表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある魔女のための鎮魂歌【第2部】  作者: ワルツ
第13章:儚き影の独唱
142/195

第13章:第6話

夢を見た。

一本道を歩く夢。隣にはキラが居て、自分の手足にはなぜか糸が付いている。

その夢は最後にとても奇妙な終わり方をしたような気がするのだが、何故か全く思い出せない────






目が覚めた時、ゼオンは寮の自室のベッドの上に居た。多少眠いが気分は特に悪くない。身体も問題無く動く。だが、寮に戻ってきた記憶が無い。

たしか広場でキラと別れた後に倒れたような気がするのだが……ひとまず身体を起こしてみると、部屋の中にロイドが居た。


「あ、ゼオン。おはよ。具合悪くない? 広場で倒れてたんだよ。最近よく倒れるけど大丈夫?」


体調よりもまず平然とロイドが部屋に居ることへの衝撃で倒れそうだった。しかも口振りからして、ロイドが倒れていたゼオンの第一発見者らしい。


「おい、まさかとは思うが、お前が連れてきたのか?」


「いや、連れてきたのはショコラだよ。俺がゼオンが倒れてるの見つけて、連れて帰ろうとしたんだけど……その、俺の力じゃ持ち上がらなくてさ……しょうがないからショコラを呼んできたら一人で軽々と……」


「いや、そんなことはどうでもいいから。この前は容赦無く殺しにかかって、セイラを消しておきながら、今度は助けるってどういうつもりだ? 何が狙いだ?」


ゼオンが敵意を込めてロイドを睨みつけると、ロイドは不思議そうに尋ねた。


「狙いって、何が? 俺はゼオンが倒れてたから心配で助けただけだよ」


何よりも恐ろしいことはロイドが嘘偽り無く心の底からそう思っているように見えることだった。まるで裏切る前の友人関係が今もそのまま続いているかのように。

しかし、ゼオンにはどうしてもかつてと同じ関係は続けられなかった。おそらくキラでも、ティーナでもルルカでも同じことを言うだろう。セイラが消えるきっかけを作り、キラを傷つけておきながら反省すらもしていない。それどころか、この少年は命令一つあれば今すぐにでもゼオンの命を奪うかもしれないのだ。いくらロイドが今も友人のように振る舞っていてもゼオンは拒絶するしかない。

しかし、その怒りと敵意以上にロイドにはぶつけたい疑問があった。


「お前、本気で何考えてるんだ……?」


「いつでもゼオンの命を奪いに来る可能性がある」と「友人としてゼオンを心配している」の二つがなぜ疑問も無く両立できるのかゼオンには理解できない。

しかし、ロイドから見ると、そのような疑問を抱くゼオンの方が理解できないようだった。


「そんなに不思議なことかな。だって、雪の中で倒れてるゼオンを放ってはおけないだろ」


「でも命令さえあればいつでも殺すんだろ?」


「うん」


「『殺せ』と命令されるかもしれない相手を助けてはいけないとは考えないのか?」


「うん、全然考えてない」


「……じゃあ仮にだ。俺がお前と飯食ってる最中に『命令されたから』っていきなりお前を殺したら、お前はどう思う?」


「うーん、ご飯もっと食べたかったな。って感じかな」


あまりにもはっきりと即答されてしまい、ゼオンはまた頭を抱えた。意味不明だ。全く思考回路がわからない。思えば、正体を明かす前から人のプライバシーに気安く踏み込むようなところはあったが、ここまで理解しがたい発想をしているとは夢にも思わなかった。

それでも、できる限り相手の思考を想像してみる。普通は『友人だから殺したくない』か『殺すかもしれない相手だから友人とは思ってない』のどちらかに偏るだろう。それが成り立たないということは────


「お前は、『友人』というものに対して『殺したくない』とか『死んでほしくない』とか考えていないのか?」


ゼオンがそう尋ねると、ロイドはまたカクリと骨の折れた人形のように首を傾けると、しばらく悩んでから答えた。


「学校だから『普通』にしなきゃと思ってたけど、芝居の期間はもう終わってるし、もう『僕』が思ったこと正直に言ってもいいのかな」


それから、ロイドはあまりにも無垢な穢れの無い瞳を向けてこう言った。


「逆に僕はゼオンから聞いてみたいんだけど、生きてるものはみんな死ぬのに、なんで友人だからとか、殺すとか殺さないとか、いつとかなんでとか気にするの? 死んでほしくないなんて思っても、最終的にみんな死ぬんだから、思う意味無いじゃないか」


ゼオンは絶句した。


「友達になった人がその日のうちに死んだり、テストと言って友達を殺すよう指示されたり、突然友達がおかしくなって殺しに来たり、別に珍しいことでもないでしょ? 僕は失敗作だから友達を殺すのって上手くなかったけど」


十分に珍しいことである。普通に生まれ、普通に育ったならばそのような状況にはまず陥らない。ゼオンはこの時ロイドという人物を初めて知ったような気分になった。

きっとこの思考に辿り着くまでにロイドは途方も無い苦労を重ねたのだろう。感情など擦り切れてしまう程の困難を耐えたのだろう。しかし、それを踏まえても「駄目だ」とゼオンは思ってしまった。

この人を理解することはできない。これまでのように過ごすことはできない。悪意が無いからといって安易に共に居ることを許すと、自分にとって良くないだけではなく、ティーナに心配をかけるしキラにも悪影響が出るだろう。


「……出ていってくれ」


「え……?」


「人の生死の意味を理解していないも同然、その上一度こちらを殺しにかかってきた奴とは、やっぱり一緒には居たくない」


そう言った時、ロイドの声は小さく萎み、手がだらんと垂れた。本当に深く落ち込んでいることが手に取るようにわかったが、ゼオンもそれ以外に答えようがなかった。


「そう……なの、か……。わかった……」


ロイドは小動物のように小さく縮こまり、悲しそうに俯きながら出ていった。ゼオンはその背中を見送りながら溜息をつく。仕方がないことだったが、罪悪感が溢れた。

ふと自分の机を見るとココアが置いてあった。まだ温かい。おそらくロイドが淹れていったのだろう。ゼオンは益々頭を抱えた。


「どうしろっていうんだよ……」


一度正体不明の怪しげな薬を渡された後だ。とても飲む気にはなれなかったが、去り際の寂しそうな背中を見ると捨てることもできなかった。悩んだ挙句、ゼオンはカップを机の隅に追いやって判断を後にする。それから気を紛らわせようとセイラから貰ったノートを開いた。

セイラから貰ったノートで気が紛れるなど自分が正気か疑いたくなるが、机の隅のココアに対する処分をこのまま延々と考えるよりは魔法の勉強をする方が遙かに気分が落ち着いた。

まずは目についた魔法を二つ三つ覚えてみることにした。初めのページに書かれている魔法は簡単なものが多いようで、何気なく呪文を唱えるだけで蒼の魔法陣が現れて光が舞い散った。

リディの血を仕込まれて蒼のブラン式魔術を使えるようになった。これは着実にオズと同じ道を歩んでいることを意味する。考えただけで目眩がする状況だが、単純に使える魔法の種類が増えたことは嬉しかった。

ただ単純に書かれた魔法陣に従って魔法を展開することは容易いが、魔法陣から創り出したり、既存の魔法にアレンジを加えていこうとするとブラン式魔術の魔法陣に使われている文字を覚える必要がある。単語や文法まで覚えなければならないとなると大変だろうな……と考えていると、次のページにはゼオンの思考を覗き見たかのようにブラン式魔術の文字と文法が書かれていた。

妙な違和感を覚えながらも、早速文字を覚えようとしはじめた時だ。ノートの隅に突然こんな走り書きが現れた。


『さすがお勉強熱心ですねぇ、ゼオンさぁん。お勉強と同じくらいキラさんにも積極的にアプローチできているでしょうかぁ?』


走り書きに苛立ったのは初めてだ。この口調、この嫌味。セイラの顔が浮かぶようだった。


『私が居なくなってメソメソしてるキラさんを励ましてあげられましたかぁ? 気の利いたことなんて思いつかないし、キラが可愛すぎて眩しすぎて目を合わせるのも辛いからただ隣に居ただなんて、そんなことありませんよねぇ、ゼオンさぁん? 男のプライド見せてくださぁい? あっ、私もう居ないから見れないんでした。あーあ、残念ですぅ。ゼオンさんが甲斐性無しで恋愛脳幼女以下のチキンちゃん、進展速度は亀よりノロマの根暗のコミュ障のカリスマ地雷踏み師だったばっかりに、甘酸っぱいお遊戯会レベルの恋の行方をこの目で見届けられなくて、ほぉんとうに、ざ〜んねんですぅ〜〜〜』


今すぐノートごと引きちぎってやろうかと思った。誰のおかげでキラも皆もお通夜のような空気になっていると思っている。

そしてオズも指摘していたことだが、この瞬間に抱いていた疑惑は確信になった。セイラの奴、絶対あの時あの瞬間に自分が死ぬことになるとわかっている。わかってたなら言えよ、頼れよ、回避しろよ。恨みと後悔を込めて走り書きをギュウギュウ押し潰していると、また別の箇所に走り書きが現れた。


『さてさて、このノートの意味についてですが、勿論あなたに蒼のブラン式魔術を教える為です。私が使える魔法は大体このノートに書き記しました。この魔法をどう学び、どう使うかはゼオンさんにお任せしましょう。以前ゼオンさんが言っていた新たな魔法創りにも役立つかと思いますよ』


ゼオンはすぐに以前ブラン聖堂で手に入れた紅と蒼の欠片が入った瓶を取り出す。すると、また新たな走り書きが現れた。


『ゼオンさん。もうわざわざ説明する必要は無いでしょうが、まずはこのノートに書かれた魔法を習得してください。その先に、次にあなた方が為すべきことを書いておきました』


ゼオンは呆れ果て、改めてセイラという人を恐ろしいと思った。不快な意味ではない、実に勇敢だという意味でだ。

それから、ゼオンは早速片っ端から魔法の勉強に取り掛かった。キラもゼオンも皆も、まだセイラを失った心の傷は癒えていないが、ここで折れるわけにもいかなかった。

なぜなら、殺された本人がまだ全く諦めていないのだ。ずっと、幼女の身体に納めるには強すぎる自我の持ち主だと思っていた。この意志はきっとこの身が砕け散るまで止まらないのだろうと思っていた。

まさか、砕け散っても止まらないとは思わなかった。


『恐らく、あなたはこれから辛い道程を歩むでしょう。その困難は、あなた自身の力だけでは乗り越えられないでしょう。しかし、誤解しないでくださいね? 私がこれらの魔法をあなたに託すのは、あくまでイオを救い、この神々の策謀に終止符を打つ為。その為の力になると見込んで託しているのですから、せいぜいしっかりお勉強して存分に利用してくださァい?』


ゼオンはまた頭を抱えながらも、「セイラらしい言葉だ」と安心する。なぜセイラが自分の消滅の時を知っていたかはわからないが、セイラという人がやはりこれまでゼオン達が見てきたとおりの人だということが確認できただけでも再出発の活力となった。

そして同時にある疑念が生まれた。


「まさかあいつ……自分が死んでからが本番だとか思ってるんじゃないだろうな?」


失望はしていない。ただ、セイラの意志の強さに尊敬と畏怖を込めて「やはりお前は絶対に幼女なんかじゃねえ」と言い放ってやりたくなった。



◇◇◇



「そんなの絶対拒絶されるに決まってるだろ」とブラックは溜息をついた。

ロイドから連絡を受けて倒れていたゼオンを運んだ後、ブラックは寮へと続く渡り廊下の手前で待機していた。途中でゼオンが目覚めることなく運べたから良いものの、つい先日自分達を裏切った相手を助けてもろくな目に遭わないだろう。

予想通り、ゼオンの部屋から戻ってきたロイドは枯れかけの草花のように俯いていた。ブラックは早速ロイドに言う。


「その様子だと……追い出されたみたいだね」


「うん……出ていってくれって。なんだか、ゼオンに悪いことしちゃったみたいだ」


客観的に見ると追い出されて当然、むしろロイドが今も自分が行ったことの何が悪かったのか自覚できていないことに驚くべきだろう。

しかし、多少ロイドの事情を知っているブラックは責めることはせずに冷静に考える。さて、どこから説明していけばよいものか──


「その落ち込みよう。『芝居』とか言ってたわりに、かなり本気でゼオンのこと友達と思っていたみたいじゃないか」


「ええ、だって本気で思っていなきゃ、説得力のある芝居にならないと思うんだけど。メディ達は『芝居をしろ、演技をしろ』って言ってたから、僕、この学校に来る前にリディに頼んでちょっとだけオペラとか見せてもらったんだよ。架空の人物のはずなのに、役者さん達はみんな与えられた役の気持ちを本気で考えて、理解して、精一杯表現してた。ブラン聖堂で『記録書』と照らし合わせてみても、みんな物凄い努力をした上で舞台に立ってるってわかるんだよ。『芝居』ってそういうものだと思って、僕も頑張ったつもりなんだけど」


あまりにも純粋な目をして語るので、ブラックは益々困ってしまった。恐らくメディは『いずれ捨てる為の偽りの関係』のつもりで『芝居』という言葉を使っただろうに、これほど素直に捉えられてしまうとは思ってもいないだろう。

尤も、メディの残虐なところはそういった誤解すら好都合と捉えて、自分の目的遂行の部品に組み込んでしまうところにあるのだが。

そう考えてから、「まだ教えなきゃいけないことが沢山あるなあ」とブラックは溜息をついた。ロイドはもう少し人としての感覚を身に着けなければならない。そうでなければ、メディに限らず悪意を持つ者に利用されてしまうだろう。知識と感覚と意志はきっと自分の身だけではなく、愛する人の身を守る助けになる。ブラックはそう信じて、ロイドの突飛な話も受け止めながら話を続けるのだった。

ブラックが溜息をついている間もロイドは何故ゼオンに拒絶されてしまったのか考えているようだった。おそらく、この時点でロイドを狂人と捉える人も居るだろうがブラックは辛抱強くロイドの様子を見守った。


「うーん……僕、やっぱりゼオンに悪いことしたのかな……。セイラの話が出た時、キラもゼオンもすごく怒るから、やっぱりあの時強化魔法を使ったせいなのかな……」


「お? なんだ、もっと一から教えなきゃいけないかと思ったけど、思ったよりいい想像できてるじゃないか」


一般人の想像斜め上の発言を繰り返していたロイドが突然正解に近いことを言い出したのでまたブラックは驚いていた。


「やっぱり、そうなの?」


「正解の一つではあるね。でも、それだけじゃないはずだよ」


良いきっかけができたので、今度はブラックの方からヒントを与えてみる。


「一番最初にキラやゼオンに怒られたのはいつだった? 多分それが、あいつらがあんたと仲良くできなくなった最大の理由に繋がってるはずだよ」


「……一番最初は、ええと、多分キラだ。キラに僕が敵だってことを教えた時かな。あと、銃を何発か撃ったかな。でも一発も当たってなかったし、ごめんねって謝ったはずなんだけど」


「ごめんで許せるレベルじゃなかったんだよ、それは。」


ようやく誰もが自然に辿り着くはずの決裂のポイントに話が行き着いた。ブラックは少し安心したが、ロイドはじっと考え込んでも理解ができずにいるようだった。


「裏切ることや殺したりすることや敵になることってそんなに酷いことなの…?」


「あんたが同じことやられたらどう思う?」


「別に、何も思わないかな。殺したり殺されたりなんて珍しくもないだろうし。実際僕も死んてるしね」


「……あんたの感覚ほんとすごいな……」


一瞬期待しかけたが、ブラックはまた頭を抱えて悩むことになった。子供相手ならこれで話しが通じるはずなのだが、ロイドは「死にたくない」という感覚すら持っていないらしい。


「その珍しくないって、何を基準に言ってるんだよ」


「僕が前に居たところはそうだったし……あと、ブラン聖堂で色んな人の記録書を見た時は結構同僚の裏切りとか部下の下克上とかで死んでる人とか居たよ?」


「それさ、すごい戦乱の世の人の記録書とかじゃないの? それに、裏切られた当人は決して普通だからまあいいやなんて思ってないと思うけどなあ。記録書ってたしか起こった事象は書いてあっても、当事者の感情は書いてなかった気がするし」


「そう、なの? てっきりいっぱいあったから普通なんだと……」


こうしてロイドと話していると本当にカウンセリングをしているような気分になる。ロイドに欠けている感覚の正体も少しずつ掴めるようになり、同時にロイド本人は非常に素直な人物だということもわかる。ロイドがもしこの村で平穏に生まれ育っていたのなら、きっと心優しく純朴な少年になっていただろう。

さて、ここでブラックは一つ確かめてみたくなった。今のロイドが唯一普通の純朴な少年になれる鍵である彼女──ショコラ·ホワイトを例に出すとどうなるのかと。


「じゃあ、例えば。あんたが一番大切にしてるショコラを、あたしが突然殺したら、あんたどう思う?」


ロイドは首を傾げた。


「その仮定に意味は無いよ。だって君はそんなことしないから」


あまりにも純粋な信頼に面食らったが、ブラックは更に質問を続けた。


「それでもだ。その絶対に起こり得ないと思っていたことが起こって、あたしがショコラを殺した。そしたらあんた、どう思う?」


ロイドはうんと考えた末に小さく呟いた。


「そしたら……きっと悲しい。怒る。あの子には血とかお肉の塊じゃなくて、あの子のままでいてほしいから、そうなったら……すごく困る」


「うん、そうなったらあたしのことはどう思う?」


「どうしてそんなことするのかわかんなくて、困ると思う……」


そうロイドが答えた時、ブラックは安心すると同時に益々ロイドを哀れに思った。やはり、彼女を通せば理解できるようだ。


「そう、多分キラやゼオンもだいたい似たようなことを思ったんじゃないかな。まあ……もうちょっと怒るだろうけど。誰だって自分の友達は自分に悪いことはしないだろって期待するし、大事な人を傷つけられたくないし、その信用を裏切られたら……辛いんだよ。だから、もうそんなことしなくて済むようにこれからは気をつけなよ」


「そう、なのか……そうなんだ……」


ロイドは深く傷つき、悲しんでいた。その様子を見て、ブラックは「やはり話せばわかるんだな」と認識する。ロイドは決して身勝手な狂人ではない──いっそ狂人であったほうが当人にとっては楽だったのではないかとも思うほどに、脆くて繊細で純粋な少年だ。


「そうだ、ゼオンはキラが好きだもんね、キラを傷つけたら怒るんだね。セイラは、キラ達の仲間だったもんね……。そっか、うん、なんとなくわかったよ。僕、悪いことしたね」


「そう、取り返しがつかないことになった後だけど、覚えておきな」


「うん……。もう、ゼオンやキラと仲良くすることは、難しいのかな……」


ロイドは背を丸めて呟く。「そんなことはない」と言いたいところだが、彼等にとってセイラという損失は大きすぎる。


「まあ……絶対無いとは言い切れないけど、難しいだろうね。これからも奴らと戦う機会があるだろうし……」


「そっか……」


ロイドは寂しそうな顔をする。おそらく彼等はロイドにとって人体実験施設を出てから初めてできた友達なのだろう。それがこんな決裂を迎えたと思うと胸が痛かった。


「まあ、元気出しなよ。あいつらとまた仲良くするのは難しくても新しい友達を作ることはできるだろうし、それにあたしも飯くらい付き合ってあげるからさ。もしあの教室に居づらくなったらこっち来な。いいね?」


「……うん」


ブラックがそう言うと、ロイドは薄く微笑んで頷いた。その様子を見て、ようやくブラックは一つ課題を終えたことを実感した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ