意識を失う瞬間まで、オズはうわごとのように呟いていた。

──赦さない、と。




『自分も、世界も、何もかもを恨んだ』


『俺がもっと強ければよかったのに。そうしたら、マオも、皆も、守れたのに』


『皆で、仲良く、幸せになってほしかった』


『たった、それだけだったのに』





その一連の流れを、キラは少し離れた場所で呆然としながら見つめていた。その悲劇が殺したものはオズの心だけではなかった。

オズの過去は薄気味悪い程にキラの過去と共鳴した。山奥の村はキラが住むロアル村と重なった。オズを取り巻く優しい人々はキラを取り巻く人々と重なった。この悲劇の記録は十年前に両親が死んだ時の記憶と重なった。紅の記録書から流れ続けるオズの心情はキラの後悔と重なった。

この幼いオズは、何から何まで、キラとよく似ている。しかしその共鳴をキラは受け入れられなかった。だって、あのオズが「そんなこと思ってる」だなんて想像もつかなかったんだもの。

オズはいつでも身勝手で傲慢で他人を振り回してばかりなのに、何故か多くの人を惹き付ける力があって……そして強かった。そんなオズでさえ、オズの域に達しても、この呪いのような心理と向き合わなければならないだなんて思わなかった。


これは、ただ「オズの過去」で片付けられる他人の物語ではなかった。


これはキラと同じように優しい人々に囲まれた少年が、

キラと同じように、その一瞬で人生が変わる程の悲劇を見て、

キラと同じように、悲しい過去を二度と繰り返さない力を望み、

キラと同じように、皆仲良く幸せに過ごす夢を見て、

キラの望みどおり、神にも世界にも負けない最強の力を手に入れた……


そこまでたどり着いても、何一つ変えられなかった。


これは、そのような願いの成れの果ての物語だ。



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