第13章:第13話
ロイドに逃げられたブラックは仕方なくホワイトに連れられて校内の案内をしてもらった。ホワイトはロイドよりも気が利く上に、ロイドと話している時に感じる感覚のズレも無い為、案内役としてはこちらの方が適任だったかもしれない。
だがブラックの持病「人見知り」は相変わらず治まりそうにない。心臓の音こそ聞こえないものの、胸も腹も今にもはち切れそうなくらいにキリキリと痛む。死人も胸が痛くなるという気づきたくもないことを発見した頃、二人は寮に辿り着いた。
「あっちが食堂、お手洗いはこっちね。それで、シーツや枕はここにしまってあるの。それで……」
ホワイトは寮の設備一つ一つを説明していたが、ブラックは話が全く頭に入っていなかった。先程から冷たい相槌程度しか打てておらず、ホワイトとまともに話すこともできていない。
ロイドとは初対面でも話せていたのに、どうして普通の同年代の少女とうまく話せないのだろう。そう自己嫌悪しかけた時、「自分は普通の同年代の少女」が苦手なのだと気づいた。ロイドと話せたのは、あの時ブラックはロイドを自分より年下の子供と思い込んでいたからだ。年下ならば「少し強気に出てもよい」という自信を持つことができる。仕事で上司と話すことができていたのは上司は自分より遥かに年上だからだ。年上との会話にはある程度のマニュアルがある。対等でマニュアルが通じない上に、「天才と呼ばれ、常に年上を相手にしてきたせいであまり接する機会が無かった」同年代とはどう話せばよいかわからない。
だというのに、この学校という場所には同年代という生物がうじゃうじゃ居る。
もしかして、今この世で一番自分に向かない仕事を受けているのではないだろうか? そのような憂鬱に思わず首が下を向いた時、ホワイトが唐突に尋ねてきた。
「ところで、ショコラさん……は種族は何なの?」
「種族? 一応、天使族だけど」
「へえー、珍しいわね! この村はウィゼート領だから魔女や魔法使いの子が多いのよ」
「ふうん……じゃあ、あんたも魔女?」
「ううん、私は悪魔族らしいわ」
「らしい」という言葉にブラックは首を傾げた。すると、ホワイトは少し慌てて答えた。
「ら、らしいっていうか、悪魔なんだけどね。ちゃんと黒い翼もあるし。そういえば、天使族ってことはエンディルス出身なの?」
「え? あー、うん、まあ……そうだよ」
自分の出自についてどこまで明かしてよいのか一瞬迷ったが、今のところ出身地等について口止めはされていないので素直にそう答えた。
「へえ、私はデーヴィアのヴィオレって街から来たの!」
「ヴィオレ? ああ、知ってるよ。時計台がある港町でしょ。父様に連れられてちょっとだけ行ったことある。」
「父様」という言葉を聞いた途端、ホワイトは足を止め、頭を押さえた。釣られてブラックも足を止める。様子がおかしい。顔色が悪く、うわ言のように何かを呟いていた。
「お……父様……? ……わたしは……」
そう呟いた瞬間、ホワイトの足元がぐらりとふらつき、気を失って倒れそうになった。ブラックはすぐにホワイトを両手で受け止めた。
間近で見るとショコラ・ホワイトは正に雪のように美しい少女だった。髪は滑らかで、肌は陶器のようだ。緊急だったので思わず受け止めてしまったが、ブラックは自分がこのような美少女に触れてしまったことが急に畏れ多く感じてしまった。
「な、何……?」
ホワイトはすぐにブラックの腕の中で目を覚ました。特に怪我は無く、意識もはっきりしている。ホワイトはブラックの顔を見つめて恥ずかしそうに頬を染めると慌てて飛び起きた。
「わああ、驚かせてごめんなさい!」
「いや、別にいいんだけど。調子悪いの?」
「そうじゃないの。大丈夫よ」
ホワイトはそう微笑んでいたが、今の一瞬で瞳に熱が篭ったような微妙な変化が生まれたような気がした。
「ねえ、ショコラさんは……どうしてこの村に来たの?」
ホワイトに尋ねられて、ブラックはギョッとした。これについて正直に答えるとリディ達の話をしなければならなくなる。しどろもどろになるブラックを見ると、ホワイトは急に自分の話を始めた。
「私はね、この村に捜し物があって来たの。ある時、神様の啓示のように、この村に行かなきゃいけないって予感がしたの。きっと、運命なんだと思ったわ」
「運命……あんた、そういうの信じる方なんだ」
「うん。だって、その方が素敵かなって」
運命というものをブラックはあまり信じていない。そのようなものは努力で切り拓いていくものだと思っていた。だが、ホワイトの横顔を見つめながらブラックは思う。「この考え方はもしかして可愛げが無いのかな?」と。運命に夢見るような女の子の方が可愛らしいだろうか。
肩が突っ張り気味の自分の制服の生地を触りながらブラックは少し俯いた。
「あら、どうしたの?」
ホワイトは心配そうに顔を覗き込む。
「なんでもない。ただ、こう……女の子らしいっていいな……って。それだけ」
「そう? 運命と女の子らしさは関係無いと思うけど」
それから、ホワイトはブラックを頭からつま先までまじまじと見つめる。
「でも、ちょっと意外。自分のことをあまり女の子らしくないと思っていたの?」
「う、うるさいなあ。まあ……ちょっとね。髪短いし、ガサツだし……」
「そうかしら。こんなに可愛い服を選んで着ているんだもの。とても女の子らしい人だと思ってたわ」
服のことを指摘されたブラックは肩を竦める。確かに可愛い服への憧れはあるが、自分がその服に見合っていない。服と自分がちぐはぐでうまく馴染まない。そのような姿を鏡で見ると恥ずかしくなってしまうのだった。
ブラックの様子を見たホワイトは、少し離れてブラックの全身のコーディネートについて語り始めた。
「そうね……全部の色味が明るすぎるのかしら。ベルトとか、ちょっと暗い色でアクセントを入れてみるともう少し馴染むのかもしれないわ」
「馬鹿だな……そんな無理しなくていいよ」
「無理じゃないわ。多分、あなたの個性となりたい自分を上手く繋げられていないだけよ。きっと、あなた結構大人っぽい雰囲気の人なんだわ。だから、可愛い服の中にも全体を締めるような色のアイテムを取り入れたら、きっともっとこの服を素敵に着こなせるんじゃないかしら?」
お洒落にも疎いブラックには全く無い視点の言葉だった。要はコーディネートのアドバイスだが、言葉に刺々しさは全く無い。むしろブラックの理想に近づけるよう共に悩み、改善策を考えてくれている。言葉一つ、表情一つ見ても真摯な想いが伝わってきた。
「折角綺麗な赤い髪をしているんだもの。この色を活かせるような服があればもっと素敵かもしれない。そうだ、今度一緒にお洋服買いに行かない? 折角だから色んなお店を見てみましょ?」
そう言った時、ホワイトは百合の花のように無邪気に笑っていた。ブラックには決して真似できない崇高で尊い微笑みだったが、同時にどこにでも居る普通の少女の言葉でもあった。その時にブラックは納得した。確かにこの笑顔は「守りたい」と願い、その為に全てを賭ける価値のあるものだと。あの日、リディに頭を下げてまでブラックにこの少女を守るよう頼んだロイドの気持ちが少しだけわかったような気がした。
そして、気づいた時には「うん」と頷いていた。
「ま、別に……ホワイトさん…がそう言うなら構わないけどね。」
すると、ホワイトは少し照れくさそうに言う。
「ショコラって呼んで」
「え?」
「私、あなたとお友達になりたいもの。苗字で呼ぶのはなんだか水臭いわ。私も、あなたをショコラって呼びたいわ」
ブラックは視線をキョロキョロと泳がせながら答えた。
「いや……あたしら名前が同じなのにお互い名前で呼んでたら周囲はややこしく思わないかい?」
「そう? 私達にはわかるもの。十分じゃない?」
「いや、まあ、いいけどさ」
素っ気ないようなふりをしていたが、ブラックは内心胸が高鳴っていた。これまで、周囲に持て囃され、年齢には見合わない仕事をこなしてきたブラックにはこのように同年代の女の子の友達など居なかった。こうしていると、内心憧れていた普通の女の子の生活に少し近づいたような気分になる。
ショコラ・ホワイトはブラックの憧れであると同時に日常の象徴だった。この人と居れば、護る者としての自信はあっても普通の女の子としての自信は持てなかったブラックも、少しだけ自分にも人にも優しくなれるような気がした。
そうして、ブラックと……ロイドの意志は一致したのだった。
「じゃあ……ショコラ。まあ、よろしく」
「こちらこそ。よろしくね、ショコラ!」
そう言って、二人は握手をする。窓から射し込む光が二人を祝福していた。まるで陽だまりに溶け込んだような気分だ。
ブラックの第二の人生は暖かな光に彩られ、静かに幕を上げた。
◇ ◇ ◇
「良い子だっただろ?」
再び合流した時、ロイドは薄く微笑みながらそう言った。一階の廊下、窓ガラスを挟んでの会話だった。ブラックは校舎の中で校内の見取り図を確認しながら、ロイドは外で空をぼんやりと見つめながら穏やかな時間を過ごしていた。
「確かに……あんたがあの子を気にかける気持ちはわかったよ。良い子だよね」
「だろ? 俺はあの子を守りたい。あの子にできる限り長く楽しい時間を過ごしてほしい。だから、あんたにあの子の傍に居てほしい。これが、俺があんたに頼みたいことだよ」
ロイドははきはきと元気よく、時折笑いながらそう言った。先程キラの前で見せたものと似たような振る舞い方だった。
「構わないけど、その前に色々説明してほしいかな。あの子の事情とか、一体なんで守らなきゃいけないのか。あとは、なんであんたがあたしの前でまでその芝居してて、しかも顔も合わせず窓越しに喋らなきゃいけないのか」
「だって、どこで誰か聞いてるかわからないだろ? だからちゃんと、ショコラの前でも『普通』にしなきゃ! それに話してるところ人に見られたら俺とショコラが仲間だってバレちゃうじゃないか」
初めに本性を見てしまったブラックには今のロイドの振る舞い方は薄っぺらい仮面のように見えて苛々した。だが、この学校の生徒達はこちらの振る舞い方を「ロイド」として捉えている。決してロイドに演技力が無いわけではない。むしろ唖然とする程に上手い。だがブラックは自分を偽ることが嫌いだったし、人がそうしていることにもあまり良い感情を抱かなかった。
「これからは校内であまり俺に話しかけないようにしてよ。そのピアスにリディが通信用の術式かけてくれてるはずだから、連絡取る時はそれを使って。うっかりキラ達の前で俺に会っちゃったら、なるべくお互い気にしないようにして。どっちかってと、嫌ってるように見えるくらいがちょうどいいな。馬鹿とかうざいとか言っちゃっていいよ」
「……まあ、それが役目ならそうするけどさ。あんた、そんな芝居する必要あるの? 戦闘になったらそりゃあ色々割り切ることも必要だろうけど、日常でそこまでする? 普通に過ごせばいいじゃないか」
振り返ると、ロイドは黒いメモ帳を開いていた。メモ帳には「ロイド・ジェラス」という名前、一人称、二人称、好きなもの、嫌いなもの、性格、癖……等の「設定」がぎっしりと書き込まれていた。ブラックは背筋が凍った。この村でロイドはそのメモ帳に書かれた「ロイド・ジェラス」というキャラクターを演じているのだと気づいた。思わずブラックは繰り返す。
「なんで……そこまで……」
「そこまでしないと、『僕』は『普通』にはなれないから」
その時のロイドの背中は、無口で感情の起伏が乏しく、危なっかしくてどこか子供っぽい、出会った時のロイドだった。確かにあの日、ブラックはロイドを『普通の人』だとは思わなかった。性格どころか外見、髪の色を見ただけで異質だと捉え、思わず目で追っていた。一言話しただけでもこの人は普通の家庭で普通に暮らしてきた人ではないと気づいてしまった。
この芝居は、ありのままではどう足掻いても『普通』ではいられなかったロイドが与えられた役目を果たす為の手段に過ぎないのだろう。だが頭では理解していても、ブラックは個性を芝居で塗り潰すような行為に微かに苛立ちを感じてしまうのだった。
「で、あとは何が聞きたいんだっけ? そうそう、あの子の事情だよね。わかった、教えるよ。そのついでに俺の事情も説明するさ」
そう言うと、ロイドはようやくこちらと目を合わせた。ガラス一枚向こう側で、ロイドはあくまで自己紹介の一端のように気軽に言う。
「俺もあの子も、元々人体実験の実験台だったんだよ。とはいっても、俺はただの失敗作。でもあの子は失敗作を無限に産んだ末にできた完成品だよ」
思わずブラックは「はあ!?」と声をあげた。突然「人体実験」という突拍子も無い言葉が飛んできたので抵抗を感じずにはいられなかった。だが、一呼吸置いて冷静になる。もう既にブラックは「神」というおよそ信じがたいものの存在を見ている。ならば、人体実験もファンタジーのものとは言い切れない。
「本当に……人体実験なんてあるんだ」
「うん、デーヴィアにヴィオレって街あるでしょ。そこにそういう施設があったんだよ」
ブラックは頭が痛くなった。確かにホワイトは「ヴィオレから来た」と言っていた。偶然とは思えない。
「アポロン家って貴族がさあ、大昔に『イデア計画』っていうのをやってたんだよ。神の魔法を人の手で復活させ、最強の兵器を作るって計画。けどその試作品第一号が逃亡したのをきっかけにアルミナ家ってライバルの家に計画がバレて潰された。その潰れた計画を今の時代のアポロン家が掘り起こして『新・イデア計画』って名前で再開したんだ。その計画の為に使われたのが俺だよ。ま、俺は失敗して死んじゃったけどさ!」
「今日の晩飯の話みたいなノリでそんな重い話するなよ……。んで、そのアポロン家の奴らは今どうしてるの。奴らの計画は?」
「計画はもう潰れたよ。アポロン家もみんな死んだ。あの人達が作った最強の兵器『イデア』の暴走でね。その暴走の最中にリディ達が来たんだよ。んでぇ、『イデア』の暴走を止めて、記憶を消して、ついでにちょちょいと細工をしてこの学校に放り込んだんだ。それが……」
ロイドはその内容には相応しくない程に明るく早口でそう言った。白百合のような笑顔が脳裏を駆けた。ブラックはもう既にその『イデア』に会っている。優しさ、暖かさ、愛らしさ、それらの概念の象徴のような少女を知っている。
「ショコラ・ホワイトか。あの子が兵器……『イデア』なのか」
「うん! だからあの子、実は俺よりすっごく強いんだよね。でも、あの子は自分が『イデア』だってこと知らないんだ。実験のことも、何も」
ブラックはホワイトにかけてもらった言葉一つ一つを思い出してみる。理想の女の子、されど普通の女の子。その姿はどうしても最強の兵器『イデア』と結びつかなかった。ブラックは元々騎士──つまり軍人だ。人を殺したこともあり、その重みも知っている。
あの行為を、屍を、無限に重ね続けるモノがホワイトの正体だとは考えたくなかった。可能であれば、あの輝かしい普通の少女のままでいてほしい。
「僕、たぶん、あの子が好きだ。笑う時に口元を抑える癖が好き。黒くて綺麗な髪が好き。いつも皆に暖かさを分けてあげられるところが好き。赤くてキラキラしている目が好き。あの子をずっとそのままにしてくれるこの場所が好き。だから、兵器にはなってほしくないんだ」
「……そう。それで?」
「だから君にあの子の傍に居てあげてほしいんだ」
ロイドはまるでホワイトがこの場に居るかのように笑っていた。だが、恐らくホワイトにはロイドは幾多の生徒のうちの一人としか映っていないのだろう。先程の数分間、ホワイトが一度もロイドを話題に上げなかったことからそう感じた。それどころか、ロイドはブラックをホワイトに近づけ、自分はその場から逃げた。ブラックはそれがどうにも理解できない。
「あんた……それをずっと一人で抱えてたのか」
「事情はリディ達も知ってたよ。でも、あの子を特別だと思ってたのは俺だけかも」
「……あいつに笑っていてほしいって気持ちはよくわかるよ。でも、どうしてあんたが隣に居てやらないんだ。あんたが隣で守って、あんたのショコラにしちゃえばいいじゃないか。じゃなきゃ、あまりにも……」
すると、ロイドは先程の「ロイド・ジェラスの設定帳」をもう一度見せた。名前、性格、好きな物嫌いな物は勿論、会話の際の例文や校内の生徒の会話パターン、それに対する反応の仕方まで記録されている。そして、ロイドはそれらの情報に沿って「普通のロイド」を完璧に演じていた。
あまりにも隙が無く、あまりにも自由が無いのに、それに対して何の感情も抱いていない顔をしているところが痛ましい。
「こんなものが無いと普通のヒトになれないモノに、普通の女の子の守り方はわからないんだよ」
その言葉は日向ぼっこの最中のような穏やかさで放たれた。だが、ブラックは今は自分が胸を痛めてあげなければいけないと感じた。
どうしてロイドがブラックを彼女の傍に置いたのか、どうしてブラックを選んだのかその時に理解した。この人は身代わりが欲しかったのではなくて、助けが必要だったのだ。例えロイド自身が「苦しい」と感じることができなかったとしても、できないからこそ、誰かが助けなければいけなかった。
「それで、寂しくないのかい」
「寂しい……ね。言葉の意味はわかるんだけど、僕、寂しいって思ったことないんだよね。それがどんな感じかもわからないから、別に問題無いよ」
ロイドは再びブラックに背を向ける。ホワイトの幸せを願う癖に、自分はその幸せの届かない場所へ行こうとする。
「僕はね、多分できる限りあの子に関わらない方がいいんだ。だって、僕も『兵器イデア』としての記憶の一部だからね。関わらない方がきっと、思い出さずに済む。その方がきっと、兵器にならずに済む」
「あいつに殺人の為の兵器にはなってほしくないわけか……」
「ううん、違うよ。僕は別にあの子が人を殺したりしても構わないんだ。例え兵器でも殺人鬼でも、あの子が好きだよ。でも、人を殺しすぎるものは殺されるんだ。そう気づいたんだ。僕は、最終的にあの子が殺されるのは嫌なんだよ」
ブラックは頭を抱えた。「寂しい」という感情もわからないのに、「殺しすぎると殺される」という寂しい真理だけはよく理解している。普通の女の子を幸せにする方法はわからないのにその女の子を騙すことは容易く実行する。
あまりにも不器用で報われないと思った。悲しいことを悲しいとすら思えない人の代わりに、ブラックは今だけは自分が悲しんでやろうと思った。
あの日、「生き返る」という誘いに乗って本当に良かったと考えている。記憶を失い、村という箱庭の中に居るホワイトも、守りたい人の守り方もわからないロイドも助けなければならないと思った。
「ショコラ。騎士は、人を守る為に闘う者だって言ったよね。あの子の騎士になってほしい。あの子と友達になってほしい。最愛の人になってほしい。僕は、それだけで十分だ」
その時に、ブラックは第二の生で自分が為すべきことを決めた。
「いいよ。その頼み、引き受けた。これであたしらは純真な女の子を騙す悪辣な共犯者さ。ただし……」
ブラックはロイドの頭をゲンコツで軽く叩いた。ようやくロイドは叩かれた頭を抑えながら振り返った。
「ついでにあんたに普通の人についてもう少し教えてやる。拒否権は無いからね」
「そこまで頼んでないんだけど……」
「あんたがあたしに払った依頼料は重すぎる。仕事に見合わない報酬を貰う気は無いね。だから、こいつは超過分のサービスだ。歯ぁ食いしばって受け取りな。あたしは厳しいよ」
ロイドは困った顔をしながら頷いた。
「まあ、ちゃんとあの子の傍に居てくれるならいいんだけどさ」
「居るよ。勿論。あたしも……友達が欲しかったから。あんなふうに話せたのは初めてで、嬉しかったからね」
生前の信念。これからの道。それがこの時一つに繋がった。
全ては自分の守りたい人達を守る為。リディに従い、ロイドの頼みを受け、ホワイトと共に生きる。それが彼女達の幸せに繋がると信じて戦うと決めたのだった。




