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目の前に突然現れた存在に驚き、しばしポカンとしてしまった。
「それじゃあ…新たに誕生した魔王の…宣誓の儀を…始める……。」
悪魔の開始を告げる言葉に、なんとか自分を取り戻す。
そうだ、唖然としてる場合じゃない。僕は彼らの上に立つ存在になるのだから、毅然とした態度をとっていないと。そう思い、気を引き締めて姿勢を正す。
「まず…主たちを…魔王に紹介する……。私の向かいに…座っている彼は…ワーウルフ……。獣人族を…まとめている……。」
そう言われて狼男改めワーウルフに目を向けると、彼は僕に向けていた視線に、一層の敵意を込めて返してきた。
こ…怖い…。
「ワーウルフの…隣にいる彼が…ヴァンパイア……。夜魔族を…まとめている……。」
やはり美男子のほうらしい。僕と目が合うと、ニコリと微笑みを浮かべた。
「ヴァンパイアの隣…一番奥にいるのが…フェアリー……。精霊族を…まとめている……。」
「よろしくね!」
悪魔の紹介を聞いていた僕に、笑顔で声をかけてきた。僕も笑顔で「よろしく」と返す。
「次に…私の隣にいるのが…レッドドラゴン……。龍族を…まとめている……。」
紹介された彼女は、僕をちらりと一瞥して、また目を閉じてしまった。
「最後に…レッドドラゴンの隣にいるのが…ウィッチ……。魔法族を…まとめている……。」
ウィッチに目を向けるが、帽子を目深にかぶった彼女とは、目を合わせられなかった。帽子が動いてないところをみると、彼女は僕に顔を向けていないようだ。
「そして…私が悪魔族を…まとめている……。」
悪魔が、改めて自分のことを説明する。顔が赤くなるのはいつも通りだ。
「では…新たな魔王に…宣誓を…行ってもらう……。」
咳払いをして真面目な顔に戻ると、悪魔がその場にいる全員に告げる。
いよいよ本番だ。みんなの目が僕に集まる。
「え~…僕、加藤正義は新たな魔王として、魔に属する全ての存在の為にこの身を捧げることを誓う。皆、これからよろしく。」
僕の発言の後、誰も動かず言葉も発しない。
…あれ?僕、何かやっちゃったかな…?
そう思い、悪魔のほうにちらりと視線を向けるが、悪魔にもこの静寂の理由がわからないのか困惑している感じだ。
どうしようかと内心焦っていると、
「なぁ、新たな魔王様よ。あんた、これからどうするつもりだ?」
ワーウルフが僕を睨みながら、声をかけてきた。
「どうする、というのは?」
何が聞きたいのかわからず、しょうがないので逆に質問を返す。
すると、突然ドンッとテーブルを叩いて、ワーウルフが立ち上がる。
「ふざけんな!人間共や天使たちに対して、どう動くかを聞いてんだよっ!!」
僕に対して、怒りをむき出しにして叫んでくる。
どうしよう、超怖い…。内心震えが止まらない。
「私も是非お聞かせ願いたい。我ら魔族は、三種族中最も勢力の小さなものになってしまいました。それに対して、新たな王はどうお考えか?」
と、ワーウルフの隣に座っているヴァンパイアが、微笑みを浮かべたまま僕に問いかけてきた。
他の全員も、僕がどういった答えを返すのか興味津々といった感じだ。
どうやら、僕が他勢力に対してどういう考えでいるのか、それが気になっていたんだろう。
「僕の考え…ですか。僕は、昨日魔王として生まれたばかりで、この世界については、まだ全てを理解したわけではありません。それでもよければ、お話しします。」
僕の返答に、ヴァンパイアは微笑みのまま頷く。ワーウルフはチッと舌打ちして、席に座り直した。
「では…。現状、僕は他勢力と争うことは考えていません。そのため、領地という形で私たちの支配地域が増えることはないと思います。」
「なんだと!?」
ワーウルフが吠えた。他の主たちも、僕の発言に驚いているようだ。
魔王が他の土地を奪わないって言っているんだから、そりゃ驚くか。
「それじゃあ、今までと何も変わらないじゃねぇか!!」
なおもワーウルフが僕に怒号をあげている。そんなワーウルフに目を向ける。
「変わらない、ということはないです。私たちに争う意思がないことを示して、相手と共生の道を探します。そうすることによって、今までの状態からの変化を目指します。」
「共生…だと…!?」
僕の言葉に、先ほどよりも大きなどよめきが起こる。
戦わずに共生する。
僕の知っているゲームや本の中に、こんなことを言っている魔王は一人もいなかった。きっと世界でも僕一人だろう、まぁこの世界には魔王は僕しかいないんだろうけど。
「お前は、いったい何を考えてるんだ!?偉大な魔族である俺たちに、下等な奴らと仲良しこよししろだと!?ふざけるのもいい加減にしろっ!!」
叫ぶワーウルフ。しかし、
「今、なんと言いました…?」
「あ!?」
彼が、聞き逃してはいけないことを言ったのを、僕は確かに聞いた。
「今、自分たちを偉大だと、そして相手を下等だと言いましたか…?」
「それの何が問題なんだ!!」
「貴方の考え方は、確実に魔族を滅ぼします。」
はっきりと言い返した。
「なっ!?」
突然言い返されて、ワーウルフが若干怯んだ。
「他にも、同じように考えている方がいるかもしれないので、ここではっきり言っておきます。さっきのような選民思想は捨ててください。自分や、魔族に誇りを持つのは構いません。寧ろ自信に繋がるので良いことだと思っています。だけど、不必要に相手を貶めて考えるのは、ただの慢心です。それを持っている限り、魔族が現状から変わることはないと、僕は考えています。」
思わず勢いで言ってしまった。まぁ、いつかは話さないといけないと思っていたことだから、ちょうど良かったのかな。
「では、主様はどのようにして共生の道を作るつもりか?」
と、レッドドラゴンが僕に目を向けて聞いてきた。
「そうだね~、それがわからないとどうしようもないものね!」
フェアリーも、背中の小さな羽でふわふわ飛びながら、僕に話の先を促す。
他の参加者たちも、僕の話に興味を示しているようだ。ワーウルフは相変わらず不機嫌そうだが、今の室内の空気を読んでか今は黙っている。
「わかりました、ではお話しします。」
そう言って、僕は説明を始めた。