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ある魔女のための鎮魂歌【第2部】  作者: ワルツ
第12章:ある悪魔の狂詩曲
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第12章:第40話

結局、「ショコラティエ」としての意識が戻ったのは戦いが全て終わった後のようだった。茜色の光が射し込む夕暮れのことだ。

気がつくとブラックは自室のベッドの上に居た。全身の僅かな痛みを感じた後、これまでの記憶をぼんやりと思い出す。「弟」に憑依されている間の記憶は僅かに残るが曖昧で、起こった出来事全てを知ることはできなかった。

身体を起こすと、ロイドが部屋の中央で猫のぬいぐるみを触っている。イオは部屋の隅で丸まっていた。


「だからあ、なんであたしの部屋を根城にするんだよ! あたし、女子だよ? 女の子の部屋にそんなに気安く入ってくるなよ野郎共! そしてあたしの猫ちゃん返してよ!」


ブラックがロイドから猫の縫いぐるみを取り上げると、ロイドはけらけら笑った。


「おはよ。そしてごめん、僕の中でショコラは女の子に入ってなかった」


「女だから! そりゃあショコラほどあたしは可愛くないけどさあ!」


非常に紛らわしい会話だが、ロイドの言う「ショコラ」とはショコラ・ブラックのことだし、ブラックの言う「ショコラ」はショコラ・ホワイトのことだ。

ロイドはブラックと同じく、一度命を落としたところをリディに救われ、以来リディに付き従っている者だ。生まれが特殊であるせいか一般人とは感覚がかけ離れているが、神とその創造物ばかりで成り立っている組織の中では話しやすい相手だった。


「よかった、ちゃんとショコラに戻ったみたいだね。君の弟はショコラほどちゃんと話してくれないんだよね」


「まあ、そこは……悪いね、迷惑かけて。それより……イオはどうしたんだい、あんなとこで丸まって」


イオはセイラの帽子を抱きしめて顔を埋めていた。一言も声を発さず、弱った獣のように縮こまっている。

記憶が曖昧であるブラックには普段傲慢なイオがこうも落ち込んでいる理由がわからない。するとロイドが言った。


「なんか、セイラがメディに消されてからずっとそんな感じなんだよね。どうすればいいんだろう」


その言葉で、正常な反応をしているのはイオの方で、「普段通り」に振る舞えるロイドがどれほど異質な反応をしているか気づいた。

徐々に記憶が鮮明になる。そうだ、あの時ロイドが紅のブラン式魔術を使用した後、杖から生まれた闇がセイラを呑み込んだ。イオが愛してやまないセイラが死んだのだ。悲しみ、取り乱し、縮こまってしまうことは自然な反応だ。

しかし、ロイドに全く悪気が無いこともわかっていた。その前の戦闘でロイドがメディに言われたことも徐々に思い出してきた。


「吃驚した。メディが『ゼオンに紅のブラン式魔術で強化魔法』って言ったからそうしたんだけど……まさかあんなことになるなんて思わなかった」


そう言うロイドは事の重大さを理解していないかのようにのんびりと呟く。ロイドにとっては、「言われたことを実行しただけ」に過ぎない。勿論、そこが問題なのだが。

こちらが平然とセイラの話をしていることが癪に障ったのか、蹲っていたイオが突然起き上がって窓を開け、部屋から出ていこうとした。


「あああ、悪い、無神経なこと言ったね」


「別に」


イオは沈んだ声で呟くと、そのまま窓から飛び立って出て行った。その後ろ姿は傷を隠したまま逃げる獣のようだった。余計に追い詰めてしまったかもしれない、とブラックは肩を竦める。

杖を二本、そしてセイラが死んであちらの戦力が大幅に削げた。状況としてはイオとメディの大勝利のはずだが、イオに喜ぶ気配は全く無い。すぐには立ち直らないだろうし、立ち直ることができるかも怪しいものだ。

暫くの間はキラ達との衝突は無いかもしれないな……そう考えていると、ロイドが場違いな程に明るい声で言った。


「そういえばさ、ゼオン達に正体バレちゃったから、明日からは君の教室に堂々と行ってもいいんだよね? ゼオン達と居るのも楽しかったけど、たまには事情を知ってる人と話したくてさ」


もしこの様子をキラ達が見ていたら怒り狂うことだろう。しかし、ブラックはむしろロイドが心配だった。まるで事態の重要性を認識していないかのように明るく振る舞っているが、ロイドの場合は「本当に認識していない」可能性があるのだ。


「あんた……それでよかったのかい?」


憑依中のことなので記憶が曖昧だが、ゼオンがロイドに向けて「許さない」と呟いたことを覚えている。

彼等はロイドを恨んでいるだろう。裏切られたと思い、ロイドの思考を読めず、残虐非道な人物と思っているだろう。

それは仕方が無いだろう。信頼を裏切られたのだ。彼等には怒る資格がある。しかし、ロイドの生い立ちを知っているブラックから見ると、怒るに怒れなかった。


「うん、なにが?」


「ゼオン達を裏切ったことさ。本当にそれでよかったのかい?」


ロイドはきょとんと首を傾げている。それを見て、ブラックは自分の予感が正しかったと確信した。それからロイドは自分のメモ帳を取り出して「この場合の正しい反応方法」を探し始めた。だが当然、それはメモ帳の中から探すようなものではない。そもそも、正解不正解があるものではないのだ。そして、それはブラックが伝えようとして伝えられるものでもなかった。


「まあいいか……どのみち明日になればわかるだろうし」


「なにが?」


「あんたがやったことの意味だよ」


そこまで言っても、ロイドはきょとんとした顔をしながらメモ帳のページを捲っていた。

ロイドの正体が知られた以上、キラ達も校内でこれまでと同じように接することはできなくなるだろう。このことについては今後のロイドの様子を見てから話していくことにした。

すると、ロイドは急にページを捲る手を止めてこのようなことを言い出した。


「ゼオンといえばさ、ショコラってばよくゼオンに毒を盛るなんてできたよね」


「……は?」


ブラックは思わず聞き返した。そのようなことをした覚えがない。メディ達がそう指示したことは知っていたが、ブラックはその件については全く関わっていなかった。そもそもブラックはあのパーティにも行っていないので実行不可能だ。

むしろ……


「あたしはやってないよ。というか、毒を盛ったのはあんたかと思ってたんだけど?」


「えー!? 僕はリディに頼まれて解毒剤持ってっただけだよ! 毒は僕じゃないよ。だいたい僕、あのパーティ行ってないからできるわけないよ!」


「あたしだって行ってないよ」


「またショコラに取り憑いた弟がやったのかと」


「あいつか憑依しても身体はあたしなんだから、パーティ行ってないとできないよ」


話がややこしくなってきた。ゼオンはあのパーティで何かを盛られて倒れた。それはメディの指示で行われたことだ。そこまでは間違いない。

しかし、その実行犯はブラックではないし、ロイドでもないという。


「じゃあイオ……?」


「イオもパーティ行ってないから無理だよ」


「メディ……は実体無いから無理だし、じゃあリディ……?」


「リディは逆だよ。『ゼオンに渡してあげて』って僕に解毒剤と解熱剤を渡してきたんだよ? それに、リディは自分からそんなことしたりしないよ」


ブラックとロイドは首を傾げながら顔を見合わせた。


「他に仲間居たっけ……」


「僕は知らない……」


「じゃあ……」


この時ようやくブラックは「自分達も欺かれていた」ことに気づいた。二人は顔を見合わせながら、実行犯側とは思えない言葉を呟く。


「ゼオンに毒を盛ったのって、誰……?」









ブラックの部屋から飛び出したイオはセイラの帽子を抱きしめたまま、広場の隅で啜り泣く。


「ああ、そっか……ボク、本当にひとりぼっちになっちゃったのか……」


もう戻れない。帰れない。イオが何より愛する片割れと仲直りできる日は決して訪れない。



◇◇◇



図書館の扉を開く頃には、陽はとうに沈んでいた。後で情報の開示についてオズと揉めるのも癪だと思い、こちらから先に事情を伝えにいこうとしたが、いざ到着するとうまく言葉が出るか怪しかった。

冷え切った手足とは裏腹に、扉の向こうでは今日も小悪魔達の暖かな笑い声がする。ちょうど夕飯の支度をしているところだった。

普段と何ら変わらない日常風景だが、今のゼオンは見ているだけで胸が痛んだ。一歩踏み込むだけで茨に触れたように苦しくなる。

この様子だと、図書館の面々はまだセイラが消えたことを知らないのだろうか。ゼオンの姿を見たルイーネが声をかけた。


「あ、ゼオンさん! なんだかちょっと久しぶりですね。体調は大丈夫ですか?」


「それは、まあ……大丈夫だ。オズは居るか?」


「居ますよ。オズさーん、ゼオンさん来ましたよー!」


オズは机に向かい、何か難しそうな顔で二冊のノートを見つめていたが、ゼオンの姿を見ると普段通りの道化の笑みを浮かべた。


「よう、帰ったみたいやな。お疲れさん」


そこで嫌な予感は更に強まった。人の憂鬱など常にお構い無しのオズだ。事態を把握しているなら真っ先にセイラが消えた時のことをあれこれと尋ねているだろう。


「知らない、みたいだな。いつも監視してる癖に、ルイーネから聞いていないのか?」


「何をや」


「セイラが死んだ。正しくは消された。あの杖に、メディに」


その一言で小悪魔達の笑い声が消え去った。しかし、ゼオンの予感は当たってはいなかった。オズから笑みは消え去っていたが、動揺は無い。まるで何か予期していたかのように深い溜息をついていた。


「そうか。まあ……そんな予感はちょいとしとったわ」


あまりにも落ち着いた一言に僅かだが苛立ちが募った。


「予感がしてたなら、なんで止めなかった」


「そら、セイラを止めたらお前らがお陀仏やろ」


「違う、何故お前自身が戦いに介入しないのかって意味だ」


「前に言ったやろ。俺は攻撃魔法使用禁止やねん」


「だから、普段ルールや規則なんて容易く破る癖にどうしてその決まりだけ律儀に守るのか聞いているんだよ」


すると慌ててルイーネが二人の間に入った。ルイーネの顔は真っ青になり、声も震えていた。


「待ってください。それはオズさんのせいではないんです! 昼間……ちょっと用があって私が席を外していたんです! だから皆さんの様子を見守ることができなくて、だからオズさんにも皆さんがそんな危険な目に遭っていたなんて気づけなくて……申し訳ありません!」


そう言われてゼオンは我に返り、口をつぐんだ。馬鹿だ、冷静さを欠いて人に当たるなんて。

ルイーネを責めることはできなかった。そもそもルイーネにそのような義務は無いはずだ。


「……悪い」


「いえ、お気になさらず。あの……性悪……いえ、セイラさんが亡くなったというのは本当ですか。私が居なかった間に……」


「本当だ。サラ・ルピアと同じように……杖の力に呑まれて死んだ」


そう言うと、ルイーネは両手で顔を覆ってうなだれた。


「そんな……そんなことが……こんなことなら……」


まるで自分を責めるようにルイーネが縮こまっていったところで、オズが口を挟んだ。


「ルイーネが居て、俺が戦闘に介入したとしても意味無かったと思うで。何度も言うけどお前、セイラが俺の魔法でボロボロになったの忘れたか。俺の力はメディと同じ破壊の魔法。俺が介入してもセイラの消失が早まるだけや。俺の力は、壊すことしかできへんからな」


ゼオンには返す言葉も気力も無かった。ルイーネもバツの悪そうな顔でこちらから目を背けている。ただ「どう足掻いてもセイラは救えなかった」という結論に沈黙するしかない。しかし、それで片付けるにはセイラがあまりにも報われない。無念が身体を支配する度に、ある想いが湧き上がってくるのだった。

オズは何か言い出そうとしたが、ゼオンの様子を見て口を閉ざした。


「……なんだ。用があるならはっきり言えよ」


「いや、また後日でええわ。落ち着いたらまた来い。渡す物あるから」


「今渡せよ」


「無理すんな。今は何も考える気にならへんやろ?」


心中を見透かされていたことに怒る気力も無い。溜息をついて背を向けるだけだ。しかしこれ以上オズに付き合うのも癪なのですぐに帰ろうとしたところ、オズはこんなことを尋ねた。


「そういやお前、あれ以来体調はどうなんや? なんか異常とか起こってへん?」


「いや、特に……あ、そういえば。イオ達との戦闘中に急に凄い力が出たな。ティーナ達の反応だと、その時片目の色が蒼く変わっていたらしい」


その言葉を聞いた途端、オズは言葉を失った。


「お前、それを聞いて何も思い当たらへんのか?」


「何が?」


ゼオンは何も異常と捉えてはいない。何も感じていない。「気づいていない」。

オズは驚いた後、急に真顔になり、その後蛇のような目で哂う。それからゼオンにこう伝えた。


「お前、今度医者から処方された薬持ってこい。まあ、渡したのはあのロイドってやつみたいやけど。あいつが渡した時点で絶対怪しいし、調べといてお互い損は無いやろ?」


「確かに、まあそうだな」


「ほな、ならまた後日。せいぜい部屋で泣き喚くことやな」


最低の文句で見送られた後、ゼオンは逃げるように図書館を後にした。

ゼオンに泣くことはできない。笑うこともできない。ただ虚しさが北風のように吹き荒れるだけだ。

あの目が蒼く変わった時、あの力をより長く維持し続けられたなら、元の時代に戻ってからも倒れず戦い続けられたなら、このような惨劇は起こらなかったのではないだろうか。セイラが消えたことを実感する度に何度でもこの思考に戻ってきてしまう。

ああ、無力だ。ラヴェルとプリメイを守れなかった。セイラを救えなかった。ティーナも、キラもルルカも悲しませた。

無力さを実感する度に、何度でも自分を責めてしまう。しかし、キラやティーナのように泣くことはできないから、じっと痛みが過ぎ去るまで待つしかなかった。

そうだ、耐えて、待てばよい。時間が経てばまた歩き出せる。これまではずっとそうしてきた。これからもきっとそうなるはずだ。心の痛みもきっと耐えられる。


身体の痛みの方は実際忘れていたのだから。メディ達にあれほど傷めつけられたというのに。

傷の痛みだけではなく、冬の寒ささえも。




ゼオンが去ってから、オズはセイラに託された青いリボンのノートを開いたまま呟いた。


「まさか、本当にあの女、『あれ』をやりやがったのか……? だとしたら、セイラのやつ、何を考えとる……?」


ノートにはぎっしりとこれまでセイラが習得した魔法の使い方が書き記されていた。

「ゼオンに渡せ」と頼まれたノートの中身は、創造の女神リオディシアの魔法、蒼のブラン式魔術だった。



◇◇◇



窓の外の空は真白に染まり、雪がちらついていた。深い冬は生命も精神も美しく凍りつけて死の口づけをする。

明けない夜は無い。越えられない冬は無い。しかしそれは、夜が明け、冬が終わるまでその人が生きていられるならばの話だ。


「……残念だわ」


リディは床に落ちて砕け散った片方の黒のナイトの破片をそっと拾い上げた。硝子でできた駒の破片は砕けた後も輝き続けていた。

イオとブラックそれぞれから「セイラが死んだ」との報告は受けていた。記録書の役割を果たし、かつては誰よりも忠実にリディに付き従っていたセイラを亡くすことはリディにとっても悲しむべきことだった。

リディは硝子の欠片を片付けた後、黒のキングの駒をつまみ上げて呟く。


「オズ……あなたを守らなくちゃ。救わなくちゃ。あなたを失いたくはない……」


リディは暖かな過去へと想いを馳せる。オズと穏やかに過ごすことができた僅かな時間。ミラとイクスと出会い、人の世界を知ることができた時間。

しかし、幸せな時間は十年前のあの日に唐突に奪われてしまった。あのような過ちは二度と繰り返さない。

そして──


『やってくれたわね、リディ』


メディの声がした。良くも悪くも興奮に満ちた声色だ。


「なぁに、メディ。むしろやったのはあなたの方かと思うのだけど? セイラを殺したそうね」


『ええ、確かに。美味しかったわ、御馳走様。でもそれはそれとして、あなたに今すぐ問いたださなければならないことがあるのよ』


リディは二人分のお茶を淹れて再び椅子に腰掛けた。片方はメディの分だ。


『何よ、私は飲めないのに。嫌味?』


「いいえ、話があるのなら、私の分だけ淹れるのは失礼かしらと思って」


『ハッ、普段はそんなことしない癖に。お茶なんてどうでもいいのよ。私はゼオンに何をしたのか問いただしに来たのよ』


思い当たる節はあった。ゼオンが倒れた数日後、ロイドに「解熱剤」と「解毒薬」を渡したことだ。ゼオンが倒れたままではキラが悲しむし、何よりゼオンが果たしたいと願っている役割を果たすことができない。なのでメディに隠れて力を貸したのだった。

しかし、リディはそのことには触れずにメディにこう返す。


「ゼオンがどうかしたの?」


『よくまあそんなことをほざけるわね。随分とあの子に手をかけておきながら。私はそれを察知して、排除すべきと判断したわけよ』


「私が? やだ、私、ゼオンには興味無いわよ。あの子はキラにあげるわ」


『それはそうでしょう。昔からあなたが興味あるのはオズだけ。恋してるのも、欲しいと思っているのもオズだけ。あなたは私と違って一途な乙女ですものね? でも、だから太刀が悪いのよ』


そうはっきり言い切られると気恥ずかしさで頬が熱くなる。たしかにオズのことを考えると胸が高鳴り、落ち着いていられないのだが。

リディの想いとは裏腹にメディは口調を強めていく。一言一言刺すように悪意を込めて言い放つ。


『あなたは興味が無い癖に手をかけた相手には残酷な程に慈悲が無い。それこそがかつて私に、アディに、オズ……怪物のような障害を全て駆逐して一人勝ちしたあなたの武器ですものね?』


ああ、嫌だ。リディは肩を竦めて毒に塗れた言葉に耐える。メディは更に言葉を続けた。


『昔からそう。私は欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れるわ。オズも同じよ。でもあなただけは違う。標的が自らの意志で自分の懐に入ってくるように仕向けるのよ。それ以外の物は標的を運ぶ部品に過ぎない。あなたが欲しくて仕方が無いオズがあなたを追いかけてきてくれるのはさぞ良い気分でしょうね。そして……ゼオンもキラもその為の部品ってことよ』


「そんなつもりはないわよ。それとこれはは関係無い。ただ……私は……」


『毒を盛られたゼオンが哀れだったから解毒剤を渡したとでも言うつもりかしら。でもあなたが渡したのって解毒剤じゃないわよね? 解毒剤で蒼のブラン式魔術は使えるようにならないもの』


その一言を聞いた途端、これ以上の「時間稼ぎ」は無意味だと悟った。

駒が次々と欠け始めた盤面を見つめ、リディはまだ割れていないもう一つの黒の騎士の駒を進めながら、心の中で呟く。「時は満ちた」と。


「メディ、あなたは少し間違えているわ。私は確かに解毒剤を渡したわ。だからほら、ゼオンの熱はちゃんと下がっていたでしょう」


『ならパーティで仕掛けた毒の方かしら。それとも屁理屈を言っているのかしら。どのみち、あなたが禁忌を冒さないと『ゼオンの目が蒼くなってブラン式魔術を使う』なんて事態起こりえないのよ。リディ、あなた……自分の血をゼオンに飲ませたわね?』


リディは白百合のように清らかに微笑み、鈴のような声で答えた。誰もが惹かれるほどの美しさで、清く、愛らしく。


「さあ、なんのことかしら?」

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